2014/5/9 宇宙ゴミ除去プロジェクトのHidden Story

今週は、JAXA 宇宙航空研究開発機構が手がける宇宙ゴミ除去プロジェクトのHidden Story。

宇宙空間に漂うゴミ、スペース・デブリ。
寿命を終えた人工衛星、その衛星を運用するなかで放出された部品、ロケットの一部などが、地球の周回軌道を ぐるぐると回り続けています。宇宙のゴミは人工衛星に衝突する危険があり、世界的にも問題となっています。


2009年に衝突事故が起こっているんですけど、今までにも、その他にも、何回も衝突の事故はあったんですが、2009年には人工衛星同士が派手にぶつかってデブリがものすごく増えまして、これは確かに「このままこういう衝突が何回も増えていくと、数がどんどん増えて行く」というのが、みんな実感しました。

これは「急いで除去しないと、このあと宇宙開発を継続するのが難しくなるだろう」というような認識が高まったので、ここ数年は世界でも非常に注目されている技術です。

お話を伺ったのは、JAXA未踏技術研究センターのスペースデブリユニット 主任研究員、河本聡美さん。
16年前から、宇宙ゴミ除去の研究をされてきました。

除去するための人工衛星を打ち上げて、その人工衛星でデブリのところに接近して軌道を変える、というような、そういうことを考えています。

デブリの除去というのは、いかに安くやるのか、というのが大事なんですね。
技術を開発すればいいというものではなく、目的がゴミの処理ですので、ものすごくお金を使ってようやく除去しました、というのでは成り立たなくて、何とか安く除去する方法はないかというのは、一番はじめから問題になっていました。

アイディアとしては、デブリ除去に「テザー」というものなんですけど、このテザーを使えばいいのでは、というのは早くから言われていたので、始めた98年くらいから研究を始めています。

ディレクター:テザーというのが、網ということですか?

網というか、テザーは「紐」なんですけど、網である必要はないんですね、厳密にいうと。
1本の紐でよくて、その紐に電流を流すのがポイントなんですけど。

人工衛星で宇宙ゴミに接近。
テザーという紐状のものをゴミに取り付け、そのあと、その紐に電流を流してゴミを動かす。
世界的にも有力とされたアイディアでしたが、問題がありました。

実際に1990年代にアメリカが何回か実験をやっているんですね。

スペースシャトルから20キロメートルくらいのテザー……紐を伸ばす実験をやっていて。ちゃんと電流が流せるという確認もできているんですけど、何回かやっている実験のうち、何回か切れているんですね、途中で。ひとつは放電が起きて、そのせいで切れたのではないかと言われていますが、もうひとつは、デブリが「かすったんじゃないか」と言われています。

デブリって非常に小さなゴミのことですけど、(テザーは)非常に長い紐です。5キロ、10キロメートルというような長さを伸ばしますので、それだけ長いと、小さなゴミがかする可能性があります。しかも、ただ、かするだけじゃなくて、ものすごい速さでかすります。それが宇宙ゴミの問題点なんですけども、ものすごい速さでかすりますので、ほんとに小さい数100ミクロンのゴミでもかすると切れちゃうんですね。

どうすれば、切れない紐、テザーを作ることができるのか?
アイディアが、舞い降りました。
ひもではなく、「網」にすれば良いのではないか。

しかし、これはもちろん、どこかで売っているものではなく、新たに開発しなければなりませんでした。

JAXAのチームがこの「網」の作成を依頼したのは、なんと、漁業のための網を作る会社、日東製網

網の種類を探していたんですね。それで、網の種類に「結び目がある、結節がある網」と、「無結節網という結び目がない網」がある、というのを説明していたのが、日東製網さんという漁網会社さんのホームページだったので、それで、結び目のない無結節網というのが日本独自の技術で、「結び目がないから、かさばらないし強度もある」ということが説明に書いてあったので、「この網だったらちょうど良いんじゃないか」ということで、ホームページに書き込んだんですね。
「金属の網を作ってもらえないか」と。

ホームページに書いたらお電話いただいて、「ちょっと、やったことないんですけど」ということでしたけど、「でもまあ、もう少しお話聞かせてください」という前向きなご連絡をいただいたので、「こちらは、こういう事をやりたいんだ」という突拍子もない話をして、「じゃあ、まず、ちょっとやってみましょう、材料送ってください」と言ってくださったので。

それから、10年。
「網」以外にも、さまざまな技術の開発が平行して進められてきました。

宇宙のゴミに接近しなくてはいけない。

ランデブーというんですけど、普通のランデブーというのは、お互い通信を取りながら、こちらにレーザーがあれば向こうにはリフレクターがある、というように、正確に距離が分かる状態で、ちょっとずつ、ちょっとずつ接近するんですね。

掴まえるには、ハンドルなり、掴まえるものがあるので、掴まえられるんですけど……ところが宇宙ゴミの場合はそうではいので、どうやって接近するか、周囲数キロメートルの範囲にいますというようなものを。

接近した後もどういう姿勢になっているか分からない、下手するとグルグル回っているかもしれない。どこかに何かを引っ掛けなければいけない。そちらも平行して研究してるんですけど。

最後に、JAXAスペースデブリユニット主任研究員、河本聡美さんにこのプロジェクトにかける想いを 教えていただきました。

昔は、この問題があることは認識されていたんですが、まだ先のことだろうと思われていたんですね。

最近、世界的にも早くやらなきゃいけないという事で、それで、こういう実証のところまで辿り着きましたので、今の時点では日本はリードしていると思うんですね。

今すごく頑張れば、世界に先駆けてこの技術を実現できるのではないかと思っていますし、何とか実現に向けてやっていきたいと頑張っております。

日本の 網の技術で宇宙ゴミを除去していく。
そんな 壮大なプロジェクトが進行中です。

網のようなテザーを伸ばす実証実験は、宇宙ステーションに荷物を運ぶ「こうのとり」が荷物運搬を終えた後、実施することが計画されています。


映画『ゼロ・グラビティ』でも宇宙のゴミ、デブリによって危険な状況になる、というシーンがありましたが、JAXAの河本さんによると、「1秒前に10キロ先にあるものが、次の瞬間やってくるのが実際なので、あの映画のデブリはスピードがゆっくりすぎると思います」とのことでした。 しかも、1センチのデブリがぶつかっただけで、人工衛星は壊れてしまうそうで、対策が急がれます。

JAXAのプロジェクト、また進展がありましたら、番組でもご紹介します。