今週は、アジアン・カンフージェネレーションのCDジャケットや、東川篤哉さんのベストセラー『謎解きはディナーのあとで』の表紙などを手がけるイラストレーター 中村佑介さんのHidden Story。
今や引く手あまたのイラストレーター、中村佑介さんですが、大学生のころ、描いていたのは別の夢でした。
本当は僕は漫画家とかゲームのキャラクターデザイナーになりたくって、それで大学卒業の時期にだんだん絵が変わってきて、今みたいな画風の女の子を描き始めて、その頃はイラスト的にもゲームのキャラクター的にも、こういうものは「古くさい」というか、「時代に乗っていない」ということで、大学の先生にも『中村君の仕事は好きだけど、これでいったいどんな仕事があるんだろうね』と言われてたんですよ。
当時、中村さんが作りたかったのは「一枚絵のマンガ」。
台詞はつけずに、一枚の絵でストーリーを見せる。
アメリカの画家、イラストレーター、ノーマン・ロックウェルに近い作風で勝負したいと考えていたのです。
ひたすら描き続けていましたね。
僕、大阪に住んでいるんですけど、大阪にアートハウスという雑貨屋さんがあって、それをポストカードにして売ってたんですね。
アートハウスというお店でポストカードにして売ったら、ものすごく売れたんですよ。
当時は家賃3万円の風呂なしのアパートに住んでいたんですが、その3万円は払えるくらいにポストカードが売れてしまったので、それをしばらくやっていましたね。
運命の出会いは、意外な人からもたらされました。
大学の絵を練習していた助手時代に、学内で人間のスケッチをしていたんですよ。
そのときにスケッチさせてもらった人のひとりに、まだインディーズデビューもしていないアジアン・カンフージェネレーションのファンの子がいて。『大阪来た時、ライヴ行くんですけど、すごくいいバンドなんです』とか言って、CD出てないし、僕も全然知らなかったんですけど、そしたら、その子が勝手にそのポストカードを送ってくれたんですね、ボーカルの後藤さんに。
そのボーカルの後藤さんも、当時はファンなんて友達じゃないですか。今だったらファンになっても友達にはなれないですけど、アジカンと。当時なんて、大阪に来たら4人来るか5人来るかみたいな、アジカンが呼べる人数は。 それで、友達なんですね。それで僕のポストカードを送ってくれて。
で、『僕らもインディーズでデビューしたらジャケット描いてくれない?』というような話を、大学の助手時代にあって、なので、それが実現したのはだいぶ後ですね。
アジカンのCD ジャケットを担当し続けて来たイラストレーター、中村佑介さん。
バンドからはイラストについて、どんなリクエストがあるのでしょうか?
それがね、現在も、もう20枚30枚出している今でも、付き合いとしては6、7年になりますがジャケット手がけてきて、今まで一回も注文を受けたことがないんですよ。
ただ、楽曲のデモ段階のCDRと歌詞カードが送られて来て。だからクイズですよね。
「なぞかけ」のような、なんか「大喜利」のような、そういう感じでずっとやっていて、何を描いてもボツというのは来たことがなくて。
だから、僕のほうもより集中しないといけないというか、注文がないので「あなたが感じ取ってあなたが描きなさい」ってことじゃないですか。だから、面白い仕事ですよね、他にはない。
ひとつのバンドのジャケットを、ひとりのイラストレーターが描き続ける。
これは、異例の展開です。
音楽って時間の間隔を空けたら飽きがこないものですけど、イラストってずっとそこに存在し続けるので、見飽きちゃう。
だから続けさせてもらうからには、毎回、前作の2倍くらい良いものを仕上げていけば、飽きはこないじゃないですか。だからそういう風にずっと命削ってやってましたね。
きしんだ心、ゆがんだ残像、かなえたい希望。
ロックバンドのシャウトからこぼれる想いを描いてきた中村佑介さんに、最後に伺いました。
これから、どんなヴァージョン・アップを考えていますか?
イラストレーターって、CDジャケットにしても、本の装丁にしても、表紙には、なってますけど裏方の仕事なんですね。「僕の作品ではあくまでない」というか。
ただ、そういう裏方の仕事で影から支えているのも「かっこいいな」というのもあるんですが、それを通してイラストレーションというものが、もっと広まっていくといいなというか、もっと自由な使われ方……もっといろんなものに使われるように、それでイラストレーターを目指しいている子が親から反対されないというか、その社会になったら楽しいんじゃないかな。
イラストが影の仕事をしなくても、イラスト単体でみんなが買えるというか、そのためにはやっぱり僕が頑張ってイラストをもうちょっと広めないとな、と。
CD ジャケットに描かれた 自由な少女のように、イラストがあらゆる場所に顔を出す世の中にしたい。
大阪在住、そのイラストレーターの挑戦は続きます。