今週は、阪神・淡路大震災が発生した日、1月17日を前に、防災意識を高める地図「震災時帰宅支援マップ」のHidden Story。
中央防災会議によると、首都圏で直下型の大きな地震が発生した場合、職場や学校などから自宅へ帰ることができない「帰宅困難者」はおよそ650万人。
自宅までどうすればたどりつけるのか?
昭文社が「震災時帰宅支援マップ」を最初に発売したのは2005年8月のことでした。
ちょうどその前年の2004年の年末あたりにスマトラ沖地震とか中越地震とか大きな地震が頻発しまして、弊社、昭文社のなかでも地図の会社として何かできないかということで話し合いがスタートしました。 「はじめは、あくまで防災マップとして何かできないか」ということで、当初は歩いて帰るというところまでは想定してなくて。
当初考えていたのは、避難場所などが記してある「防災マップ」。
しかし、ひとつの出会いが地図の性格を変えていきます。
昭文社の中島辰哉さんをはじめとするスタッフが訪れたのは、NPO法人「危機管理対策機構」。
ある企業が独自に作っていた 社員のための帰宅支援マップ。
中島さんはこれを見てハッとしました。
中島さんが専門としていた登山用の地図と帰宅支援マップには共通点があったのです。
それは、「実地調査に基づくコメント」。
実際に道路を歩く調査が始まりました。
震災時帰宅支援マップ。
それは、都心から郊外への歩いて帰る道筋を示す地図。
これを作るには やはり、すべてのルートを歩いてみる必要がありました。
東京都が指定する「帰宅支援対象道路」をもとに、12のルートを決定。 チームのメンバーがそれぞれの道路を歩きました。
10人のメンバーで分担して、1ルート2日から4日ほどかけて歩きましたね。
空梅雨で、けっこう暑かったですね。
とりあえず、原稿を作成してもらったんですね、各ルート。
石垣だとかブロック塀、ガラスばりだとか、そういう項目はあらかじめ伝えておいて、「あとは全部拾ってきて」という感じで。
危険箇所でいうと、看板とか放置自転車。 自販機ですね。
集まったデータを元に 地図の作成が進みました。
危険箇所、水飲み場などを書き込むため、通常の地図にはあるビルの名前などはカット。
そして、普通の地図との最も大きな違いは、地図の上が「北」ではなく、「進行方向」になっていることです。
そういう緊急時、混乱時に手にもって歩きやすいように、進行方向を上にしたんですけど。通常、地図というのは上が北だ、というのが常識なんですよね。 上が北という地図にしてしまうと、地図を回転させたり、ひっくり返して見る必要がありますので、道路、帰宅支援道路を歩くことを主眼に置いた地図ですので。
地図の世界の常識をやぶった、上が北ではない地図。
2005年8月に発売すると、その後2ヶ月で57万部を販売。多くの人が手に取りました。
大げさにいえば、社会の意識が変わったというのをすごく感じました。 コンビ二とかガソリンスタンドだけでなく、飲食チェーン店が「食糧を提供しますよ」ということにもなってきて、社会が変わったなと感じたんで、影響力のあるものを作ることができて、それはやりがいがあったなと感じましたね。
その当時は、まだまだ浸透していなかった「帰宅困難者」という言葉を多くの人に広め、防災に対する意識を高めた「震災時帰宅支援マップ」。
毎年、スタッフがルートを歩き直し、地図は常に更新されています。