今週は、このゴールデンウィーク、手に取る方も多いでしょう!
旅のガイドブック「地球の歩き方」の誕生秘話。
旅のガイドブック、「地球の歩き方」。
誕生のきっかけは、ひとりの青年のひとつの旅でした。
旅人の名前は、西川敏晴さん。
「地球の歩き方」を創刊した その人です。
学生時代にバックパッカーとして、横浜から船に乗ってシベリア経由でヨーロッパに行き、アメリカのヒッピーの人たちと一緒に旅をし、帰りはユーラシア大陸の南側を、ちつまりトルコ、イラン、アフガニスタン、パキスタン、インドとめぐり、タイと香港で一泊ずつして日本に戻って来たという、私自身の学生時代の旅もベースになっています。
ときは、1970年から71年にかけて。
西川さんは、出版社「ダイヤモンド・ビッグ社」に入社する直前、バックパックを背に、3ヶ月以上をかけてユーラシア大陸を巡る旅に出ました。
入社直後は就職ガイドを担当しますが、やがて、旅行を扱う部門へ異動。
私の先輩がですね、今でいう卒業旅行ですね。「就職が決まったら、海外へ行こう」という企画をやりまして、学生旅行の仕事に引き抜かれたんです。
で、その学生旅行は何をやっていたかというと、まじめな語学研修とか、パッケージツアーだったんですよね、もちろんね。
それで、パッケージツアーとか、語学研修だけではつまらないだろうということで、自由旅行を学生に向けて啓蒙しようと。 学生らしい旅はバックパッカーであると(笑)
当時、世の中に存在したガイドブックは、パッケージツアー向けのものだけでした。
西川さんをはじめとする4人のチームが作ろうとしたのは……
自由旅行のガイドブックというのは、まったく違う情報がいるんですね。
何から何まで自分でやらなくてはいけないし、一番分かりやすいのは、どうやって地下鉄に乗るとか、バスに乗るとか……ホテルの予約なしに1ヶ月以上旅をしようという提案なんですよ。
1979年。
「若者よ、自由な旅に出よう」。
そんな想いをのせて創刊されたのが、「地球の歩き方」でした。
みんな、お金はないけど、時間がある若者は、一日も長く旅に出るべきである、という提案ですよね。
僕たちは、10代の後半や20代の前半に旅にでることは特別なことだと思っていたし、今でも思っている。
全部、失敗も喜びも、楽しみも何もかも、自分の血となり肉となる。
1979年に創刊された、2種類の「地球の歩き方」。
1冊はアメリカ編。長距離を走るグレイハウンド・バスでアメリカじゅうを旅しよう、という提案。
もう1冊は、ヨーロッパ編。 鉄道でヨーロッパを巡ろう、というそれまでにはなかったガイドブックでした。
モデルとしたのは、編集者・西川敏晴さんが、若き日にヨーロッパで出会った本でした。
当時、この地球の歩き方の参考になったのは、アメリカ人のアーサー・フロンマーという人が書いた「ヨーロッパ1日5ドル」という本がバイブルのように使われていました。
最初の自分の学生時代の旅のなかで、その本をアメリカ人に見せてもらって、パリで同じ本を買ったんですけれども。
経済に強いダイヤモンド・ビッグ社のなかでは、当初、「そんなもの、売れるのか」という声もあった「地球の歩き方」。
しかし、創刊されると、瞬く間に1万部が完売。
その後は、快進撃が続きました。
今や、全部で、およそ240タイトル。
そのガイドブックには、旅の情報はもちろん、もっと大事な何かが刷り込まれています。
宿が見つからなくて今夜どうしよう?という場面にもう何回も遭ってるけど、そういう困ったときに、どうするか? 選択肢をどういうふうに、今やれることの選択肢をどうやって見つけるかということが旅のなかで見つかってくる。
宿がとれないとき、夜行列車でこの街をあきらめて移動するとか、リュックサックをもう1回ホテル探しするとか、いろんな人に聞いてみるとか。すべて問題が起きたときに、選択肢を探すということが身に付いていると、トラブルがこわくない。そういうのも旅で身につく。
苦労しても、自分で旅してほしいなって思う。難しい政治のことを語る前に、現実を感じてくるっていうのもすごいことだよね。
いや〜、世界は広い、地球は広い(笑)
バックパックひとつで、旅に出てみないか?
若者へのそんな提案から始まった「地球の歩き方」。
最後に、創刊にたずさわった西川敏晴さんにうかがいました。
西川さんの仕事の哲学とは?
自分の得意技を磨いて行くことだと思うんだよね。
僕は、本を作ることも、情報を集めることも、旅をすることも、人とお話することも、全部好きなことです。
まあ、一部、苦手なこともあったかもしれないけど、いっしょうけんめいやって好きになりました。
それが仕事だと思うと、こんなにラッキーことはないって、ずっと思ってきました。楽しそうに仕事をするっていうことができれば、人間はいちばん幸福だと思うし、そうなるためにはとても努力しないと、そこまでいかないなとも感じています。
そういう環境を手に入れる、ってことだと思うんだよね。
「楽しそうに仕事をすることができれば、人間は幸福である。
でも、そのためには努力が必要である」。
旅の達人は、人生を楽しむ達人でもありました。