今週は、オリンピック、男子体操、1972年ミュンヘン、76年モントリオール鉄棒で金メダル。
団体総合の金メダルにも大きく貢献した、塚原光男さんのHidden Story。
1960年代の終わりから70年代はじめ、日本の体操がまばゆい光を放った黄金時代。
当時を振り返るときに外せないのは、塚原光男さんがあみだした鉄棒の技、「月面宙返り」です。
その技が生まれるきっかけは、意外なところにありました。
実は当時、私は大変、空中でぐるぐる回ったり、ひねったりする空中感覚を不得意としていたんですね。
これを何とかしようと思って、トランポリンという体操以外の競技に挑戦したんです。 そうしましたら、トランポリンの世界に、当時、体操競技にはない新しい動きがあったんです。当時、体操競技の世界では、空中で回転するときには、縦にぐるぐる回るですとか、横にひねる、そういう動きが主流だったんですが、新しい動きというのは「空中で回りながらひねる。という、体操では見たことがない動き」だったんですね。
なんと、塚原さんは、空中での動きを苦手としていたのです。
それを克服するために取り組んだトランポリン。
そこで出会ったのが、新しい動き、「回りながらひねる」。
ミュンヘン・オリンピックの前の年、1971年の終わりから取り組んだ、回りながらひねる、という動き。
ミュンヘン・オリンピックを前に、技は完成していました。
出来上がるのに3カ月ちょっとかかりましたかね、で、オリンピックの予選が始まって披露しました。
最初は審判の方も分からなかったんですかね、いい点が出ませんでした。
でも、2度目の大会のときは、すごい技術だということで、高い点が出るようになったと。マスコミの方にも名前をつけていただいたんですけど、それが忍法木の葉落としという名前だった。でも、オリンピック本番で金メダルをとる前にもっといい名前はないかと、当時、アポロ11号の打ち上げがあって、宇宙飛行士がふわふわと動く月面での動き、これがちょうどあんな感じだと。よし月面での宙返り、「月面宙返り」がいいだろうと。それをあらかじめ決めておいて、私が成功して金メダルと同時に各社いっせいに「月面宙返り」と出たんですね。
個人では鉄棒で2大会連続金メダル、団体総合では3大会連続で金メダルのメンバーだった塚原光男さん。
中でも最も心に残るのは……
強いてあげれば、1976年のモントリオールの団体の金メダル。オリンピック5連勝、新記録を達成した時の金メダルです。
最初はね、「簡単に取れる」と思ったんですよ。相手はソ連ですよね。だいたい戦力も分かっている。我々は、代表選手6名いたんですけど、そのうち4人が金メダリストだったんです、すでに。
「当たり前にやれば当たり前に金メダルが取れる」と思ってたんですけど、当時のエースの笠松が大会直前に盲腸で棄権しちゃうんですよ。補欠の7番目が出るわけだ。でも「やるしかない」ってやったら、規定の予選で負けるんです。で、今度決勝の日、これを決めれば何とか勝てると思ったら、藤本っていう若い選手が骨折していなくなっちゃう。5人になっちゃう。点数の計算の仕方は、6人のうちのベスト5を取っていくんですよ。
で、この5人で最後の跳馬、平行棒、鉄棒ってやるわけですよ。もう誰も失敗できない。
失敗したら終わりですよ。
絶体絶命のピンチに追い込まれた日本チームですが、ここから見事な演技を続けます。
そして迎えた最後の種目、鉄棒。最後に登場したのは、塚原光男さんでした。
塚原が「9.5」以上出したら日本は勝ち、それ以下なら負け。
正直言って、こんなにプレッシャーがかかったのは初めてで、震えとか止まらないわけですよ、最初は。
「うわ、困ったな」と思ってたんですけど、5秒前、そのときにパッと開き直りがあるんですよ。 ふと思った「お前はこんなもんだ」と。「自分は弱虫でなんてダメなんだろう」と思ったんですよ。そしたら、足の震えがパッと止まった。
月面宙返りが決まって、得点は9.9。
まさに奇跡の逆転金メダルでした。
そんな塚原光男さん。ロンドン・オリンピックでは、日本選手団の総監督に就任。
JOC公式 オリンピック日本代表選手団テーマソング『強く美しく』。
この曲の作詞も手がけられました。
北京オリンピックのときにメダルの候補選手がみんな失敗してるんですよ。
これを何とか支援する方法はないか。それで考えたのが、メンタルサポート。チームジャパンのCDを作ろうと考えたんですよ。
作詞は私がやりまして、日本で初めて金メダルをとった織田幹雄さんという方がいて、その方が「強いものは美しい」という言葉を残されて、このテーマを活かして歌詞を作ってみようと。私の体操人生52年を集約して、学び取ったものを詞にして選手に伝えようと。
今回は、どんな奇跡が起こるのか?
ロンドン・オリンピックは、日本時間の明日早朝に開会式が開催。
いよいよ本格的に競技がスタートします。