今週は、コメディに特化した映画祭。
今年(2011年)も9月16日に開幕する『したまちコメディ映画祭 in 台東』の誕生物語。
日本でも大ヒットとなった、映画『ハングオーバー 消えた花婿と史上最悪の二日酔い』。 そして『キックアス』。
日本で最初に上映したのは、『したまちコメディ映画祭』。
そもそもの始まりを、チーフディレクターの大場しょう太さんはこう振り返ります。
僕が実は過去に、B級映画をこよなく愛する映画祭で『東京国際ファンタスティック映画祭』を渋谷で開催してまして、でその映画祭の後半に、今回チーフ・プロデューサーのいとうせいこうさんと一緒にやっていたんですね。
そのときに、たまたま、いとうせいこうさんも浅草にお住まいで、で、台東区の方から上野と浅草って観光地としては有名だけど、「もっと若い人にアピールするようなものをできないかな」というときに、いとうさんが、もともと浅草って芸人とかロックという場所があって、そこって、エンターテイメント発祥の地。映画館がいっぱいあったり、寄席があったり、ミュージカルやる舞台があったり、そういう歓楽街があって。そういう街の歴史があるから、なんか「浅草で映画祭とかやったら面白いんじゃないかな」ということで僕に相談されて、「じゃあ、いとうさん、コメディ映画祭、これは世界に類を見ないので、コメディ映画祭を下町でやったら面白いんじゃない?」って言ったら、いとうさんも目がキラーと輝いて「それだー」って言って。
5年前の夏の終わり、ふたりの男ががっちり握手。
下町で映画祭をやろう!
まず最初におこなったのは、台東区へのプレゼンテーションでした。
台東区に、この映画祭をやることによって、若い人が来たりとか、いままで外国人の方が観光で多いと思うんですけど、あとお年寄りの方とか。そうではなくて、もっと別のカルチャーに興味を持つ若い人が、台東区に映画祭を見がてら来て、終わったらごはんでも行こうかとかあるじゃないですか。そこで、美味しいお店見つけました、とか。そういうことで観光全体が賑やかになって新たな層が開拓されると思いますよ、というところで、台東区の方も、それはやる価値があるし、もともと浅草ってエンターテイメント発祥の地だから、そこは台東区としても心が騒いだらしいですね。
やっぱりあれなんでしょうね。あそこは三社祭とか、サンバカーニバルとか、隅田川の花火大会とか、祭りに慣れてらっしゃるので、台東区の方は。で、映画祭って「祭り」がつくじゃないですか。そこでもうすでに、「祭りなら!」というのが芽生えていたのかもしれないですね。
そこは、笑いの遺伝子が息づく街。
祭りが好きな街。
コメディに特化した映画祭の舞台は 整いました。
しかし、そこにはさらなる壁が待っていました。
2008年、第一回の映画祭を準備するチームを待ち受けていたのは、こんな問題でした。
やっぱりコメディって、正直、僕もずっと映画の仕事をやっているんですが、当然、シネコンはいっぱいできているわけですが、見れる作品が昔と違ってどんどん限定されていると思うんですね。やる映画がいわゆるメジャー系のみ。
エンターテイメントとかそっちになって、そうなるとジャンルでいうとホラーとかコメディとか、見ると生理的にちょっと気持ち悪くなっちゃうとか、言葉の壁や文化の壁で理解できない映画が最初に切られちゃう。それがホラーとコメディなんですけど。やっぱり日本でそのコメディ映画とか見れなくなって、まあ作られてもいないんですけど、その状況でコメディを銘打ってどんな協力をしてもらえるのかというのが大変でしたね。
当時、肩身の狭い立場だったコメディ映画。
大場しょう太さんやいとうせいこうさんは映画会社を熱く口説きました。
それと同時に始めたのは、映画祭の舞台となる街の空気づくり。
やっぱりその台東区の街の魅力、これをエッセンスとして加えていきたい、というのは僕もせいこうさんも考えていたので、台東区の観光課の方とか商店街の方がどれだけともに応援して、ともに映画祭を作ってくれる体勢ができるかというのが次のステップでしたね。
要は映画祭というのはひとつで完了しないで、どんどんいろんなものが入って、いつも何かが入って動いている。
いい意味での「ざわざわ感」を作る、というのが次のステップでしたね。
2008年の11月に始まった「したまちコメディ映画祭」。
チーフ・ディレクターの大場しょう太さんから最後にこんなメッセージ。
新たに発見して、それをともにみんなで見る楽しみを知って、で、また映画館で映画を見よう、という風に新しいお客さんを育てられたらいいなというところで始まったんですけどね。
下町のよさ、日本人のよさである浅草と上野を歩きながら、みんなが楽しめるコメディ映画を見て、そこで勉強するじゃないですけど、コメディをみんなで見るってひとつ勉強の気もするんですね、あ、ここで笑い声が聞こえるな、ここが面白いんだ、へ〜と。ひとりで見るとどうしても自分の価値観でしか笑えないから、ここだとなっちゃいますけど、みんなで見ると、ここで笑う人がいるんだと自分の感覚の視野が広がると思いますので、そういう楽しみを持って参加してもらえると嬉しいなと思いますね。
笑いが多様であるように、人は多様である。
それを感じるきっかけとしてのコメディ映画。
下町に笑い声の響く日が 近づいています。