台湾北部、山あいの街、九份。
台北市内を望んで、彼女は大きく背伸び。
そして心に決めました。スープの朝ごはんにしよう。
だって、何かいいことが起こりそうな、そんな気がするから。
台北市内からバスでおよそ1時間半の場所にある小さな街。1800年代の終わりに、金の採掘が始まったことで、一時は大きく栄え、日本式の建物が立ち並びました。しかし1971年に金鉱が閉鎖された後は、急速に街はさびれ、ほとんど放置されたままになっていました。
ところが、台湾で空前のヒットとなった映画『悲情城市(A City of Sadness)』の舞台となったことで脚光を浴び、時間が止まったような、レトロな風景が人々を魅了しました。
地元では観光に力を入れ、昔の雰囲気を壊さないように、旅館やカフェ、そして「茶藝館」という由緒正しい、中国風の喫茶店などを、次々とオープンさせています。
近代的なビルが立ち並ぶ台北の雑踏とは一味違う、まるでタイムスリップしたかような昔ながらの街、九份。海外にもその評判が飛び火し、今では台湾を代表する観光名所となりました。
台湾ならではの朝ごはんといえば、一般的に「お粥」か「麺」。
そしてもうひとつ、お団子を入れたスープもポピュラーです。
九份では「魚丸湯」の屋台が名物。
「魚丸湯」は白身魚のすり身団子を、生姜とネギが入ったスープに浮かべた食べ物です。
見た目は魚のつみれ風で、日本のおでんのタネのようですが、すり身団子の中には、豚肉と小エビの餡が入っています。塩が控えめのスープと、白身魚のすり身はあっさりしているのに、噛みしめるほどに、じんわりと口の中にうまみがひろがり、コクが出てくるという、不思議な味のハーモニーが楽しめます。
やさしくお腹を目覚めさせてくれる、汁物の朝ごはん。
熱い中国茶と一緒にどうぞ。
日中は照りつける日差しで暑くても、朝は涼しい今の季節は、やはり湯気がのぼるスープがぴったりのようです。