今週は、新しい冷凍技術、CAS冷凍。
それはどんな技術なのか?
そして、開発者が願う日本の食の未来とは?
日照時間が不足し、野菜や米の不作が心配された今年の夏、ある技術に注目が集まりました。
食材をいったん冷凍、その後それを解凍した際に「生」のままの状態を再現する技術。
CAS冷凍と呼ばれるものです。
ミシュランの料理人、あるいは和食の料理人から、「生」と変わらない技術開発をしてくれと言われたんです。 穫りたて、作り立てに戻してほしいと。 そうしますと、過去90年間、冷凍の技術は、凍らせて保存する、という技術以外何もないんです。 私は、凍らせる技術開発じゃなくて、解凍したら生きて行くという組織を活かすという技術開発をしたんです。 だから急速冷凍を開発したんじゃなくて、組織を活かすということの開発をしているわけです。
「CASとは“細胞を活かすシステム、Cell Alive System”を略したものです」
そう語るのは、株式会社アビーの代表取締役社長、大和田哲男さんです。
では、どうやって組織を生かしたまま冷凍することが可能になったのでしょうか?
急速冷凍装置内に、パルス磁場を発生させる装置と低周波の発生をして、それをコントロールできる機能が本体に入っていると。 その機能が、食品内の水の分子をより集めなくして凍結すると。 水の分子ひとつでも凍結する際に膨張します。 CASを使うことによってそれがなくなるために、穫りたて、作り立ての味に戻るというのはそこだと思っています。振動を与えるというのが、食材中の水分を動かすということで、細胞がこわれにくい状態を作っています。
水分子を動かすことで、凍らない状態で、できるだけ低温まで持って行きます。
そうすると、外側だけでなく中心までしっかり温度が下がった状態になります。
中心と外側と温度が下がった状態で、一気に凍らせるという。
アビーが注目したのは、細胞の中にある「水」でした。
冷凍する際、水が膨張し集まって 細胞を傷つけてしまう。
つまり、解凍した際に、生のときと同じ状態には戻らない。
ならば、冷凍するときに、細胞内の水がギュッと集まらなければ細胞はこわれないのではないか?
パルス磁場と低周波。 この導入が功を奏しました。
冷凍する際に水の分子を振動させることにより、細胞を傷つけずに凍らせることが できたのです。
新しい冷凍技術、CAS冷凍。
これを開発したのは、千葉県流山市にある 株式会社アビーです。
社内に設置されたCAS冷凍装置のなかには 驚くべきものが入っていました.
例えばここに泥付きのさといもがございます。
今までさといもの冷凍品といいますと、ボイルした状態で凍結してあるんですね。
それは、加熱調理したときに、生のものを凍結すると芯が残った状態になる。
でも、CASで凍結したものなら、芯まで火が通ります。
こちらはポルチー二。
香りが高いことで有名なきのこですが、これもCASなら解凍すれば香りがあがってきます。
生の野菜や果物をそのまま冷凍。 そして解凍すれば生の食感や香りが蘇る。
アビーの大和田哲男さんは、こう考えました。
「とすると、これは、農業をはじめとする一次産業の大きな助けになる」
私どもの機械でやりますと、野菜でも何でも2年でも3年でも保存できますから。 だから台風がきましたとか、天候不順で作物がとれなかった1年があっても、保存しておけばいつでも出せるよと。
さらに、CAS冷凍によって、地域を元気にできないだろうか?
夢は広がります。
今、地方は職場がないから若い人たちが大都会に来る。 今、若い人たちを田舎に、ということじゃなくて、資源を一番有効に作れるところに戻そうよ、と考えているんですね。 若い人たちの年俸が500万、600万とれるようになると、家族が養えますよね。 私は地方に職場を作って、若い人たちが戻れて、そうすると何が出てくるかというとかわいい赤ちゃんの声が聞こえる。 これは地域にとって大事なことだと思います。
取材時間を大幅に過ぎても、大和田さんの話は止まりません。
地域を活性化させるために、CAS冷凍を使って どんな仕組みが考えられるのか?
大和田さんが思い描く、理想のシステム。それは、
加工工場で 調理までやって、それをCAS冷凍で凍らせて出荷する。
そうすれば、食材の無駄も出ないし、例えば、東京ではゴミとなってしまう野菜の皮も肥料として畑に戻すことができる。
限られた食材を大事にするための技術として、CAS冷凍は大きな可能性を秘めているのです。
このCAS冷凍の技術、医学界からも注目されていて、医学に応用できないかと、今、いくつかの大学と共同研究が進んでいるそうです。