今週は、東京を走るために作られた自転車。
その名も、トーキョー・バイクの誕生秘話。
シンプルなデザインと走りやすさで人気の自転車、トーキョー・バイク。
開発を手がけたその人は、東京の下町、台東区谷中に事務所を構えていました。
金井一郎さん。
アイディアが生まれたのは、2000年のことでした。
アメリカで自転車のパーツをサイトで売っているシアトル・バイクスというのがありまして、「ああ、地名にバイクを付けるのか」と思って、で、そういうの「アリだな」と考えて、「だったらトーキョー・バイクってピッタリだな」と思って。
最初に決まったのは、名前でした。
「トーキョー・バイク」。
「街を走る」という、名前からコンセプトがはっきりしていたので……
当時って、自転車というとマニア向けのマウンテンバイクだったり、ロードバイクだったりという、スポーツの極端なところか、ママチャリしかなくて、その間が全くなかったんですよね。
その部分で、普通の人が街を楽しむための自転車がトーキョー・バイクだと、当時、思いついた時に、いろんなメーカーのカタログとかホームページとか見まして、「今思いついたものと同じようなものはないかな?」と探しましたが、やっぱりなくて。
これはポッカリ空いてるなと。
普通の人が街を楽しむための自転車。
スタイルが徐々に固まっていきます。
今まである自転車から、余計なものをドンドンそいでいったんですよ。
例えば、マウンテンバイクのような太いタイヤはいらなかったりとか、あと、ギアは何枚もいらなくて、特に前のギアが当時は2枚も3枚もついていて全部で24段とか27段とかそういう自転車が多かったんですけど、都会を走るのにややこしいだけで、そんなにいらないんですよね。
あと、できるだけ車体も軽くしたりとか。じゃあ、かごが必要だとかみんな言いますけど、うちの自転車に乗る人はカゴなくて、必要な荷物があればリュックで背負ったり……すごく肩の力は抜けた感じで使えるものをイメージしました。あともうひとつは、トーキョーバイクの大事な特徴なんですけど、ロードバイクより幅は一緒なんですけど、一回り小さいタイヤを使っているんですよね。
それはなぜかと言うと、街を走る時に、こぎだしの軽さだったり、登り坂をできるだけ軽くだけ登ったりという部分で、そこの気持ちよさを大切にしたんで。
開発を手がけた金井一郎さんが、もうひとつこだわったのは、「色」でした。
東京を走るということは、当然東京の街で乗る人が楽しむためのものじゃないですか。
そうすると自分が乗っている姿とかね、そういうのがとても大切な要素だと思うんですよ。当時なんとなく自転車になかった色で、「水色の自転車」を作りたかったんですよね。
ペンキで塗ったような抜けた感じの水色の自転車があったら、すごい白いTシャツにショーツで乗って、さわやかに走りそうなイメージなんですけど。
ライトブルー、ワインレッド、ブルーグリーン、ホワイト、ブラック。
2002年8月、5色のトーキョー・バイクが世に出ました。
スタッフの長島あづささんは、その魅力をこう語ります。
初めて乗った時の感動がずっと忘れられなくて、「自転車ってこういうものだったんだ」と、すごく感じさせてくれたんで、それをもっと広めていきたいと思っていますね。
お客さんもやっぱり、女性の方も多いので、やはり最初感動される方がほとんどですね。
最初のひとこぎの感動が大きくて、走っているうちにどんどん楽しくなりますし。
トーキョー・バイクを生み出した金井一郎さんに最後に伺いました。
「ものづくり」にかける想い、そして自転車の魅力とは?
僕らは自転車を作っているという感覚じゃないんですね。
街を楽しむための道具であって、逆に自転車が自転車として意識されないくらいの気持ち良さがあるとイイんだろうと思ってますけど。
自転車を作っているけど、その人のライフスタイルの一部分の助けになるような、そういう意識で作ってますね。 それを手助けするためには、ちょうどいいスピードの、心を豊かにするための最高の道具だと思ってますけどね。やっぱり、人って欲望があって、最初自転車があったら生活が豊かになるじゃないですか。
それがさらにオートバイになって、さらに車を買って。それはそれで幸せなことですよね、便利な道具が増えて。そこまで行き着くと、「実はそんなに必要じゃないじゃないか」と、気づく人もいると思うんですよ。
東京ってそういうところに来ていて、車が一番あう人もいれば、そうじゃない人もいるのに、昔はみんなが車にいっていたのが、今は自分で必要なもの選べるようになってきた。そこで自転車が見直されて来て、自分の身の丈のなかで、自転車っていうのは東京の暮らしのなかで最高のパートナーじゃないかなって思ってますけど。
心を豊かにする道具としての自転車。
緑の風のなか、それぞれのペースで、トーキョー・バイクが街を走ります。