山形県は置賜地方。四方を山で囲まれた盆地の、米沢市郊外から、東に登る朝日を望んで彼女は大きく背伸び。
そして心に決めました。質素でも健康的な朝食を食べよう。
だって、何かいいことが起こりそうな、そんな気がするから。
太平洋側から山形県に抜ける山形新幹線と国道13号線。
その通り道に当たる盆地の置賜地方は、一日の寒暖の差が大きく、冬になると日本海側からの季節風の影響を受ける、豪雪地帯です。
今でこそ、米沢牛の産地として有名ですが、江戸時代にここを治めていた米沢藩は、徳川家康に敵対した上杉氏のもとで、苦しい台所事情を余儀なくされていました。 そこへ飢饉が襲い、住民が餓死の危機にさらされます。
そんな大ピンチに時の藩主で歴史的名君として有名な上杉鷹山が、コメが凶作でも代用食となる動植物と、その調理法をまとめた「かてもの」という書物を作らせ、これを配り、住民に周知徹底させました。
コメや麦以外の植物で、主食の「かて」となる82種類の植物をあげて、その食べ方を記し、食べてはいけない毒になる植物も詳しく書かれています。
また味噌のさまざまな製造法、普段から栽培しておくとよいもの、数年間保存できる干物、そして魚、鳥、獣の肉などについても触れられています。
この本、いわばマニュアルのおかげで、その後の天保の大飢饉で米沢藩からは餓死者を出す事がなく、郷土野菜、郷土料理として後世に伝えられました。いまでも置賜地方の伝統野菜とされる雪菜、おかひじき、高豆くうり、そしてヒメうこぎなどなどがそれに当たります。
最も有名なのが「うこぎ」。
垣根にすると、とげのある葉っぱが、敵の侵入を防御する効果もあります。
おひたし天ぷらなどとして食べられるということで、上杉鷹山の時代、今から約200年前に盛んに栽培が奨励されました。
今でも置賜地方には、家の周りを「うこぎ」で囲うところが多く、その総延長は20kmとも言われています。
その葉っぱをシンプルに調理。
当時から伝わるのが「うこぎの味噌和え」。
ゆでた「うこぎ」を水にさらし、細かく乱切りにしたものに味噌を加えて、さらに細かく刻んだもの。
独特の強い香りと味が、あつあつのご飯にマッチします。
朝の食卓にならぶのは、こうした緑黄色野菜と、お吸い物。
ベジタリアンというよりも、質素な食材。 ビタミンやミネラルがふんだんに含まれ、健康食の典型といえそうです。
苦しい財政において、自ら白米を食べず倹約を実行した上杉鷹山。
家臣をまとめて、財政を立て直したことで、政治家からも高い評価を得ています。
しかしそれだけではなく、厳しい自然でも食べられるものをまとめて、自給自足するよう促して、飢饉をしのぎました。
不況だと言われるのに、飽食で不健康だと言われる現代の食生活。
「かてもの」に温故知新があるかも知れません。