今週は、ハリウッドで活躍する日本人。
『恋するリベラーチェ』という作品により、今年のエミー賞で 特殊メイクアップ賞を受賞した、矢田弘さんの Hidden Story。
特殊メイクアップ・アーティスト、矢田弘さん。
最初に特殊メイクに興味を持ったのは、1988年の映画、エディ・マーフィー主演『星の王子 ニューヨークへ行く』。
この作品のなかで、リック・ベイカーのメイクにより、ひとり何役もこなすエディ・マーフィーに魅せられました。
そのときは、映画の小道具とか、アートの……日本で言う美術さんですね。 そういうのを手伝っていて、それで、たまたま、日本で『ブラックレイン』というマイケル・ダクラスの映画が来て、それでアメリカ人と初めて一緒に働いたんですよね、その『ブラックレイン』って映画で。
そこで、アメリカ人がすごく楽しんで働いているのを見て、そこで、もう「アメリカに行きたいな」っていうのがあって、来たんですけどね。
映画『ブラックレイン』の撮影に大阪で参加。
矢田さんは、その体験をきっかけに、アメリカへ渡りました。
別の仕事をしながら、チャンスの扉を探す日々。
さまざまなメイクアップの工房に電話をかけました。
しかし、どこへコールしても断られるばかり。
扉が開いたのは、「これで最後にしよう」と思って電話をかけた工房でした。
日本人のスクリーミング・マッド・ジョージさんという方がいるんですけど、そのマッド・ジョージさんのところに、最後にかけたんですよね。
ジョージさんも大阪の人で、僕も大阪なんで息があったのもあったんですけどね。その前に電話かけるときも躊躇したんですよね。 かけるのも何回も断られ続けてたんで。
断られる。 また断られるのがずっとあって、もう嫌になっていたんですけど、友達に、「もしかして今、その人が人を捜しているかもしれない。 その人、もしかして今、待っているかもしれない。」と言われて、その「もしかして」という一言で、「これ、最後にしよう」くらいでかけたら、ほんとに「もしかして」の人が必要だったんですよね。
その後、矢田さんは、『星の王子 ニューヨークへ行く』を担当した特殊メイクの巨匠、マイケル・ジャクソンの「スリラー」も手がけたリック・ベイカーの工房へと移ります。
そこで7年。
その間に、『PLANET OF THE APES/猿の惑星』『メン・イン・ブラック2』『ホーンテッド・マンション』など、さまざまな作品に関わりました。
僕ら特殊メイクで、ビューティメイクとかはしないんですよね。
キレイなモデルさんのメイクとかはしなくて、特殊なやつですね。
老けメイクとか、ゾンビメイクとか、そういうやつですね。
さらなる転機は、かつて共に働いた Christien Tinsley のスタジオで仕事を始めたこと。
そして、今回のエミー賞受賞作『恋するリベラーチェ』の依頼が舞い込みました。
スティーブン・ソダーバーグ監督。
主演は、マイケル・ダグラスとマット・デイモン。
マット・デイモンは、マット・デイモン専門のメイクアップ・アーティストがいるんですよ。
その人は特殊メイクの経験がないということで、「とりあえず僕が彫刻するんで、テストメイクアップに来てくれないか」と言われて、テストメイクアップに行ったんですよね。そこで、「この撮影やってもらえませんか?」って言われたんです。
テストメイクアップのあとに。
マイケル・ダグラスが演じるのは、1950年代から80年代にかけてラスベガスのショーなどで活躍したピアニスト、エルトン・ジョン、マドンナにも影響を与えたとされるリベラーチェ。
同性愛者だったリベラーチェの恋人、スコット・ソーソンをマット・デイモンが演じました。
ド派手なショービジネスの世界の光と影。 その裏で繰り広げられる秘密の恋。難しかったのは、夏のロサンゼルスとラスベガスの撮影、そのあいだにパームスプリングって、すごく暑いところだったんですけど、特殊メイクって、汗が天敵なんで、汗をかくとアプライアンスの中に汗をかいてしまうんで、見えてしまうです。
分かってしまうんです、「汗をかいているところ」と、「かいてないところ」とか。
それで大変でしたけどね。冬のシーンを撮ったんですが、彼が35度のなかでミンクのコートを着てるシーンとかもありましたからね。
あと、ジャグジーですか、お風呂に入るシーンとか、あたたかいお湯でやってるんで大変でしたね。いや、でもこの撮影面白かったですよ。
あの二人は意気投合してて。 監督のソダーバーグもすごい人で。
本当に全員が楽しんでましたからね。
矢田弘さんが特殊メイクを担当したマット・デイモン。
ストーリーのなかで整形手術を受け、顔がものすごい勢いで変わっていくところも注目のポイントです。
そんな『恋するリベラーチェ』。
今回のエミー賞 受賞について、矢田さんは、マット・デイモン、マイケル・ダグラスと、こんな会話を交わしました。
エミーのアフタ―パーティがあったんで、そこで、みんなで飲みましたね。
マットが「コングラチュレーション」って言うてくれましたね。
僕は、「マット、あなたのおかげで賞がとれました」って言ったらすごく笑ってましたけどね。
喜んでもらってたんで、すごく嬉しかったですね。マイケル・ダグラスは、『ブラックレイン』のときにご一緒させていただいているんです、日本で。
その時はもちろん話してないんですけど、今回、初めて話しをさせていただいたときに、大阪の事ですごい盛り上がりましたけどね。
で、エミー賞とった時も一緒にお酒飲んだんですけど、「あ、日本でインタビューがあるんだったら、どうしてもマイケルが高倉健によろしく言っといてくれと絶対に言ってくれ」と。「絶対に言ってくれ」と言われたんで、言っときます。
『ブラックレイン』でマイケル・ダグラスと共演した高倉健さんへのメッセージを預かるほど、エミー賞受賞のお祝いの席でキャストと打ち解けた矢田弘さん。
実は、授賞式当日は、ロンドンで 別の撮影の仕事をしていました。
その理由は、「過去の賞より、今の仕事が大事だと思ったから」。
輝かしい栄光を胸に、
特殊メイクのスペシャリストは今日も作業に打ち込みます。
映画『恋するリベラーチェ』
出演:マイケル・ダグラス、マット・デイモン、ダン・エイクロイド、スコット・バクラ、ロブ・ロウ、トム・パパ、ポール・ライザー、デビー・レイノルズ
2013年/アメリカ/英語/118分/カラー/ハイビジョン/ドルビーデジタル/原題:Behind the Candelabra
配給・宣伝:東北新社 presented byスター・チャンネル
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