今週は、この夏、大ヒット中。
自然の風を作り出す扇風機、グリーンファンの開発秘話。
その会社は、東京都小金井市にあります。
JR中央線の駅を出て、5分ほど。
バルミューダ株式会社の代表取締役社長、寺尾玄さんが出迎えてくれました。倉庫に置いてあった扇風機『グリーンファン2』はすべて売約済み。 この夏は、入手が難しい状態です。
しかし、このヒットまでの道のりは、平坦ではありませんでした。
会社設立は2003年。
最初は「コンピューターの周辺機器をアルミの削り出しの部品を使って組み立てたもの」というところから始めたんですよね。
そのあとは、LEDを光源としたデスクライト、ハイエンドのものですね、8万円くらいするものなんですけど、結局そういう商売をやってきてお客さんに選ばれないんですよ。
今までグリーンファン以前に私たちが作ってきたものは「欲しがられるけど、選ばれることが非常に少ない」という問題を抱えていたんです。
選ばれるものを作りたい。いや、作らなければならない。
寺尾さんが着目したのは、冷暖房にまつわるもの。
なぜ冷暖房だったかというと「地球温暖化と石油燃料の枯渇。という大きな流れが取り巻いている」というか、進行中ですよね。
例えば、地球温暖化が進んでいくのであれば、夏ってもっと暑くなるじゃないですか、こういう簡単な未来が予想できるわけですよね。
もし、そうした未来がやってきた場合「多くの人々が暑い寒いについて、もっと困る時代が来るんじゃないか」と考えたんです。
だったら、そのときに、みんなが必要とするときに必要な解決策、ソリューションを世に送り出していれば、多くの人々に使っていただける。
2009年、寺尾さんは心に決めました。
「いい扇風機を作る」。
小さい会社ならではのフットワークの良さを活かして、開発がスタートします。
「じゃあ、何が良い扇風機なのか」を考える時に、他の白物家電が参考になったんですよね。
例えば炊飯ジャー。 2万円と10万円の炊飯ジャーがあったときに、何が違うのかというと「炊きあがり」が違うんですよね。 その機械がやるべき一番の仕事の部分で、各社が技術の工夫して、ユーザーメリットが3倍になる5倍になる、というときに、価格が3倍になる、5倍になってもはじめて商取引が成り立つ、と思ったんですよね。
「良い扇風機を作ろうとするならば〔風〕を変えないといけないだろうな」というところに辿り着いたんです。
「風を変える」
「良い風を作るためにはどうすればいいか?」バルミューダ株式会社の寺尾玄さんは、こう考えました。
「良い風ってどこに吹いている風かな」と考えたら、外に吹いている風ですよね。自然界の風なんですよ。
では、自然界の風を生み出すにはどうすればいいのか?
1個大きなヒントがあって、以前、町工場の職人さんに教えられたことがあったんですよ。
それは扇風機を壁に向けてスイッチをつけるんですね、そうすると、壁で風が跳ね返るんですよ。「跳ね返った後の風が、やさしくなっているんだよ」と教えてもらったことがあったんですよね。「それは、なんでなのかな」と今度は考えはじめまして……扇風機の風というのはスクリューを回して風を前に送りだしているだけなんですよね。 要は今までの扇風機の風というのは「渦巻きの風」だったんです。 それに対して自然界の風は渦なんて巻いてないんです。 大きな面でやってくるんです。 だから気持ちいいんです。「一回、壁に当てたときにやさしくなる」これはなんで起きるかというと、壁にあたったときにその渦が壊れるんです。
渦の成分は壁で壊れて、そこから先は「面で動く空気」に変わるんです。
しかし、商品にする場合、消費者に対して「この角度で壁にあててください」というようなお願いをすることはできません。
この世の流体には「平均化を目指す」という重大な使命があって、それを利用できないかなと思ったんです。
そう考えていったときに、今の「グリーンファン・テクノロジー」という2重構造の羽が構想として生まれまして、あの羽は、内側と外側に羽を分けてるんですよね。 内側から出る風のスピードに対して外側から出る風が倍になるように設定してあるんですね。 内側からは少しの風、外側からは大量に送りだされるわけです。 外側の大量の空気は内側に引き込まれるんです。
そこまでは渦を巻いているんですけど、ぶつかりあうことで渦成分が消えるんです。
そこから先は面で移動していく風になるんです。
2010年5月、「グリーンファン」発売開始。
そして今年、改良を加えた「グリーンファン2」が世に出ました。
それは、バルミューダが放った逆転のヒット商品だったのです。
大きな自信になりましたし、「必要とされるものを作ろう」ということで始めたこの一連のプロジェクトが実際にそういう結果を生み出すことができた。それは大きな自信になりましたし、俺たちの誇りですよ。
これで終わる話じゃなくて、今も開発しているものがたくさんありますので、それを発表していくことによって「もっともっとユーザーメリットとなる技術。世の中で有用とされる技術を開発していきたいな」と思ってますね。
「小さな会社だからこそできる、むちゃがある」
力強くそう言い切るバルミューダ株式会社の寺尾さん。
グリーンファンのヒットは、チャレンジする心が掴んだ幸運の風だったのです。