今週は、『マイケル・ジャクソンThis Is It』。 そして、先週公開になったばかりの映画『バックコーラスの歌姫たち』に出演している、ジュディス・ヒルさんの Hidden Story。
2009年の7月から、マイケル・ジャクソンは、『This Is It』と題したコンサートを、ロンドン、O2アリーナで50回にわたって 開催する予定でした。
マイケルが星になったのは、その直前、6月25日のこと。
『This Is It』は開催されることがありませんでした。
ジュディス・ヒルさんは、幻となったそのコンサートに出演するはずだったのです。
そもそも、彼女がマイケルのステージに加わることになったきっかけとは……
ハリウッドのクラブで、ミュージシャンの知り合いが何人かできたんです。
彼らが私のことを評価してくれて、歌うまいねと言ってくれて。そうしてずっと連絡を取り合っていたら、ある日、「マイケル・ジャクソンが一緒にデュエットする女性のシンガーを探しているけど、オーディション受けてみる気ない?」って声をかけてくれたんです。
もう興奮しました。 「もちろん!」って。
オーディションって言っても、参加したのは2人だけでした。
それで、「私のほうに、女神がほほえんでくれた」というわけです。
ジュディスさんが指名されたのは、オリジナルでは、マイケルとサイーダ・ギャレットがデュエットした『I Just Can't Stop Loving You』。
あれは……夢みたいで、何が起きているのか、わからなかったんです。
なんていうのかしら? オーディションの時もマイケルと一緒には歌っていないから、一緒にパフォーマンスをするのは初めてだったんです。 だから感情があふれ出るし、信じられなかったんです。
マイケルは意表を突いたことをするんです。
私は、彼のそれまでのステージをあらかじめ見て、自分なりに勉強していたつもりだったんです。 でも、いざステージに一緒に立つと、全く予想しない動きを取るんです。 その場で動きをどんどん作り上げていく感じ。私は慌てちゃいましたが、でもね、そんなマイケルに導かれるように動いていくのはとてもエキサイティングでした。
夢を見ている気分でしたね。
2009年6月25日。マイケル・ジャクソンが亡くなりました。
7月。 マイケルの追悼式典で、ジュディス・ヒルさんは、『Heal The World』を歌いました。
とてもエモーショナルな追悼式でした。
2週間前まで、マイケルと一緒にリハーサルをしていたその場所で追悼式が行われていて、マイケルは棺の中にいるんですから、感情を抑えきれなかったですね。マイケルの家族もいらしていて、追悼式のステージに上がる前まで泣いていたんですが、会場のみなさんの顔を見て、精一杯歌うことだけしか考えないようにしたんです。
『Heal the World』はメッセージ性の強い歌ですから、それを気持ちを込めて歌うことが、マイケルへの敬意であり、一番の恩返しだと思ったんです。
それから3年半。
今年の1月。 1本の映画がサンダンス・フィルム・フェスティバルでプレミア上映されました。
原題『20 Feet From Stardom』、日本でのタイトルは『バックコーラスの歌姫たち』。
いい映画に仕上がっていると思います。
監督はさまざまな視点からバックコーラスの女性たちの人生に迫っていると思います。私自身、バックコーラスですが、完成した映画を観て、出演している、他のバックコーラスのシンガーの思いや人生を知ることができ、いろんなことを学びました。
そして、映画を観終わって、バックコーラスとしての喜びや苦しみ、すべてを誇りに思うことができたんです。
バックコーラスとしてミュージック・シーンに登場したダーレン・ラヴとプロデューサーフィル・スペクターの確執。 ローリング・ストーンズ「ギミー・シェルター」のレコーディングに参加したメリー・クレイトン。 ストーンズのワールドツアーに何度も帯同したリサ・フィッシャー。 それぞれが、バックコーラスという立場に悩み、壁を感じ、挫折します。
スポットライトが当たるステージ中央とバックコーラスの距離。
それを縮めるのは、運なのか?
しかし、その一方で、バックコーラスを使うことが少なくなってきた、今のレコーディングについて、寂しさを語る場面も登場します。
悲しいですね。 バックコーラスの3人の声が絡み合って生み出すハーモニーは特別で、1人の声をミキサーで3人の声にどう調整してみても生まれないものだと思います。
芸術の一部が欠けてしまうようなものじゃないでしょうか?
シンガーの中にはレコーディングスタジオに入って自分の声をミキサーで変えて、バックコーラスを作り出す人も多くなっていますが、聴く人が聴けばわかります。
そうした方が、安く曲を作ることが出来るからなんでしょうけれど、悲しいことですね。
最後に、ジュディス・ヒルさんに質問。
ジュディスさんにとって、歌とは、どんな存在ですか?
歌とは、世界中どこでも通じる「言葉」でしょう。 間違いなく。
「言葉」であると同時に、もっとも純粋な「感情」の現れでもあると思います。
心の奥底から出てくるもので、「歌」は、ほかの何よりも人の心を動かすことが出来る力を持っていると思います。
マイケル・ジャクソンが信頼を寄せたその女性シンガーは、電話越しに熱く語ってくれました。
人間の声がつくるハーモニー。
そこには体温があり、表情があり、心がある。