今週は・・・今、ランナーを中心にたくさんの人に愛用されているスポーツウェア、ワコール「CW-X」の開発秘話。
街を走るランナーの足を黒のスパッツが包んでいます。太ももの部分から膝の下まで クロスされたラインがくっきり。
今、売れに売れているのが、足をサポートするスポーツウェア、「CW-X」です。
あのイチロー選手も愛用する「CW-X」
作ったのは、下着メーカーとしておなじみの「ワコール」。
開発が始まったのは、1980年代後半。 きっかけは ごく身近な人の声でした。
研究所のスタッフの妹さんがスキーでひざをケガしたんですけど、そのときに、お医者さんにテーピングをしてもらうんですけど、専門の方にしてもらわないといけないし、費用もかかります。
これをはくだけで何とかできないか、ケアできるものがないかというのが、アイディアのきっかけなんです。
ワコールは、独自の研究所を1960年代、京都に開設。
以後、バストアップ、ヒップアップなど 体の形を整えるためのアンダーウェアを中心に開発が行われてきました。
しかし、1980年代後半以降、「健康」への関心が急速に高まります。
スポーツによる体の問題を抱える人も増加。
ワコールは、それを着るもので何とかすることができないかと考えていました。
そんなときに、スタッフの一人が話題にしたのが、スキーで妹さんがヒザをいためた、という話。
スキーブームだったんですよね。ブームと同時にひざをいためる人が多かったんです。で、整形外科的にもひざが一番故障しやすい。じゃあ、ひざでいこう、ということで始まりました。で、テーピングの施術の本とかありますよね、それを見てデザインしたんです。はいて運動することによって予防にもなるし、いためた人もあまり負荷がかからないようにする、これを目標としました。
はくだけで筋肉がサポートされ、ケガをしにくい状態に。 さらには、スポーツで足をいためた人には、できるだけかかる負荷を少なく。 商品の方向はしっかり定まりました。
しかし、これまでにはないモノを作る挑戦。 もちろんスムーズには進みませんでした。
いつもインナーを作るときはモニターさんがいて、モニターさんに付けていただいて、着てみての感想を聞くんですね。今回の場合は、なかなか「疲労軽減感はありますか?」とか聞いてもなかなかでてきません。で、主観を聞いて、ブラジャーとかの場合は、バストがアップしたかと計測する3次元の装置があるんですが、今回は何ではかろう?ということになって。
そこで苦労しました、とっても。
「スポーツをする人のヒザを守りたい」そんな発想で開発が始まった商品。
ワコールの「CW-X」。
藤井孝子さんをはじめとする開発チームがぶつかった、「その効果をどうやって測るのか」という問題。
それまで使ったことのない機械、心電図ならぬ「筋電図」筋肉の状態を測定する装置を導入し、実験がスタートしました。
かなりいろんなスポーツメーカーというのはあるんですが、衣料でそういうことをするメーカーはどこの国にもなかったんです。だから、そこは先駆者だと自負しています。
モニターさんがスクワットを300回。そして筋電図をとる。
さまざまなデザインでこれを繰り返し、CW-Xの構造が固まっていきました。
ちなみに、CW-Xの大きな特徴となっているクロスしているライン。
この部分が筋肉をしっかり支えてくれるのですが、ここで使うことになったのは、ワコールならではの素材でした。
本体はレオタードとか、スパッツとかに使っているやわらかい素材ですね。
そして、ひざのまわりとかパワーのある素材は、インナーのガードル、パンツなどで使っているサテン調パワーネットという素材です。
それから、ならではということでいうと、体のデータがあって、テーピングというのはその方用にテープするんですが、これは既製品でありながらいろんな方にあわないといけないので、体のデータとそのデータから ぴったりしたものを作るというもので。
アンダーウェアのメーカーとして、それまで蓄積していた膨大な体のデータ。これが大きな武器となりました。
「CW-X」は、1991年、発売開始。 そして、時は流れ、2000年。 ワコールの社内は驚きに包まれることになります。
メジャーへ移籍する直前、イチロー選手がトレーニングする写真。
イチロー選手がはいていたのは、「CW-X」だったのです。
そのときに、ヒザ上の丈のものを着てらっしゃったんですけど、ここに落ち着いてほしい、というところから上に落ち着いていた。
つまり、短かかったんですね。嬉しかった反面、「サイズがあってない」と思いまして「えらいこっちゃ」と。
早速、連絡をとって 計測をさせてくださいと。
試合中、イチロー選手がボールを追いかける写真で、ユニフォームの太ももの部分にうっすらとすけて見えるクロスライン。
それは、CW-Xのあのラインです。
「そんなところ私しか見ていませんが」と笑う藤井孝子さん。
その笑顔は開発者の誇りに満ちていました。