2014/8/15 ヨコハマ・パラトリエンナーレのHidden Story

今週は、障がいのある方と 多様な分野のプロフェッショナルによる現代アートの国際展「ヨコハマ・パラトリエンナーレ 2014」のHidden Story。
ヨコハマ・パラトリエンナーレ

3年に一度、横浜で行われる現代アートの国際展が現在開催中の「ヨコハマ・トリエンナーレ」。そして、それと平行して今年初めて立ち上がったのが「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」です。
会場は、みなとみらい線の「日本大通り駅」からすぐのところにある 「象の鼻テラス」。

この「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」。そもそも背景にあったのはどんなことだったのか?総合ディレクターの栗栖良依さんに、会場でお話を伺いました。

ここの象の鼻テラスというのは、横浜市は創造都市という戦略をとっている都市なんですけど、その拠点のひとつとしてできた横浜市の施設です。パブリックスペースで、赤レンガとか山下公園に向かって歩く方が休憩に訪れる場所です。

で、アートスペースの役割もかねているので、半分はいろんなアートの展覧会とかパフォーマンスとか、色々なものを同時に開催しています。

この場所で始まったのが「SLOW LABEL」という取り組みなんですけど、アーティストの方と横浜市内の障がい者施設の方をつなげて、新しいモノづくりの実験を2009年から続けてきています。

いろんな障がいのある方の作ったものを、ブラッシュアップして工賃を上げるお手伝いをする支援目的の活動が色々ありますが、そうではなくて、次世代型のモノづくりの研究ということで、いま世の中が街もコンパクトになったり、コンパクトになる傾向があるなかで、モノづくりだけがマスプロダクトだけというのはおかしいというか、「次世代型のコンパクトなモノづくりができないか」というときに、彼らの1つ1つ手で作るモノづくりがマッチしたので、一緒に未来を創造するという意味を含めてモノづくりの実験をしているということです。

「SLOW LABEL」というモノづくりのプロジェクトを展開してきた栗栖さん。
プロダクトではなくアートに挑戦したい、と考えました。

どうしても、モノづくりだと売れるものを作らないといけないとか、流通側に左右されることも多くて、一緒にこういう活動をするなかで障がいのある方たちのすごい能力をたくさん、たくさん見てきたんですよね。

で、すごい人たちが一杯いるんだけど、商品にするときにその能力を活かしきれない場面が結構あって、「ちょっともったいな」と思って、その点、現代アートだとどんな形でもいけるし、どこまででも力を発揮してもらえる場面を作れる気がして、アートに挑戦したいなと思っていて。

では、どんなアート作品が展示されているのかというと……

ヨコハマ・パラトリエンナーレと聞くと、パッリンピックのパラを想像して、障がい者アート展ということで、「アールブリュットとか、障がいのある方が作ったアート作品を展示している」と想像して来られたと思うんですが、そうではなくて、障がいのある方といろんな分野のプロフェッショナルの方が一緒にものを作るという共同作業をこれまでやってきてますので、やはりアートの活動においても、障がいのある方といろんな分野のプロフェッショナルが一緒にコラボレーションすることで、新しい表現が生まれるのではないかとそこに挑戦している展覧会になります。

障がいのある方と、さまざまな分野のプロフェッショナルのコラボレーション。
例えば、会場には こんな作品があります。

こちらは視覚障がいの方と詩人のコラボレーションです。

ダイアログ・イン・ザ・ダークという暗闇を視覚障がいの方がアテンドの役割をして散策するようなプログラムがあるんですけど、そこのアテンドとして活躍されている檜山さんという方と、詩人の三角みづ紀さんとのコラボレーションで、サイン看板なんですね。

この象の鼻パークの屋外に6カ所にサイン看板が出ていて、目の見えない方と詩人が一緒に歩きながら、何をそこで感じるかとか、ここにどういう案内の看板をつけるべきかというのを二人が言葉でキャッチボールをしながらそして最終的には三角さんが詩に仕上げて置かれている作品になります。

通常は、視覚障がいの方へのサインというと、音声ガイダンスとかテクノロジーで解決策を見いだしてしまいそうなんですけど、今回はあえてテクノロジーではなくて、隣りの人が読みあげてあげるという非常にアナログな、人と人による最も原始的な方法での解決策をとっています。なので、言葉でコミュニケーションをうながすためのサイン看板でもあります。

総合ディレクターの栗栖良依さんが、展覧会を通して感じて欲しいこと。
それは……

この空間に入ってもらって価値観、これまで当たり前だと思っていた常識を疑って欲しいなと思っていて、障がいって人の側にあるように思われて、障がい者、健常者って分けて語られがちなんですけど、よくよく見てみると、この展覧会を体験してもらうと、何がどこにどう障がいがあるのかなって、おそらく、個人の中に障がいは見いだせない結果になっていると思うんですよね。

結局は障がいって社会の側にあるのかなと。

で、そこを取り除くような方法をみんなが考えることができれば、障がい者と呼ばれる人は実はいなくなってしまって、それぞれが、それぞれの個性とか持っている能力を出し合いながら補い合いながら、社会っていうものはより住みやすい場所になっていくのかなと思っています。

障がいは、人にではなく、社会にあるのではないか。
「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」は、それを考えるきっかけとしての展覧会でもある。

この展覧会をつくることがゴールではなくて、ここでの気づきをいかに社会に反映させていくのがすごく重要だと思っているので、そのためにも来た方に一緒に悩んで一緒に考えていただく、一緒に解決策を探っていく、ということをしたいと思っています。

ウェブサイトにはこうあります。
「First Contact―はじめてに出会える場所」

夏の横浜で、多様な個性、多様な価値観に 出会ってください。


2014年9月7日までがコアな開催期間となっていますが、取材に応じていただいた栗栖さんが特にオススメしたいとおっしゃるのは、知的障害のある方とのサーカスプロジェクトが世界的に注目されているカトリーヌ・マジさん。そのワークショップが8月23日から26日まで開催されます。 また、ロンドンオリンピック、パラリンピックの開会式に参加した「カンドゥーコ・ダンスカンパニー」の共同ディレクター、ペドロ・マシャドさんのワークショップが9月25日から28日まで 行われます。

そのほか、「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」は、赤レンガ倉庫や山下公園からすぐ近くの「象の鼻テラス」で展示が行われてていますので、散歩がてら、ぜひお出かけください。

ヨコハマ・パラトリエンナーレ