今週は、震災後にスタートしたプロジェクト。
適切な照明とはどんな照明なのかを考える『エッセンシャル・ライト』のHidden Story。
東日本大震災発生から数週間後、岡安照明設計事務所の岡安泉さんは、ひとつの呼びかけを行いました。
震災後、僕が街をフラフラ歩いているときに、小学生の子どもが夜遅い時間、ランドセルを背負って歩いていると……あの頃って、節電が暴力的な「とにかく消せ」っていう時期だったので、とてもじゃないけど、子どもが歩ける暗さじゃないです。あのタイミングでは。
通常だったら、それなりの人の通りもある場所だから、そこそこの明るさがあってしかるべき場所が、全部真っ暗になっていたと。
これはスペシャリストとして「街のあかりについて、もう一度考え直さなきゃいけないんじゃないか」ということをTwitterで投げかけて……
この10年、「あかり」のスペシャリストとして活動してきた岡安さんは、仲間に呼びかけます。震災後のあかりについて、考えようじゃないか。
照明プランナーの中川志麻さんをはじめとするメンバーがそれに答えました。
同じような想いを持っている人たちが「具体的に何かやってみようか」ということで手を挙げたのが、岡安さんを除いて3人いて、どういうことができるか協議し始めたんですけど、当初やっていたのは、街の写真をとって、そこの街の明るさを計る。それで、節電されている状態、節電前の状態、それぞれ3次元のシミュレーションを作る。で、明るかった時の記憶と、暗くなった節電されたときの記憶をみなさん持っている時期だったので、「今の状態をどう思うか」というのを街頭でインタビューをやっていた。それとあわせて、今よりも少し暗い東京について考えるチャンスって、無かったんですね。
具体的にイメージすることもできないし。だからとにかく考えようと。
「節電って何なんだ」とか、「街が暗くなるってどんなことなんだ」と、一度話し合いましょうというお願いをしたんですね。
『エッセンシャル・ライト』と名付けられたプロジェクトが動き始めました。
明るさについて何かを感じるチャンスって難しくなっていて、それこそ海外まで行って帰って来て明るさのギャップを感じればいろんなことも考えられるんだけど、普通に東京のなかだけで暮らしていると、なかなか、そういう「明るさについて考えるチャンス」って手に入れられないですよね。
あかりのプロたちは、シンポジウムを開催。
そして、そこで、意外なことが明らかになっていくのです。
照明のプロ、岡安泉さんをはじめとするチームはシンポジウムを開催しました。
「思った以上に暗いことに対する危機感が強かった」と。
僕ら照明の世界にいて、いつも話すのは「東京明るすぎ」って議論なんですよ。「どうやって暗くするか」という話ばかりなんですけど、今回、実際、暗くなったことに対して危機感を持っている人が多かったというのが、あのタイミングで集まって刺激的だったことですね。
僕らやっぱり、人間って、順応って、慣れっていう順応もかなりあるわけですよね。
僕らは意外と明るい街にそれぞれ思うことがありながらも、その明るいなかで暮らしてきたので、それが突然暗くなると、生活のあり方から変えないと順応できないはずなんですよね。
でも、東京で暮らしていると生活の仕方をなかなか変えることはできないので、暗くなって今までの生活をすると、いろんなところで不都合が出て来たというのが現実なんだと思うんですね。
さらに、もうひとつ見えてきたことがありました。
街の特性っていうのは、かなり出ていて、渋谷は結構消えた状態を「これでいいんじゃないの」という声が多かったんですけど、浅草と丸の内は「度の過ぎる暗い状況」というのは見られたんですよ。都市としてはスケールがデカすぎるんですね。
今まで明るさとかデザインの話をするときに、東京という大きなフレームで語ってきたのが、今回いろいろやってきて分かったのが、フレームがデカすぎたと。
東京っていってもいろんな街があって、それを一律、東京っていう考え方でくくると、合わない場所がどんどん出て来てしまう。「その場所、その場所に対応した、安全で、それでいて適切なエネルギー量で」という景観照明を作っていかなきゃいけない。
東日本大震災の発生から、まもなく半年。
岡安泉さんに最後にうかがいました。
今後はどんなことを目標に活動されるのでしょうか?
一番の我々の目的は、過度な明るさについて警鐘を鳴らすことですし、暗すぎる場所に警鐘を鳴らすことです。
過度に明るい場所のほうが、圧倒的にエネルギーを使っているので、それを減らすことで劇的に節電できる。
「暗い場所に少し足すことで安全も確保できる」という、いいバランスが、この活動が進んだ先に見えてくる。というのが、僕らが今の望んでいる状況です。東京っていう都市のあかり。もしくは、これから新しく作られる街への提言、つまり津波で流された街に新しい街ができるとしたら、「今回の経験をいかした、新しい提言ができるかもしれない」ということを考えたら、かなり中長期的なスパンでビジョンを描いて、いろんな都市、街に提言をしていかないといけないだろう。と思っているんですね。
バランスのいい照明とはどんな照明なのか?
その問いの先にあるのは、バランスのいい暮らし方。
エッセンシャル・ライト・プロジェクトは、街作りについて「あかり」という視点から考え続けます。