今週は、映画『トイ・ストーリー3』のアート・ディレクターを務めた日本人、堤大介さんのHidden Story。
この夏、大ヒットを記録している映画『トイ・ストーリー3』をはじめ『カールじいさんの空飛ぶ家』『ウォーリー』『ファインディング・ニモ』など優れたアニメーション映画を連発している「ピクサー・アニメーション・スタジオ」。
ここで「アート・ディレクター」として活躍しているのが、堤大介さんです。
実は、高校時代は野球に打ち込んでいたという堤さん。
絵の世界に踏み込むは、高校卒業後。
ご本人いわく「逃げるように日本を飛び出し、アメリカへ留学したとき」のこと。
ジュニアカレッジといいまして、短大みたいなところがありまして、若い人たちもいれば、結構、年をとった人たちが無料同然でカルチャークラスをとることができる機関があるんですね。 そこで……「英語のスキルがなくても取ることができる絵のクラス」を取ったのがきっかけなんですよ。
要は、絵のクラスの半分以上がおじいさん、おばあさんばかりだったんですよ。こっちのおじいさんやおばあさんってほめ上手で、ものすごくお世辞を言ってくれたんですけど、そのお世辞にまんまとのせられてしまって、才能がある才能があるって言われて、実は他の人にも言ってたんですけど、それにのせられてですね、「自分には絵の才能があるんじゃないか」と思ってやったんですね。
堤さんはその後、アメリカの美大に編入。
絵を学んだあと、「ルーカス・ラーニング」というジョージ・ルーカスによる 教育のためのゲームソフトを作る会社に入りました。
転機が訪れるのは、2000年。
もともと学生のころから絵本をやりたくてですね、同じ絵をかくのでも、ストーリーを想像させるような絵をかきたい、というのがあったものですから、アニメーションとか映画とかのストーリーを伝えるための絵をかくというのにあこがれがあったんですよ。
当時は、アメリカのアニメは衰退していたのであまり仕事もなかったんですが、ニューヨークでブルー・スカイ・スタジオっていう小さなスタジオだったんですけど、そこが今度映画をやる、というのを友達から聞いて、それで自分で応募しまして、そのブルースカイに移ることになるんですけど。
ブルー・スカイ・スタジオでは、『アイスエイジ』をはじめ、アニメーション映画の制作に携わりました。
7年後……1通のメールが堤さんの人生を変えることになります。
ある日、トイ・ストーリー3の監督となる、リー・アンクリッチ監督がEメールをくれたんですよ、直接。
それでアンクリッチ監督が、普段から僕が個人でやっているホームページがありまして、僕が油絵だとかイラストだとかを載せているホームページがあるんですけど、それを見て、「僕の絵を随分見ているけれど、光の使い方が素晴らしい、今度一緒に仕事をしたい」というメールをいただいて。 本当にアンクリッチ監督というのはこの業界では有名な方なので、いたずらかなと思ったんですけど……
彼から誘いのEメールをいただいて、行ってみようかなと思って、ピクサーに移ることになるんですけど。 実はですね、ピクサーのなかで、プロダクション・デザイナーの部門では一番偉い、ラルフ・エグルストンという「トイ・ストーリー1」のころからいるすごい人がいるんですけど、彼が僕の作品をピクサーの他の人たちに勧めていたというか。
これは聞いた話なんですけど、「ピクサーにいるべき人間でひとりいない人間がいるとすれば、堤大介だ」と言ってくれたそうで、それをきっかけにリーが僕の作品をウェブ上で見て、彼はこれまで共同監督だったんですけど、初めて自分で監督をするというときに、僕の作品を知っていたので、メールをくれたと思うんですけど。
堤大介さんは、ピクサーへ。
『トイ・ストーリー3』の制作チームに加わることになります。
映画『トイ・ストーリー3』で、アート・ディレクターを務めた日本人、堤大介さん。
アニメ映画のアート・ディレクターとは、どんなお仕事なのかと言うと……
要はですね、僕が受け持った部門というのは、光と色彩というもので、映画全体の光と色彩をどうあやつるかによって、映画のストーリーがどれだけ伝えられるか、という、アート・ディレクションを任されたんですね。
映画の初期の段階で、カラースクリプトと言って、訳せば色の脚本じゃないですかカラースクリプトとは。脚本は文字で書きますけど、色でですね、脚本みたいに映画全体のイメージボードを作っていくんですよ。それで映画全体を色と光と構図でどれだけストーリーを伝えられるかというのを絵にして表して行く、それを監督と何度も何度もキャッチボールしながらやりまして……
アニメーションって時間も労力かかるので、方向性が決まってないと、ものすごいお金がかかってしまうんですね。 ですから、「できるだけ初期の段階で僕の絵で方向性を決めてしまって、それをCGでフォローしていく」というのが仕事なんですね。
2007年5月からチームに加わった堤大介さん。
最初はもちろん、壁もありました。
外からですね、ピクサーみたいな、完全に自分たちで素晴らしいものを築いて来た会社に、外でやってきた人間が、ある程度重要なポジションに入ってくるということで、よく思わなかった人もいると思うんですね。 そのなかで、どうやって信頼を勝ち取っていくのかが一番難しかったですね。
やっぱり、この仕事は絶対チームワークなんで、このチーム、ピクサーのトイ・ストーリー3のプロダクションチームとどうやって心を通じあわせて一緒に仕事ができるかっていうのが、一番ぶつかりましたね。郷に入っては郷に従えじゃないですけど、ピクサーのやり方を徹底的に学ばせてもらいまして、自分と一緒に仕事をする人とはとことん会って、彼らのやり方を聞きました。 そうしたらピクサーのすごいとこはここだと思うんですけど、外からやってきた僕の、堤大介のやり方を学びたいと思ってくれた人も結構いたんですよね。
今やハリウッド映画の先頭を走る存在となった「ピクサー」で働く堤大介さん。
最後にこんな質問をしてみました。
ピクサーが素晴らしい映画を生み出す秘密。 どこにあるのでしょう?
外から見ていて、ピクサーだけ なんでこんなにすごい作品を作ることができるんだろう、と思っていたんですけど、来てみて、本当に全然違ったんですね。会社の組織のストラクチャーから、クリエイティブな環境を意識して作っている。会社で働いている人間が常に学んでインスピレーションを受けられる環境を作っている。これが秘密なんだなと思いましたね。
いろんなことがあるんですけど、最終的には、映画にかける「こだわり」だと思うんですね。
ブルースカイにいたときは、映画というものがいわゆるエンターテイメントというところでそれ以上、フィルムとしての芸術性を問うところまではいけないような……映画監督がつくりたいものをつくるのか、それともスタジオという大きな組織がお金を出してこれだけのお金が返ってくるという計算で作るのかで全然違うと思うんですよ。
ピクサーは僕が来たときにはディズニーという大きな会社に買収されていたわけですが、そのなかで、会社がこういうものを作ればこういう見返りがあるから、という作り方を全くしていないんですね。本当に、監督さんが、こういうことをこの映画で伝えたい、ということが大事にされる環境ですか、、、それを見て、クリエイターの意思が尊重されているんだなと感じましたね。
クリエイターの、監督の意思が尊重されるということは、監督さんの下で働いている美術監督であれ、アーティストであれ、影響してくるんですよね。
「伝えたいのは、どんなことなのか?」
ヒットの裏にあったのは、シンプルな問いかけでした。