2010/7/9 映画『波の数だけ抱きしめて』。サウンドトラック・アルバムの誕生秘話

今週は、先日、長らく待たれていたDVD、Blue-Rayが発売になった映画『波の数だけ抱きしめて』。
サウンドトラック・アルバムの誕生秘話。

1991年に公開された日本の映画『波の数だけ抱きしめて』。
主演は中山美穂さんと織田裕二さん。
湘南のミニFM局を舞台に繰り広げられる、青春の物語。
映画『私をスキーに連れてって』、『彼女が水着にきがえたら』を手がけたホリチョイ・プロダクションズによる作品でした。

『波の数だけ抱きしめて』には、ミニFM局が登場するだけに、「音楽」は、どうしても外せない要素でした。

    

その昔でいうと「アメリカン・グラフィティ」というのがあって、アメリカの映画だと「スタンド・バイ・ミー」もそうですけど、音楽を中心に使って雰囲気を盛り上げるっていう映画が多かったんですよね。 そういうなかで、日本の若者、当時の若者の文化を表すときに音楽は不可欠だということで、脚本ができたんだと思いますね。

だから、一色伸幸さんか、それと馬場さんで基本的には選曲をしたというのを覚えています。 その選曲、こんなのがいいんですよ、というのを何曲ももらった記憶があります。

今回の場合は、洋楽ですからね、これをコーディネーションしてくれと頼まれたということですね。これまでにやったことがないんだけど、何とななりませんかね、という。
そこから格闘が始まったという思い出ですね。

サウンドトラックの製作について教えていただいたのは、株式会社フジパシフィック音楽出版の北澤孝さんです。
北澤さんのもとに、映画の監督である馬場康夫さんと脚本家の一色伸幸さんからひとつの相談が持ち込まれました。
「洋楽を映画に使いたい。しかも、ふんだんに」しかし、実は、そこには大きな壁が存在したのです。

日本の映画における音楽の制作費、音楽にかける予算というのは非常に低予算なんですね。

これで洋楽を使うということは「対予算で大丈夫か」というのがまずあるんですね。 というのは、洋楽を使う場合はその許諾を権利者、原盤だったらレコード会社、洋楽ですから本社ですよね、アメリカだったらアメリカ。
それから、あまりご存じないかと思いますが、出版権というのがあるんですね。 これは作詞作曲者の権利ですけど。 それは音楽出版社が持ってるんですけど、そこの許諾も必要だと。
そうすると、まずいったいいくらかかるんだ?と。
指値ですから、向こうが1,000万って言えば「はい」っていうしかない状況なんですね。

だからまず「お金がいくらかかるのかな」っていうのと、制作者から提示された予算が、あまりにも開きがあったので、それが驚いちゃったところですね(笑)

制作者から提示された予算と、見積もった金額にはあまりにも大きな開きがありました。
この予算だと、2〜3曲しか使えない。
フジパシフィック音楽出版の北澤孝さんは頭をかかえました。

91年の映画『波の数だけ抱きしめて』。
「映画のなかで、洋楽を10曲以上使用する」という、それまでにはなかった試み。
フジパシフィック音楽出版の北澤孝さんは提示された予算と、著作権の処理のためにかかる金額の差に愕然としました。

10分の1くらいにしなきゃいけないわけですよ。

悩みましたよ、本当に。 少しオーバーするかもしれませんけど最大限頑張りましょう、というところで、相談を持ちかけたのは、AORというジャンルの音楽を出していたソニーさん。 で、こういう話があるんだけど、何とかなりませんかね?という。

相談を持ちかけたレコード会社の担当者も首をひねりました。
その金額ではどうにもならない。
しかし、ここで、ひとつのアイディアが舞い降ります。

    

で、既成曲ですから、向こうに聞くしかないですからね。
「できるだけ安くなりませんかね」とは聞きますが、どうですかね……というところで出て来たのが「サントラを作ろう」というアイディアだったんですね。

サウンドトラックを作りましょうと。 洋画みたいな感じでいきましょうと。 あんな感じにして、そのサウンドトラックが出て、そのプロモーションをして、そのサントラをたくさん売ればソニーさん儲かるじゃないですか、というところで、原盤オーナーを説得してくれと。 単に映画で使うだけでなく、CDも作ってプロモーションするんですと。 だから、かくかくしがじかの値段でやってくれませんかという交渉を始めてもらったんですね。

撮影と同時進行で、海外との交渉が始まりました。

    

最初に3曲OKが出たと、それがTOTOの「ロザーナ」と、ジョン・オバニオンの「僕のラブソング」ってやつね、それから「You’re Only Lonely」これはJDサウザーですよね。
その3曲の許諾が出てすごく喜んだと。 それが最初の3曲ですけど……
それとね、今、レコード会社って、原盤の貸し借りしてるんですけど、ユニバーサルの曲を使ったりできるんですけど、その当時は貸し借りがなかなかできなかったんで、ソニー系の曲から選ばなきゃいけないというのがって……
あと、カラパナはソニーじゃなかったね、だから当時のサントラには入ってないですね。
確かポニーキャニオンだったかな。ただ、カラパナもね、タイトルを入れなきゃいけないってことで、絶対にマストだったんですよね。

映画『波の数だけ抱きしめて』。 その音楽について、タフな交渉を務めた北澤孝さん。
最後に、こんなエピソードも教えてくれました。

撮影はシンクロしてどんどん始まってましたから、曲のOKがとれたかどうかで、変わっちゃうわけですよ、内容がね。
だから、それこそ当時手に入れたばかりの携帯を使って、連絡を入れまして「とれました!」みたいなことをしたのを覚えてますね。