石川県の能登半島、その半島の北側に位置する輪島。
まだ凍えるように寒い北風に向かって、彼女は大きく背伸び。
そして心に決めました。ごはんとみそ汁の朝食を摂ろう。
だって、何かいいことが起こりそうな、そんな気がするから。
輪島といえば、きらびやかな金の蒔絵(まきえ)などが施されているにもかかわらず、丈夫で実用的な輪島塗の漆器が伝統的工芸品として有名です。
ウルシがよく採れ、材料の木も豊富、そして湿度が高目の天候が、漆塗りの乾燥のために程よい、ということが、この土地で発展したという理由だと言われています。
歴史は考古学調査でも追いつかないほどにさかのぼるようですが、複雑な工程を経て精密に作られる現在の様式は江戸時代に確立され、お箸や、お椀、重箱などなど、食に関する道具として世界的な評価を得ています。
輪島の朝市は一千年以上の歴史を持っていて、そもそも物々交換を行ったことがその起源とされています。
最初は神社の祭日ごとに市が立ったものが、しだいに大きくなり、毎日行われるようになり、全国から人々が集まるようになったとか。
河井町の朝市通りには、夜明けとともに近隣から魚や野菜を運んでくる、農家や漁師のおかみさんたちが次々と露店の準備をはじめます。
朝8時にもなると乾物、洋服、骨董・民芸品などバラエティ豊かな商品を売る200近くの店が軒を連ねます。
不思議な事に「値札」があまり付いていません。つまり値段は交渉しだい。ここでコミュニケーションが生まれるのです。
あたたかいご飯とみそ汁。それだけで十分かも知れませんが、やはり欠かせないのは、漬物でしょう。
能登では「べん漬け」と呼ばれる一風変わった漬物があります。これはヌカのかわりに、「いしり、又はいしる」と呼ばれる魚醤、つまり魚のエキスを発酵させて作った調味料を使って、大根、ナス、キュウリ、ワラビなどをつけ込んだもの。
特に大根の漬物をあぶって香ばしくしたものはこの地独特の食べ方です。
漬物から磯の香りが…。
朝からご飯がすすむのです。
ベン漬けに使われる魚醤の「いしり」。
これはイカの内臓やイワシを原料として古くから造られていて、秋田の「しょっつる」と並んで有名な古くからの調味料です。
ホタテの貝殻を器にして、だしで季節の野菜や白身魚を煮込んで食べる「貝焼」というのもまた地元ならではの料理です。