今週は、自治体が母体となって、映画・テレビ番組などの撮影を支援する「フィルム・コミッション」。
日本でこの「フィルム・コミッション」が生まれたのは、いまから10年前のことでした。 その産声は、関西から。
今朝は、兵庫県神戸市で「フィルム・コミッション」設立にたずさわった人物の情熱物語。
市街地で、駅で、学校で、映画の撮影を行いたい。 そんなときに制作者に協力をしてくれるのが「フィルム・コミッション」。
アメリカでは 広く活動が行われていますが、日本ではその存在すら知られていませんでした。
1998年。 当時、東京にいた田中まこさんの元にある話が舞い込みました。
ちょうど阪神淡路大震災から3年経ったときに「なんとかして神戸の街をもっと元気にしたい」ということで、何かできないかと、神戸市の方がいろいろと検討されているときに、神戸市の方が東京にいらしていたんですね。 で、お会いをして……
何か税金を使ってやる事業といっても、震災の復興、道路やビル、被災した方が住む住居、そういうものにほとんどお金を使っていましたので、何かこう、華やかな事業をやる状況ではなかったんですね。 なので、低予算で市ができて、街の人を元気にできること、夢のある事業は何かないかと相談に来られたので、映画やテレビに神戸の街がたくさん映って「神戸はここまで元気になりました」と、「もっと元気になるために応援してください」というメッセージを映像にのせて発信できたらいいんじゃないかなと思って、「実はこういうフィルムコミッションというものがあるんですが、神戸だったら撮影に向いている街だと思うので、やってみませんか」と提案させてもらったのがきっかけなんですね。
神戸。
海と山がある街。
海には、港だけでなく、天然のビーチもあります。 都会の顔もあれば、田園風景もあります。 そして、大きな都市であるのに、それほど混んでいない。
田中まこさんには、確信がありました。
神戸なら、フィルム・コミッションが成立する。 しかし……
そんなに簡単ではなかったですね。
まずは、「フィルム・コミッションって何ですか?」というところから始まって。 実は私も、無料で撮影の協力をしてくれる組織が行政のなかにあるというのは知っていたんですね。 「じゃあ、それを作るにはどうしたらいいのか」というのは分からなかったんで、調べてみたら、アメリカに本部を置く世界中のフィルム・コミッションが所属する団体があったんですね。 で、実際に私も研修を受けまして、それで初めて、フィルム・コミッションの仕事がどこからどこまでかを知ったんです。
準備に2年。
2000年、神戸市に田中まこさんが主導するフィルム・コミッション『神戸フィルムオフィス』が生まれました。
翌年、その存在が広く知られるきっかけとなる作品が神戸で撮影されます。
2001年に支援した『GO』という映画で、地下鉄の線路内でのロケを日本では初めて実現したということで。
自治体を母体として、映画などの撮影を支援するフィルム・コミッション。
2000年に誕生した『神戸フィルムオフィス』に、ひとつの依頼が寄せられました。
監督 行定勲、主演 窪塚洋介、柴崎コウの映画『GO』。
まず東映のプロデューサーから「ちょっと会議に来てくれる?」と呼ばれまして、行定監督が、当時まだ若くて世界的な監督ではなかったころなんですが、行定さんが「どうしても、オープニングを地下鉄で撮影したい」と。
もともとは東京の地下鉄で話を進めていて、OKがとれていたんだけど、ギリギリになってNG。 他のスタッフは、地下鉄じゃなくて別の交通機関にしてはどうかと提案したんだけど、行定監督はどうしても地下鉄で撮りたい。
もうクランクイン間近だったので、時間もなく、「2日ください」と言ってその足で神戸に帰って。 交通局、神戸の場合は市営地下鉄ですので、市の交通局に相談したところ、みんな、「え?」絶句してしまって。
地下鉄の駅、しかもホームではなく、線路を使った撮影。
安全性の確保、さらに車両を使うために運転士をどうするのか? 終電の後、始発までに撮影が完了できるのか? さまざまな課題をクリアして臨んだ撮影でした。
迫り来る地下鉄の車両、線路を走る主人公。映画『GO』の手に汗握るシーンの裏には、こんな努力があったのです。実際にそのころにはクランクインしていましたから、いろんなシーンを撮り終えて、最後に神戸に来て、窪塚さんも神戸でクランクアップ。 ということになったんですが、無事に撮り終えて、それがものすごくインパクトのあるシーンが撮れていて。
本当に支援してよかったなと思いました。
『神戸フィルムオフィス』はその後、数々の作品に協力。
2008年の映画『僕の彼女はサイボーグ』では、市街地で大きな道路封鎖をしての撮影も行いました。
北野武監督の『アウトレイジ』、ジャッキーチェン主演の『新宿インシデント』も、神戸で撮影が行われました。
経済効果は、これまでの10年でおよそ7億5千万円。
さらに何よりも、神戸の人々の心にその活動は届きました。
これは予測していたわけではないんですけど、いざ神戸で撮影された作品をみなさんが観たときに、市民の方達の反応が、本当に喜んでくださるんですよ。
「これうちの近くだ」とか、「これいつも通っている道」とか……その反応を見て、ホッとしたというのがありますし、まだ撮影されていない商店街から「いつになったらうちで撮影してくれるの?」と声をかけられたりすると「映画とかドラマっていうのは街の人にとってわくわくすることなんだな」っていうのをあらためて実感できましたし……
「傷ついた街に力を与えたい」。 そんな想いでスタートした神戸の「フィルム・コミッション」。
海と山のある美しい街で、明日も映画のロケが行われます。