今週は、『道化師の蝶』で、第146回芥川賞を受賞!作家、円城塔さんのHidden Story。
円城塔さん。プロフィ―ルの最初の数行には、こうあります。
「1972年北海道生まれ。
東北大学理学部 物理学科卒業。
東京大学 大学院 総合文化研究科博士課程修了。」
実はこの時点で、円城さんは小説を書いたことがありませんでした。
その後、研究プロジェクトに応募して職を得る「ポストドクター」、いわゆる「ポスドク」として、7年間、各地の大学で勤務。転機が訪れたのは、その最後の年でした。
どうも次の年の職がない、ということに気づきまして、34歳くらいだったんですけど、「どうにもなりそうにないぞ」ということになりまして、「来年どうしよう」というときに、「仕方がないからモノを書くか」という感じで、初めてモノを書き始めるということですね。
任期制2年とか5年ですよね。当時30代半ばなので、もしもこれが定年まで続いたらと考えたときに、定年までに10回とか20回の公募を出し続けるのかと思うと怖くなりますよね。それで大学はやめようと思いまして、就職を知り合いの会社をたどって探しながら、ただそれだけでも、会社とってもらってもお金は足りないだろうし、というので「いっしょにモノを書いたらいいのでは」ということで始めた感じですね。
ポストドクター生活最後の年、円城さんはSF小説を書き始めました。
朝と晩ですね。仕事に行く前と帰った後、朝6時から8時と、夜9時から11時とか。
2時間セットで朝晩、朝晩で書いて、1日20枚ずつ書いて行くというのをやっていましたね。ちょっと量がまとまったときに、当時の指導教官に見せてみたんですね。なんで見せるのかという話ですが(笑)。
で、見せてみたら読んでくれて、「これは小松左京賞か、日本ファンタジーノベル大賞に出してみたらどうだ?」と言われて、出してみるんですよね。落ちるんですけども。
その辺がきっかけですね。
結局、円城さんは、ウェブ関係の会社に就職をしますが、それとほぼ時を同じくして、「オブ・ザ・ベースボール」という作品が「文学界」の新人賞を受賞。
さらに、この小説が芥川賞候補にもなったのです。
特にそれで売り上げが上がったということはないんですけど、だんだん、「食べられるのかな」という感じになってくる。
徐々に仕事が増えていって、忙しくなりすぎまして、2月に無理を言って入れてもらった会社を1年半くらいで辞めてしまうんですけど。
円城塔さんの執筆秘話。
どんな風に小説を書いてらっしゃるのでしょうか。
最初朝と夜やっていたのも、外でやっていたんですね。喫茶店で書いていたんですけども。
それはずっと引きずって、今もそうなんですけど、「2時間セットで、どこか外でやらないとできない」という形ですね。
喫茶店がおいてくれるのがそのくらいなんですね。あと自分の集中力が続かないです。今ノートパソコンで書くんですけど、遊び始めますからね(笑)今はオンラインでどこでもつながってますから。
チェーン店は距離を置いてくれるんですよね。個人経営のお店だと「絡まれる。というか、いじってもらえた」と思うんですけど。今もチェ―ン店ですね。特に大阪ですからね。個人経営のお店は危ないと思いますよ。「書けた?書けた?今日何枚書けた?」とか言われると嫌じゃないですか。
「こないだの読んだよ」とか言われると二度と行けないですからね(笑)
もうひとつ質問。
喫茶店での執筆。まわりの音は 気になりませんか?
まわりに何かあったほうがいいですね。
面白すぎるとダメなんですけど、ずっと別れ話をしてるとか、渋谷でキャバクラのスカウトをしているお兄ちゃん達が集まって怒られてるとか、そういうのがあると仕事できないんですけど(笑)。
キャバクラの経営者が寮を借りたらしいんですね。「そこに一人ずつ入れ、当然家賃は取るけども」と。そしたら、そこに二人入っちゃったらしくて、そしたら家賃収入が減りますよね。「お前ら、わかってるのか」と。
「おお〜〜」とか思うんですけど、今のところ作品には活かされてないんですね(笑)
芥川賞を受賞した「道化師の蝶」。
選考委員からは、「ストーリーをつかむのが難しい」というコメントもありました。
お話のなかのお話、お話のお話、という形で続いて行くお話で、そのお話が全部似ているから混乱するんですよね。
そのなかで「わたし」というのが同じ人のような違う人のような感じで出てくるんですけど、ただ、自分(僕のことですけども)僕がそんなに「わたし」として一貫しているのかという疑問は常にあるんですよね。自分の思考とか、自分の考えがはっきりしていると思っている人が多いと思うんですけど、それも状況次第で……自分というものは当然あるんですけど、あやふやなものというか、「都合良く切り貼りして一貫性があると信じているんじゃないか?」と疑っていますね。
大学の研究職から転身。
小説を初めて書いたのは30代になってから。
執筆はもっぱら喫茶店。
その芥川賞作家は、物語によって、問いかけます。
自分というのは、それほど一貫しているのか?
あなたの考えは、それほど確固たるものなのか?
「イマジネーションを解き放て」
道化師の蝶が あなたを誘います。