今週は、小学生を中心に爆発的なヒットとなっているジュニア用スポーツシューズ「瞬足」の開発秘話。
瞬間の「瞬」に「足」と書いて、「瞬足」。
なんと年間630万足を販売する大ヒット商品です。
ターゲットは、主に、全国の小学生。
履けば運動会で速く走ることができる!
これが、「瞬足」が大いに受けた理由です。
作っているのは、アキレス株式会社。
今や、圧倒的なセールスを誇る「瞬足」ですが、その誕生前夜、2002年。
アキレスには、危機が訪れていました。
それまでうちが作っていた商品、ジュニアスポーツのブランドが売れなくなってきたんですね。 もう売れなくなったというか、シェア激減で、それでいろいろ手はほどこしたんですが、もう新しいブランドで、っていうのが発端ですね。
大人向けのスポーツブランドが、ジュニア向けの市場に参入。 さらに、量販店のプライベート・ブランドが台頭。
これに押されて、アキレスのシューズが売り場に占めるスペースが、どんどん小さくなっていました。
130万足ほど販売していたのが、半分近くに激減。
アキレスは、次の一手を打たなくてはならない状況に追いつめられます。
本社のスタッフ、全国各地の販売会社のスタッフが東京に集まり、新商品の開発会議が持たれました。
精鋭を呼んでやったんですよ。
議事録に残っているのは、スポーツシューズなんだけど通学履きである。 学校に履いて行って学校で生活する。 放課後も、帰ってからも。 かっこ良く言えば、子どものライフスタイルを分析したというか。 そこで何っていうのが、いろいろやったんですけど、「運動会」というのが最後に残った。
速い子はいいんだけど、運動が苦手な子もみんな走らなきゃいけない。 そのシチュエーションがみんな共有できた。 で、速い子も転んだりする。
じゃあ、走るのが苦手の子がこれを履いて、秘密のグリップ力があって転ばずに走れて、速い子が遠心力で転んじゃって、一等賞になった。 そういうのが面白いんじゃないかと。
そこから始まったんですね。
取材にお答えいただいた、アキレス株式会社の津端裕さんいわく、「一回の会議でコンセプトは固まりました」。
コーナーリング安定走行機能……左足の外側、右足の内側にスパイクをほどこして、と。
左回りのトラックで安定して走ることができるように、左足の外側と右足の内側にスパイクをほどこす。
2002年の終わり。 会議室にアイディアが舞い降りました。
ジュニア用スポーツシューズ「瞬足」。
コーナーを安定して走りきるために、左足の外側と右足の内側にスパイクをほどこす。 アキレス株式会社の社内も、このアイディアに手応えを持っていました。
しかし、スタートは決して順調ではありませんでした。
みんな割りとノッてくれて、「いけるんじゃないの」という感じで。
オーダーも最初からドーンと出たはずだったんですけど、最初のオーダーが6,000足で……だから作るところ探すのも大変で。最初の確定オーダーが6,000足でパートナーをさがしに行ったんですね、中国の。
これからどんどんオーダーが入るけど今はこれしかないんだけどやってくれない?って。
めんどくさい靴なんだけどって。 みんないやがりました。 値段は1,980円でって、作れる訳ないよって。 でも、1社だけやってくれたんですよね。
設計も大変だし……普通だったら片足作って反転させれば靴の設計って終わるんですよ。
左右対称なんで。 それがこれは全部やらなきゃいけないし、みんなパーツが違うんで。
で、手作業ですし。 値段はっていったら、希望価格が安いんで……
そして、もうひとつの課題。
足の裏の右側、あるいは左側だけにスパイクをつけると、コーナーを回る時はいいけれど、まっすぐ走るときはどうなるのか?
さらに、左回りではなく、右回りに走ったときはどうなるのか?
一番マックス飛び出ているところとアベレージの差が高さ1ミリなんですよ。 そして、スパイクの部分のゴムを柔らかくしてあるんですよ。 そうすると、約10キロの重さで立ったとき、フラットになるんです。 まっすぐ普通に歩いたとき、もちろん右に回った時も何も違和感がないですし、逆に土の上で左回りするときはそれがきっちり食い込む。
摩擦係数も自社の計測器があるので調べてきたんですけど、約30%アップするんですね。
効果も挙げて、なおかつ、普通の歩行にも影響がない。
2003年5月に販売開始。
秋の運動会シーズンを迎え、いよいよ、「瞬足」が売れ始めました。
2003年の秋の運動会前後に、急にそういう声が聞こえて来て。 売れ始めたと。
おかしな話で、すぐに、「瞬足禁止令」が出た学校があるとかね。
それもやっぱり、まだ商品がよく理解されていなくて、特殊な機能がついていて不公平、速く走れちゃう、そんなの履いちゃダメだと。 でも見てみたら、え?何も変わってないじゃないと。
初年度は24万足。次の年は70万足。
とてつもない勢いでセールスが伸びます。
昨年度は、実に、630万足を販売しました。
最後に、津端裕さんからこんなエピソード。
タイム測定を実は一回もやらなかったんですね。 フィーリングだけで。
自分の子どもにもさんざんテスト品をはかせたんですが、フィーリングしか求めなかったですから。 ぐるぐる走らせて、どう?グリップ力感じる?って。タイム測定をやっちゃうと、夢を壊しちゃうかなというのがあって。
そうじゃなくて、あくまで夢をもたせて、速い子はよい速く、遅い子には夢を。
っていうのが裏テーマにあって。タイム測定いらないよって。