2013/9/13 シュアールのHidden Story

今週は、聴覚障害を持つ方に、IT技術を使った手話サービスを提供する「シュアール」のHidden Story。

シュアールが手がける 手話サービスとは、どんなものなのか?
代表の大木洵人さんに伺いました。

ひとつはテレビ電話を使った手話の遠隔サービスです。
iPadやパソコンの画面を通して手話の通訳を遠隔で提供できるという仕組みですね。

手話で伝えたものを我々通訳者が映像で見て、それを音声に代えると。例えば駅の改札で乗り換えが分からないとか、携帯をなくしたとか、なかなか筆談で伝えるのは大変なんですけど「ボタン1つで通訳を呼び出せば、すぐに会話が成り立つ」ということですね。

あるいは、彼らは電話ができないということがありますよね。
不在票が入っていたんだけど、それの再配達の日程を決めたいとか、さらに重要なのは、110番、119番できないわけですよね。こういった問題を彼らが私たちに手話でコールしてきて、我々が代わりに電話をかける。これが1つ目のサービスですね。

聴覚障害を持つ方が、例えば 駅の改札で何か質問をしようと思っても駅員さんが手話を知らなければ、コミュニケーションがうまくとれません。そんなとき、手話のできる人をタブレット端末で呼び出してその人が画面を通して、駅員さんと話したり、聴覚障害を持つ方に 手話で必要な情報を伝える。これを行うのが、「シュアール」です。

こうしたサービスを始めたきっかけ。どんなことだったんでしょう?

もともと私は手話のサークルを大学で立ち上げたのがきっかけなんですけど、大学1年生の10月にサークルを立ち上げて活動を始めました。
たまたま紅白歌合戦にその年の12月に、一青窈さんのバックコーラスで出していただけることがあって、そのときに手話の娯楽って少ないなと思ったんですよね。

その娯楽を「今だったらオンラインで配信すればできるんじゃないか」ということで、「手話の旅番組を作る」っていう学生団体を立ち上げて、その活動のなかで、「聴覚障害者が110番、119番できない」っていう、大きな社会的な問題があるということに気づいて。

2008年、21歳の大木さんは、慶応義塾大学在学中に「シュアール」を設立しました。
そして……

単純に、Skype とかを使っていたので、「これを使えば、遠隔で手話を提供できるんじゃないかな?」と、例えば、聴覚障害者が壁にぶつかるシーンというのはたくさんあるんですよね。

通訳者をこの窓口に置きましょう。というのは、いいと思うんですが、全部の窓口に通訳者を置くのは現実的に難しいですよね。ただ、いろんな窓口にテレビ電話をできる機械を置くというのはできますよね。それがインターネットを通してつなげられれば、その場で通訳できる、というのは物理的に可能ではないかというのを、少なくともIT的には全然できるだろうと。

技術の進歩が、アイディアを後押ししました。
大木さんが 特に大きかったと振り返るのは、2011年、カメラ機能搭載のiPad2の発売。
より簡単に、サービスが提供できるようになりました。

「シュアール」は、タブレット端末を使って、手話通訳をするサービスのほか、こんな事業も展開しています。

手話のキーボードを使った手話の辞典を作ってます。

手話というと、今までは手話から引くことができなかったわけですね。例えば、犬を表す手話を知りたければ、「犬、手話」とか調べれば分かると。逆に、手話の動画とか、手話をされたときに、その意味を調べるということができなかったんですよね。
両手がパーでおなかの前でパタパタやってる動作とかいっても、調べようがないし、手話を分かる人に聞くしかなかったんです。

それを、手の形と手の位置から手話を逆に検索できる、逆引きができるというキーボードを世界で初めて開発して、それを使った手話の辞典を作ってます。
その辞典にも一工夫をしていて、Wikipedia のようにユーザーが動画をアップロードして編集して、「みんなで作っていく辞典」なんですね。

例えば、新しい単語が必要になった、例えば「AKB」とか、そういうのって手話がないんですね。
そういったものを我々のサイト上で作れたりとか。

手話の辞典、この仕組みを もう少し詳しく。

例えば、手をパーにして口の前で回しているとか、そういう動作が分かれば、普通のキーボードがありますね、あの上に、人の絵と手が配されているんですよ。で、実際に「パー」のボタンがあるので、それを押します。で、今度は人の顔のキーの「口のところ」を押します。で、検索ってやれば、口の前でパーの手話を検索するんです。

私自身が手話を勉強しているときに、「この手話なんだろう」っていうのはたくさんあるわけですね。
まさにみなさんが英語のリスニングとかリーディングを勉強したときに、手元に和英の辞書しかないようなものです。

英語の文章を読んでいるときに、和英辞典しかなかったら困りますよね。
手話から引ける辞典がないのが問題じゃないかと。

「シュアール」の代表、大木洵人さんに最後に伺いました。
これから、目指すのはどんなことですか?

この辞典を世界展開していこうと思います。

手話は世界共通じゃないので、各国まったく違う手話の体系をしています。
1個のキーボードというプラットフォームを使って、「世界中バラバラの手話を、1個の大きなプラットフォーム上で見られるようにする」というのがひとつの目標ですね。

同時に、遠隔手話サービスをもっと広げることによって、まさに本当に彼らの生活の範囲が広がって行って、もちろんベースとして110番や119番が使えないという社会インフラがないというのはまずベースにありますけど、それを越えた段階、娯楽がないとか、人とコミュニケーションがとれないという第2のフェーズまで含めて彼らの生活の幅が広がっていくのが大事だし、うまくいくとイイなと思いますけど。

遠隔手話サービスについては、JR山の手線のすべての駅のインフォメーション・センターに導入されました。
新しい技術を使い、今まで気づかれていなかった問題を解決する。
「シュアール」の挑戦は続きます。

タブレット端末を使って、どこでも手話を通訳できるようにする!
いいアクションじゃないですか!
山の手線では導入されている、ということでしたがもっと多くの場所で導入してほしいですね。

そして、お話のなかに出てきた、手話の辞典。
こちらは、「SLinto」という名前でインターネットで公開されていて、どなたでも使えます!
» SLinto