今週は、大きな夢をもって、今、進められているプロジェクト。
「音楽を奏でる水車を作ろう」という活動の Hidden Story。
音楽水車プロジェクト
今回、取材にお答えいただいたのは、ジャズ・サックス・プレイヤーの岡淳さん。
まずは、音楽水車プロジェクトとは、どんなものなのか?
そして、なぜそれを始めようと思われたのか、教えていただきました。
水車。ありますよね? 水で回る、流れで回る、あの水車なんですけど、その動力で普通ならば、粉をひいたり、米をついたり、そのほかいろんな役目の水車がありますが、それに音楽演奏させてみたい、という発想なんです。
水車の回転をいろんな歯車とかでからくり的な装置のところに伝達して、それ全体で音楽を作っていくという計画です。そもそものきっかけというか、元になった記憶は、30年くらい前。
東京都の三鷹にある新車という大きな水車を見に行ったんですよ。
それのすごいからくり仕掛けを見て、動く音を聞いて「これは素晴らしいな」と思って。その時は、「それで音楽を」という発想にはいかなかったんですけど、ある時 ―― ちょうどアメリカに住んでいた時なんですけど、「あの水車に音楽を奏でさせたら面白いし、誰もやってないんじゃないかな」って思ったんですよ。
月日は流れて、2012年の夏。
ついに、岡淳さんは、胸に抱いていた「音楽水車」を実現させるべく動き始めました。
まずは水車のことを調べ始めたんですね。水車関連の本をいっぱい買ったり、あとは水車を見に行くことを始めて、アイディアのもとになった三鷹の新車を何十年ぶりかに見に行って、それから各地の ―― 僕は仕事柄いろんなところ旅する機会が多いので、行った先々であらかじめ調べて、水車のあるところは見に行って、あらかじめ調べてないところでも「この辺に水車ありますか?」っていう感じで聞いて、それで「ある」っていえば見に行ったりして。
それで頭のなかで構想をねって、それを人に話すようにしたんです。
そしたら結構興味を持ってくれる人がいて。
いよいよ、音楽水車プロジェクトが、回り始めようとしていました。
音楽水車プロジェクトを立ち上げまして、音楽を奏でる水車 ―― しかも、それもポンプで回すとか電気で回すんじゃなくて、自然の水の流れで回すというのが目標なんですけど。
「いきなりそれに取りかかるのも、スキルの蓄積もないから無謀だな」と思っていたところに、「神戸ビエンナーレ2013」っていう芸術祭で、ミュージック&アート・ステージ・コンペティションというコンペティションがあって、そこに試作機みたいなもので応募してみようということになって。
それに応募するにあたって、僕の知人のウクレレ製作、ウクレレを作る人と一緒にやろうとなって。
その人の知り合いのいろんなアーティストを紹介してもらって ―― 彫刻の人もいれば、造形の人もいれば、絵をかく人もいれば、からくりに詳しい人もいれば、いろんなアーティストが集まってチームを作って。ステージでやるパフォーマンスなんで、回すところは人が回したんですけど、歯車でいろんなものを動かして音を鳴らす、というものを3カ月くらいで作ったんですよね。 みんなで。
神戸ビエンナーレに登場した、音楽水車の試作機「種まきミル」。
僕が基本的な設計、こういうものが作りたい、1小節に何回転、それを今度は2小節で1回転する軸、4小節で一回転、それらを作って欲しい、というおおざっぱなところを説明して、メインの駆動部は、木更津の水内貴英君という、からくりに詳しい人が作ってくれて。
それを今度は、藤沢のアトリエに持ってきて、みんな、それぞれが分担して試行錯誤しながら各パーツを作って、組んで、うまくいかないところは調整して、という共同作業でした。
結構、でっかいものなんですけど ―― 横が2メートル以上で縦が1メートル半くらいかな? 高さも2メートル30くらいものだったんで。
コンペティションでは見事、準大賞を獲得。
大きな手応えを摑みました。
そして今、プロジェクトのメンバーは、さらなる目標を掲げています。
このプロジェクトのコンセプトの大きなものは、「自然に向き合って作る」ということなので、人間だったらもうちょっと速く回して欲しいとか言うことを聞いてくれますが、自然の水の流れで回すのなら、速度をかえようと思ったらこっちで工夫するしかないですし、新たな困難があると思うんですが、そこに向けてやっていく感じですね。
僕がイメージしているのは、定期的に水車小屋音楽会みたいなのをやって、いろんな人はそれと共演する。
僕の知る限りでは、そういう水車はまだないと思うんですよね。水車で発電して電気仕掛けのオルゴールを演奏するという水車はあるんですが、水車そのものの動力でいくつかの曲を演奏する、という水車はないと思うんですよね。
流れにそって、いろんな人が水力で回る水車を使ったアートとか音楽を作る、一個の流れにそった芸術祭みたいなものもできたらいいな、という新たな野望も生まれているんですけど。 「流域アート」みたいな感じで。
以前は、日本各地のあらゆる川に存在した「水車」。
その水車が音楽を奏で、人と共演する。
まさに自然のなかに溶け込んだ音が緑の風にのる日を夢見て、チームの挑戦は続きます。
昨年 開催された「神戸ビエンナーレ」では、「水の力ではなく、人が回して動く試作機での演奏が行われた」ということでしたが、現在、実際に 水車を作る川について、検討されています。