2011/11/25 メアリー・ヘレン・バウアーズさんのHidden Story

今週は、映画『ブラックスワン』でアカデミー賞主演女優賞に輝いたナタリー・ポートマンのパーソナル・トレーナー。
メアリー・ヘレン・バウアーズさんのHidden Story。

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ニューヨークシティバレエ団のバレリーナを主人公にした映画『ブラックスワン』。
主演のナタリー・ポートマンに要求されたのは、トップクラスのバレリーナのようにバレエを踊ること。そして、バレリーナのような体型でした。
トレーナーを務めたのは、メアリー・ヘレン・バウアーズさん。
自身も、ニューヨークシティバレエ団に10年所属した経験を持つ女性です。
まずは、ナタリー・ポートマンとの出会いについて伺いました。

ナタリーはニューヨークで他の映画の撮影をしていたんです。そのとき、新しくバレエを教えるトレーナーを探しているということで私に声がかかったんですね。やってみるとお互い意気投合して。それが『ブラックスワン』の撮影に入る1年ほど前のことです。

その時点では、まだ脚本の段階だった『ブラックスワン』。
しかし、ナタリー・ポートマンは、すでに準備を始めていたのです。
そして、撮影開始が近づくにつれ、トレーニングはどんどん激しいものになっていきました。

撮影に入る前、6か月の間でナタリーをできるだけプロのバレリーナに近づけることが求められていたので、それは大変でした。考えてみてください。
プロのバレリーナは1日10時間から12時間もトレーニングをするわけです。でも、ナタリーには他の映画の撮影もあります。

それでも、1日5時間、週に6日間、バレエ・トレーニングのために時間を割いてくれました。たいてい朝5時くらいから、2時間、バレエエクササイズ「バレエ・ビューティフル」の動きを一通りやって、時にはその後、1マイル、1.6キロほど水泳をします。

終わると、ナタリーは別の映画の撮影に向かい、10時間くらい撮影をして……そして撮影が終わって、夜には私のバレエスタジオで再びトレーニングするのです。

いよいよ『ブラックスワン』、撮影スタート。
1日はこんな風に始まります。

毎朝5時にスタートです。撮影の場所がマンハッタンか地方かによって違いますが、ホテルかジムでトレーニング。その後、一旦別れてから、再び撮影現場で合流して、撮影前にウォーミングアップをします。

バレエの動きというのはフィルムにおさめるのは難しいと思うんです。
監督のダレン・アロノフスキーはバレエの動きの美しさを見事にとらえましたが、ダンサーの躍動感を忠実に伝えるのは難しいことです。

私は現場で、振付師やほかの制作スタッフとともにナタリーの動きすべてがちゃんとカメラにとらえられているか、確認し、ナタリーにアドバイスをしたり、フィードバックをしました。

映画『ブラックスワン』でナタリーがトップ・バレリーナに見えるようにするため、最も難しかったのは、どんなことだったのでしょうか?

ナタリーにとって大変だったのは、トウシューズを履いて、はじめて「つま先立ち」の姿勢を取ることでした。
普段そんな体制を取っていない人にとって、痛いし、体にとって不自然な姿勢ですから。

なので、時間をかけて徐々にね。
毎日、繰り返し練習をするうちにナタリーは呑み込んでくれました。プロのバレリーナである以上、それは避けて通れないわけですから。

あと、『ブラックスワン』の中でナタリーが新品のトウシューズを履く前に分解するシーンがあります。これは実際にバレリーナがしていることです。映画のためにトウシューズが用意されましたが、ナタリーにも、まず自分で分解して、ソールを削り、脚になじむように縫い直すというところから始めてもらったんです。
それからバレエの練習用のバーですね。
バーにつかまりながらトウで立つ練習を、時間をかけてやっていきました。

ナタリー・ポートマンがバレエを踊るシーンがあるとき、メアリ―・ヘレンさんは必ず現場にいました。
撮影中には、こんなこともあったそうです。

監督がナタリーに求めたのは、真に迫るリアルな演技です。
そのため、ナタリーがバレエのターンの練習中に、つま先立ちで足をくじくシーンを撮影していたときには、監督は私に「本当につま先をケガするとこうなるかな?もっとひどいかな?実際爪が割れるとこんな感じかな?」と意見を求めてきました。

メアリー・ヘレン・バウアーズさんは、ニューヨークのソーホーにスタジオを開設。
ナタリー・ポートマンと実践した「バレエ・ビューティフル」というエクササイズを教えています。

そんなメアリー・ヘレンさんに最後にこんな質問。
バレエにかける情熱について、聞かせてください。

言葉で言うのは難しいですね……

私にとってバレエは、恋に落ちるのと同じで、理屈なんてないんです。ただバレエに夢中で、なぜ好きなのかわからない。
でも、そうですね、バレエの美しさ、気品、そして芸術性に惹かれています。と同時に、バレエで動くこと、身体性そのものに魅了されています。
ですから、バレエエクササイズの「バレエ・ビューティフル」を通して伝えようとしているのも、このエクササイズを取り入れれば、女性のみなさん誰もが凛として強く、かつ、女性的になれるということ。それがバレリーナの根幹にあるものです。

そして、私はこう思います。
人は「これなしでは生きていけない」ということを、するべきだ。

バレエをしている人は美しい。
それはきっと、映画『ブラックスワン』でも描かれているように、優しく、やわらかく、そして、ときに強く激しく音の上で舞うのがバレエだから。
ニューヨークからやってきたトレーナーの瞳がすべてを物語っていました。

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