2008/5/23 「シブヤ大学」の若き学長の 情熱物語

013t_08052301.jpg 今週は・・・新しい形の学びの場「シブヤ大学」の若き学長の 情熱物語。 その大学には校舎がありません。決まった教師もいなければ学生の参加も自由で、学費は基本的に無料です。大学の名前は、「シブヤ大学」。渋谷は、カタカナでシブヤと書きます。学長は、左京泰明さん。

普通の学校法人とはずいぶん違っています。名前のとおり、渋谷区全体をキャンパスと見たてます。だから、その中にあるあらゆる場所はすべてキャンパスです。商業施設も、公園だったり、公民館だったりが舞台になります。生徒は誰であってもいいわけです。先生はどうなるの?ってことですが先生という肩書きを持った人がいるわけでなく、場合によってどんな人が先生になってもいい。渋谷の町にはデザイナーさん、クリエイターさん、IT関係の方、いろんな分野の方がいらっしゃいます。そういうみなさんに先生をやっていただけばいいじゃないか。

渋谷の街をキャンパスに。先生は、渋谷で働く 様々な分野のプロフェッショナル。そして 街を行き交う誰もが学生になれる。このアイディアが生まれたのは、2004年のことでした。 発案者は、渋谷の区議会議員でゴミ拾いの活動をするNPO「グリーンバード」の代表でもあるハセぺケンさん。当時、のちに初代の学長となる左京さんは、商社に勤務されていました。しかし、このとき、左京さんの胸には 情熱の炎が燃え始めていたのです。

013t_08052302.jpg ひとつヒントだったのが、2004年のノーベル平和賞なんです。ワンガリマータイさんがグリーンベルトムーブメントで受賞されました。これは環境保全活動なんですが、その裏でビジネスとしてもいい仕組みがあったんです。この活動に参加しているのは、立場の弱い女性でした。生活に困っている女性。ですが、この活動に参加することで収入を得ることができる。生活が安定し、教育を受けることができる。こういうことでアフリカ全体にこの活動は広がっていきます。社会にとっていいこととビジネスは両立するんだな、と思ったんです。これを見たときにわくわくしたんですね。自分もそういうことをやってみたいと思いました。

社会のためになることと経済活動を両立させたい。地球を、街を、そして人の暮らしをより良くする仕組みと ビジネスに同じベクトルを持たせたい。そんな想いを胸に、この年の秋、左京泰明さんは商社を退社。そして、シブヤ大学設立のキーパーソン、ハセベケンさんと出会います。左京さんの想いと、大学のコンセプトが 渋谷の街でぴったり重なったのです。シブヤのいいところと、大学のいいところをどちらも取り入れる。生徒は先生にもなることができる。授業は街のどこで行われてもいい。これまで誰も考えたことがなかったアイディアだけに、開校までには いくつものハードルが待ち構えていました。どんな授業をおこなうのか? 教室はどこにするのか?学生はどうやって集めるのか? そして、大きな問題、、、資金はどうするのか?

今では成果もあがっていて、こんな授業がありますとか、説明もしやすくなりましたが、そのときはまだイメージでしかないので。こうなると思います、、、としか言えなくて。でもうれしかったのは、おもしろがってくれた人が多かった。あともうひとつ発見だったのは、普段、渋谷の街に働かれている人で渋谷に感謝している人が多かった。何か渋谷に恩返ししたいと思っている人が多かったんですよね。これは大きかった。

渋谷を愛する人、シブヤ大学のコンセプトに共感した人々が次第に集まり、それぞれの想いがつながっていきます。そして、迎えた2006年9月2日、シブヤ大学開校。学長の不安をよそに、開校式の朝、会場の外には行列ができました。それから1年半。。。ホームページに掲載されているラインナップにはさまざまな授業が並びます。「一杯の美味しいコーヒーができるまで」「体育の時間 ボウリング初級編」「男の着こなし白書 スーツの着こなし講座 初心者編」「ぼくと戦争と無力感とはいえ、できることを探して」「こども限定 あたまがきになる」

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僕らが授業とする内容というのは、日々生活していくなかでいろんなことと出会うわけじゃないですか。仕事もそうだし、衣食住、あるいは社会的なインフラとしての行政だったり、政治だったり。消費行動でもいろんなものに出会います。そんなシーンを切り取っていくとその場面場面で学びはあると思います。シブヤ大学がシブヤ大学である理由は、何かを学ぶ機会だと思うしいろんな人と出会う機会であると思うんですね。目には見えないんだけどその街の誰もが知っているサービスに学校になっていければいいなと思ってますけど。

これまで先生になった方の数は179人。授業に参加した学生の数は、のべ7000人以上。シブヤ大学は 確実にその輪を広げています。この広がりの原動力となっているのは、学長の左京泰明さんが 商社をやめて新たな一歩を踏み出したあの日に感じていたことなのかもしれません。

最初会社をやめ、なんかすごく不安におそわれたんですよ。でもそのとき何を考えたかというと、これは間違った道なのかなと思ったときに、ここまで出会った人を思い浮かべたんですね。この決断をしなければ出会えなかったであろう人たちをひとりひとり思い返すと、なんだかそれは正しい道のような気がしました。なんか道しるべのような気がしてきたんですよ。出会いは人生の道しるべ、なんてよく言いますけど、「出会い」は大事にしていますね。

人と人をつなぐ場所として、人と街をつなぐ存在として、シブヤ大学の授業は続きます。