今週は・・・水で焼くオーブン「ヘルシオ」の開発秘話。
2000年の春、シャープ株式会社の開発スタッフが数名 集められました。そこでひとつの命題が与えられたのです。それは、「これまでにない加熱調理機を作ること」。当時、電子レンジは単価が徐々に下がりつつあり、市場は停滞していました。「速い、簡単、便利」、、、それまで核としてきたそうしたキーワードから離れまったく新しい価値観を持ったモノ、、、開発チームは、「それ」を探し始めたのです。
開発者としては、何かないかな、何かないかなと試行錯誤してたわけなんです。そのときに、ちょっと面白い加熱方式があるなと分かってきたんです。何かというと、業務用に使われているもので、加熱水蒸気方式っていう、そういったものがあるなというのが分かりまして。で、次に、それを専門に研究しているところがありましてね。山口県の産業技術センターというところでして。
水蒸気で加熱するという方法が存在する。開発者たちは、すぐに山口へと飛びました。山口県の産業技術センター。そこでおこなわれていたのは、フグの殺菌に過熱水蒸気を使う研究でした。
実際、フグの干物ですかね、それを過熱水蒸気で焼いているのを見させてもらって、、、見たら、表面がこおばしくてめちゃめちゃおいしそうだったので、それを焼いているのを「これ、食べさせてもらえませんか」とお願いして。そしたら、表面はバリっとこおばしくて中はホワホワで「めちゃめちゃおいしいやん」ということになりまして、これはいいと。それでスタートしていったんですね。
フグのおいしさが決め手となりました。この技術を家庭用の商品に使えないだろうか。それにはまず、根本的な問題から解決しなくてはいけません。なぜ、「水」を使って、食品を焼くことができるのか?その仕組みを解明するため、試作機が作られることになりました。
水で焼くオーブン「ヘルシオ」、、、その開発のために 最初におこなわれたのは、なぜ水でモノが焼けるのか?そのシステムを解き明かすことでした。
普通、水蒸気で食品を加熱したら、水っぽくなるのでは?と思いますよね。ちょとずつ分かってきたのが、水蒸気は100度をこえると過熱水蒸気になって、それは「熱量」を持っているんです。その過熱水蒸気が冷たい食品にあたると、水に変わるんですが、そのときに、1グラムあたり539カロリーの熱が食品の中に入り込むんです。入り込んで、食品の表面が100度になった時点で、水蒸気が水に変わらずに、気体のまま、食品を焼き続けるんです。
これまでのオーブンが最初に表面を焼き、熱伝導で内部をあたためていくのに対し、過熱水蒸気は、まず食品の内部に「熱」として入り込み、そのあとで表面を焼いていたのです。これが美味しさとつながっている。およそ2年をかけ、開発チームはそう結論づけました。しかし、本当の壁は この先に待っていました。試作機は、使用電力も 物理的な大きさも 家庭で使うには大きすぎたのです。
噴射口のところに何かヒントはないかな?という話をしていたなかで、食品にどこでもいいから当てるというのではなく、食品にめがけて当てるというのが効率的だろうと。そして当たったあとの水蒸気をもう一度リサイクルして当てたらどうだと。それだったらいけるんじゃないかと。
ここで浮上したもうひとつの問題。上からだけ水蒸気を当てていたのでは、食品の「下」の部分が焼けない。調理実験をしていたスタッフからあがった声にこたえ、過熱水蒸気は、側面からも噴射されることになりました。そして、来る日も来る日も さまざまな食品で調理実験。なんでも、ひとつのメニューにつき、100回以上の試作がおこなわれたとか。開発開始から4年。2004年の9月、、、ついに、ヘルシオの1号機が世に出ることになりました。シャープ株式会社の北川秀雄さんはそのときのことをこう振り返ります。
今までにないものですよね、今までにないものをひとつひとつ課題をクリアしていって、それもひとりの人がやるんじゃなくて、そのときそのとき携わる人が増えていくわけですよね。それで課題をクリアして、これまでにないものを作り上げる。開発者みんなが思ったことは簡単にあきらめずに、作り上げていくことによって、みんなが喜ぶ商品になっていく。それは思いましたね。
ひとりひとりがあきらめずに それぞれの課題をクリアしたこと。「ヘルシオ」を世に送りだしたのは、新しいものを作る!そんな強い気持ちがつないだリレーだったのです。