今週は、東京メトロで配布されているフリーマガジン『メトロミニッツ』の誕生秘話。
メトロミニッツ創刊へ向け 準備が始まったのは、2001年の10月。
編集長の渡辺弘貴さんは当時をこう振り返ります。
雑誌も書籍も軒並み下がって行く、今から10年前もそういう状況があったんですね。
そういうなかで、時間のシェアの奪い合いが始まった、お金じゃなくて時間ですね。ここまでメディアがたくさんあって、触れられる情報がたくさんあって、しかも無料のものがたくさんある。 ラジオもそうですし、フリーマガジンもあったと。 でも、無料でもモノを見たり聞いたりしない。 なんでかなと思って調べたら、20代の男女においてはお金がなくて、そこに投資する欲がないというか。 30代は、今度はお金はあっても時間がないって言うんですよ。 忙しい。 見る時間ないし聞く時間ない。 読む時間もない。 週末はベッドで気絶してる奴が多い(笑) じゃあ、時間がないという人たちがどうやったらメディアに接触してくれるのかなと。 なので、いいもの作って「買ってくれ」じゃなくて、「頼むから1分でもいいから時間をくれないかな」という風に発想を変えたんですね。
1分でもいいから時間を割いてほしい。
では、その「1分」をどこに見いだすのか?
暇な時間って何だっけ?っていうだけなんですよね。
そうすると、病院だとか銀行だとか、あとは日々の通勤なんですよね。 その移動時間のわずか1分、長ければ5分。
情報を与えられる機会があれば、ビジネスとして確立するチャンスがあるんじゃないかなと思いました。 そうなると、似たようなものっていっぱいありました。 飛行機の移動中の機内誌とか、新幹線の車内誌。 でも、東京のマスな空間、地下鉄には車内誌はないんですよね。
「地下鉄の車内誌的なものを作る」目標は定まりました。
つづいて、雑誌の中身について、検討が始まります。
駅にたまたま置いてあったものって、たまたま手に取るわけですよ。
長時間乗ってるわけじゃないですから、20ページ、30ページの特集を作っても読めないでしょ。 なので「一駅単位で読める情報を作ってみようじゃないか」というのが一個あるんですけども、発想としてはリーダーズ・ダイジェストとか、インターネットでいうトピックスですね。
2002年11月。
20万部の『メトロミニッツ』が地下鉄の駅に並びました。
そして、創刊から8年。 東京メトロの駅で配布されているフリーマガジン『メトロミニッツ』は今、創刊当初のトピックをたくさん掲載するスタイルから大きく変わりました。
創刊当初の「電車のなかでわずかな時間で読んでほしい」という想いから、今となっては、メトロミニッツは「東京人に対して強いメッセージを出していきたい、運動を起こしたい」という風に変わっていったんですね。 「最大公約数的なニーズはなるべく追いかけないようにしよう」と。
なので、顕在ニーズではなく潜在的なニーズ、ウォンツを追求し、東京人に足りないエッセンスを運動化して特集を組もう。 それで都市生活者だったりマーケットに影響を持てるような情報を発信していこうと。
編集長の渡辺弘貴さんいわく、現在のメトロミニッツは 「ワンテーマ深堀りマガジン」。
これまでにあった特集、例えば……
「東京おかみさんラヴ」なんかも、おかみさんを……死滅はしてないですよ、でも、2007年問題というのがあったじゃないですか。 世の中から企業戦士と言われていたお父さん達がいなくなってしまう。 お店に行っていた頻度が減る。 おかみさんが衰退して行くという危惧があったわけですよ。 おかみさんのお店ってすごく良くて、東京らしいんですよね。 「昭和を支えていたおかみさんたちがこのままがいなくなるのは困る!」「これを何とか若い世代に引き継いでいきたい」という熱い想いがあったんですね。
おかみさんの店って、こっちに座っている男性がひとりでいると、「そうよね、渡辺さん」って言ってこっちに話をふるんですよ。 そうすると「ああ、どうも」とつなげていったりするんですよ。
最後に伺いました。
メトロミニッツが人々に届けたいのは、どんなことなのか?
とにかく、今僕らって情報が多すぎて、感動が飽和してると思うんですよ。
もう何出しても過剰すぎて、「感動が薄れているからもう響かないんだな」と。なので、シンプルに、日常のなかのシンプルなことにこそ価値があるんじゃないかと。 いかにこう、日常のなかで非日常が始まるのか?というところからメトロミニッツは始まったんですよね。 だから、意外性、提案性、物語性、実現可能性というのが編集ポリシーのエッセンスだったんですね。 今は、TPOです。 Time Place Occasionですよね。 時間と場所の相乗効果って相当あるんですよね。 某ホテル、そこのカフェダイナーのパンケーキなんかは、朝、鉄板に火をいれて2時くらいになると一番鉄板がこなれてくるらしいんですよ。 そのこなれたいい状態で焼くパンケーキめっぽう美味しいっていう。 じゃあ、何時に食べに行くのか?そのホテルで取引先と打ち合わせするとして、「ここ、2時のパンケーキがおいしいんですよ」とか言うと、プレゼンが通ったりとか(笑) そういうことを僕ら編集者が読者に伝える。 あとは読者もしくは生活者が暮らしをクリエイトしてくれればいいんじゃないかなと思うんです。 そのヒント集がメトロミニッツです。
またひとつ 新しい好奇心の扉を開くべく、メトロミニッツは、地下鉄の駅に並びます。