今週は・・・ハワイ島のマウナケア山頂、標高4200mという富士山の山頂よりもさらに高いところにある、日本の天体観測施設、「すばる望遠鏡」のHidden Story。
宇宙、そして時間の概念の起点である「ビッグバン」がはじまって、137億年が経過します。つまり宇宙の果ては137億光年の彼方。そのとてつもない空間の全容を解明しようと、世界中の研究者がしのぎをけずってきました。「すばる望遠鏡」は、日本の威信をかけた国家プロジェクトとして、80年代から計画がスタートし、1991年に着工。8年間もの期間をかけて建設が進められました。外から見ると、建物の形は、お茶を入れる缶のようなものなのですが、この設計に決まった理由、国立天文台 ハワイ観測所の布施哲治さんにうかがいました。
ドームというと雨風しのげばいいというのが今までの考えだったんです。 望遠鏡の動きというのは、一定の動きですから、ミニマムの動きは富士山レー ダーのような半球でいいんです。しかしよく考えると、その形だと望遠鏡周辺 で余計な風の動きや、空気がよどむということになり、結果的に映像がシャー プにならなくなるということが、風洞実験でわかったんです。
すばる望遠鏡は、大きな鏡に天体を映す反射望遠鏡です。遠くからの微弱な光を集めるために、単一の鏡としては世界最大の口径8.2mをもち、解像力の高さは 世界の大型望遠鏡の中でも、最高レベルの評価を今もキープしています。
世界一のモノを作るには、世界一のモノ作りからスタートする。ですから すべてにこだわっています。日本が作るといえば、日本の中で全部閉じて作り たい、日本国内でなんとか済ませたい、それでは追いつけないんですね。日本 じゃ作れない、経験がないから技術がない、そういう部品。メインのガラスが そうだったんです。直径8.2メートルで暑さ20センチのガラスなんですよ。言 って見れば比率としてコンタクトレンズみたいなものです。ペラペラですから 目には見えないほどの曲がりぐあいなんですが、それでも温度の変化でガラス が膨張したり、伸縮したりすると、焦点がずれてしまうんです。
直径8メートルあまりのガラス。これが25メートルプールとほぼ同じ大きさで、重量は500トンという、すばる望遠鏡の心臓部分です。この表面にアルミニウム・コーティングを施して鏡にするのです。観測のために本体を傾けることで 変形しないよう、鏡のたわみを修正する装置を裏側から取り付け。また室温も、夜の気温を想定して昼間から それに合わせて冷房。直径8メートルで薄さ20cmの鏡を、10万分の1ミリという精度で維持し続けるために ありとあらゆる智慧と技術が使われているのです。 すばる望遠鏡がハワイ島マウナケア山頂に設置された理由は年間での夜の晴天日数が240日もあり、街の灯や大気中の水蒸気による空気のゆらぎが少ないことでした。さらに、CCDカメラの性能向上や、空気のゆらぎすら打ち消してしまう装置の開発が現在すすめられています。しかし世界水準は、さらに大きな反射鏡を使った望遠鏡の開発へと動いています。
これからの望遠鏡。これからの大型プロジェクトは、ある意味予算的なも のも含めて、一国では出来ないんですね。30メートル望遠鏡は1000億円はかか るというプロジェクトですから、どこかの国の国家予算に匹敵するお金をひね りだす、というのは厳しいですものね。そういう意味では、これからは、共同 開発、共同研究をしていかねばならない。 これは実はアメリカでもおんなじなんですよ。アメリカもパートナーを求めているということです。
軍事目的の宇宙開発競争の時代を経て、今の時代に巨額の投資をする理由。そしてその情熱とはいったいどこからくるのでしょうか。すばる天文台の布施哲治さんはこう語ります。
いままで知られていない世界を知りたい。それは研究者の本心。実はそれ は人間としての、知的欲求です。知らないものを知りたいというのは、見えな いものを見たい、手の届かないものを取りたいという、赤ん坊からしてもそう ですね。そうするにはどうするか、今までやっていないことをやる。今までに ないものを見る。それには今までにないものを作るしかないんです。
有史以前から、人類は星空にさまざまな思いを託してきました。コペルニクスが唱えた地動説。天体望遠鏡の発明。それらを経て今では137億光年という宇宙の端の一歩手前、何と128億光年にある銀河まで、すばる望遠鏡で見ることが出来るのです。しかしその先にある9億光年分は宇宙の始まりの瞬間。世界中の研究者と共に日本の研究者のあくなき挑戦はまだまだ続きます。