今週は、コミュニケーションをキーワードにデザインの仕事を続ける森本千絵さんのHidden Story。
ミスター・チルドレンのアルバム『Home』『Supermarket Fantasy』『SENSE』、AKB48のシングル『桜の木になろう』、ゆずのアルバム『FURUSATO』のCDジャケット。NHK朝の連続テレビ小説『てっぱん』のオープニング。大河ドラマ『江』のメインポスター。 これらすべて。 手がけたのは、森本千絵さん。
そもそもは、本当のところはコミュニケーションが苦手で、小学校中学校と成長盛りのころにあまり友達と仲良くなることが得意ではなくて、でもそのかわり、誕生日カードを作ったり、シャイではあるんですがそっとプレゼントをしたり、遠足とか学級会とかの企画をしたり、そういうのを陰ながらやって、友達がそれで喜んでくれたり、話題になることが友達とつながっていることだと思って、割と学生ながらに生き甲斐を感じていて、そしたら、そういうことをしながら友達を増やしていけたらいいなと思っていたら、いまこういう仕事に結局はついているんですけど。
日常のなかで目に飛び込んでくるモノ。
さまざまな人の手の中、生活の中で育っていくモノ。
そうしたモノをデザインすること。それが森本千絵さんの仕事です。
キャリアのはじまりは、大学卒業後に入社した広告代理店。
最初に形になったのは、ミスター・チルドレンのベスト・アルバムの広告。
沖縄にある防波堤を撮影した先輩の写真を見て……その防波堤に描かれている詩とか絵が素晴らしくて。ここの風景に行って、この海と陸の境目のこの堤防、そしてすごく広がった青空のなかに今までのミスター・チルドレンの歌の歌詞をず〜っとつづったら、何かの記憶というか、そういう気持ちのいいものが刻めるかもしれないと思ったので、その一枚の写真を手がかりにまずはそこの防波堤でそれを描いた子を探すことにして。
防波堤にかかれた絵と詩を撮影した一枚の写真。
その絵と詩は、いったい誰が描いたものなのか?
森本さんは、沖縄のある姉妹を探し当てました。
まずその子達と話をし、住民の方々といっしょに指にインクをつけて朝までかけて絵を描いた。夜から雨が降ると。明日撮影するのに、25メートルくらいの幅をせっかく描いたのに。で、パッて夜、見に行ったら沖縄の人たちがビニールをかけて守ってくれてて。
私としては、上手いデザインをするとか、Mr.Childrenのこのアルバムが売れてほしいとか、そういうこと以上に、まず沖縄に行ってその姉妹に出会ったこととか、出会ったら心が動いて思わず描いてしまったり、Mr.Childrenの音楽をかけながらその場でみんなで沖縄のひとたちと描いているその時間ゆえにその音楽が愛おしくなって、どんどん描いている最中に音楽を好きになって。
「あのときにあの音楽たちとそこにいた人たちと出会えなかったら、その喜びが次に繋がっていかなかっただろうなぁ」と思う最初の仕事です。
2006年に独立。「goen」という会社を設立した森本千絵さん。
そのきっかけのひとつは、日本新聞協会と共に行っている「ハッピーニュース」という企画。
ある時にその記事のひとつが「駄菓子屋のおばあちゃんのゴミ捨てを近くに住む青年が毎日やってあげていた」と。その記事がクローズアップされていて、会いに行ったんですね。
そしたら駄菓子屋のおばあちゃんが座っていて、私はただ駄菓子屋で座っているだけで、あんなに気のいい青年がゴミ出しをしてくれていて、それが知らない間に記事になっていて、その記事を知らない間に誰かが読んで見つけてくれたものがどんどん広がって、今ではたくさんの報道の人が来て、その記事を見て「おばあちゃん元気にしてるんだね」と昔駄菓子屋に来てた子が顔を見に来てくれたりとか。私はよくよく考えたら、ただ座っているだけですと。なのにこんなにたくさんの人に会えるなんて、あなたのやっている仕事は「ご縁」ですね、って言われたんです、おばあちゃんに。 そのときに、誰かから誰かにつながっていくこと。顔は見えないかもしれないけれど、身近に考えたものが連鎖していって、誰かの何かが変化していったりとか、それを喜びとも感じるし、同時にものすごく責任のある仕事だなと感じたんです。
誰かの仕事が 遠くの誰かの喜びになる。
ひとつの想いが、いくつもの想いに連鎖していって、大きな喜びとなる。
森本さんが出会ったおばあちゃんいわく、それが「ご縁」。
東日本大震災が発生したその日には、こんなアクション。
「とりあえず今ここにいる、繋がっている人たちを何とかしなきゃ」と思って、私は遠くにいる人にはすぐに何かをする力はないと思っていたけど、すぐ横で震えている社員とか、身近な仕事仲間には何かをすることができると思ったので、idea4lifeというハッシュタグを立ち上げて、こうしたらいいなと思ったこととか、これが必要だと思ったことは記録したほうがいいなと思って、まずはそこでのアイディア、それをハッシュタグをその日立ち上げて。
そしたらスープストックの遠山さんから「とはいえ、今日お店を営業したい。節電しなきゃならいけど、通常どおり営業したい」そういうので節電のポスターあったらなというアイディアがあって、それでその日5分くらいで作ったんですけど「節電中です」っていう。
それがフリーダウンロードになっていて、麻布十番の商店街の会長さんがコピーを持って歩いたとか、学生の女の子が学校に持って行ったりとか、どんどん伝わって、ロスとか北海道とか沖縄でもありましたし、すわ〜って人から人に伝わってあらゆる場所に貼ってあって。
その「しるし」を共有することで、ちょっとだけ気持ちがホッとできる「しるし」というか……
ちなみに。
森本さんが作った「節電中のポスター」。クリスマスの喜びためにデザインした絵を元にしています。
「街でそれに出会った人の、小さな明かりになるといいんですけど」
森本千絵さんはそう言って微笑みました。