2015/1/30 マッスルスーツの Hidden Story

今週は、体の動きをサポートしてくれる「マッスルスーツ」のHidden Story。

リュックを背負うように、重さおよそ5キロの金属製のフレームを背中に装着。それを使うと、例えば重いものを持ち上げるときにフレームのなかの人工筋肉が働いて、人間の力を補助してくれる。それが、昨年 販売がスタートした「マッスルスーツ」です。

まずは、人工筋肉とはいったいどんなものなのか?
東京理科大学の教授、小林宏さんに教えていただきました。

うちで使っているのは、ゴムとナイロン繊維でできた人工筋肉を使っているんですけど、ペット繊維で編み込まれたもので、両端を締めてあるだけで、中のゴムに空気圧を入れると太くなって短くなるんですが、例えばこれに5気圧を入れると、150キロくらい力が出るんですよ。引っ張る力が。

最初は服にこれをつけて空気圧を入れると縮むので、それで体を動かす、というのを始めました。そうすると結局、服がズレちゃったりとか、着てる人に負担がかかっちゃうんですよね。なのでそれをやめて、金属のフレーム=骨格を作って、それを引っ張って動かすという方式に変えたんですね。

そうすると着てる人はただ中に入っているだけでよくて、金属の骨格が動くと中の人が動く、ということになるので。

取材スタッフが マッスルスーツを装着させていただいたところ、重さ20キロのものが腰に負担をかけず軽々と持ち上がりました。

腰は、動きから言うと、足に対して上半身をまっすぐにする動きになります。前屈みになった姿勢から上半身を起こす、腰を使って体を起こすのとか、しゃがみこんで、上半身をまっすぐにしてしゃがみこんで座って、そのまま足の力を使って上にあがる。そのどちらにも補助ができます。

2006年に開発がスタートして、製品化にこぎつけるまでにかかった時間は、およそ8年。
壁はそれこそいたるところにありました。

結局、実験をしに行って、使ってもらって、毎回10個とか20個とか改善項目が出てくるんですね。当然こうだろうと思ってもそうじゃないことも多くて、それの繰り返しをして全部直していったという形になるので。

このマッスルスーツ。実際、どんな風に使われているのでしょうか?

今、1番多いのは、訪問入浴介護と言いまして、それはずっと共同研究をやっていたんですけど、ご利用者さま宅のベッドの横にバスタブを持って行ってお湯をはって、ベッドから抱き上げてバスタブに移して体を洗ってまた抱き上げてベッドに戻す、ということをするんですね。

非常に大変なので、その会社は社運をかけて一緒に開発をした。

で、今は、たしか全国に500台くらいその車両があるんですが、その車両に全部マッスルスーツが入っていて使っていただいているということになります。あとは、日々、介護業者と工場とか物流、1日平均10件ずつお問い合わせをいただいて。

介護、物流のみならず、さまざまな現場で痛めることが多いのが「腰」です。

ほとんど、どんな会社も興味を持っているんですよ。
新しい分野だし、必ず必要となる分野。

ただ、最終的にマーケットが見えないとか、世界にそういうものがない、ということでみんな尻込みをしていたんですよね。

マッスルスーツを開発した東京理科大学の教授、小林宏さんが、次に目指すのは、足が不自由な方も、寝たきりの状態になってしまってる方も誰でも立ち上がって歩くことができる「歩行器」の実用化です。挑戦する理由を、小林教授は、こう語ります。

理由は、エンジニアの本分ですね。エンジニアとは人に役に立つものを作ってナンボだっていうところからですね。

「誰でも動き続けられる」っていうのを考えた時にそうなったということですね。とにかく、誰でもどんな状況でも立って歩けるというのがまず最初で。もし、最初からそういうものがあるという前提であれば多分寝たきりにならないと思うんですよ。だから最初はできるだけ無償で提供して広めていきたいなと思ってるんですけど、それをこの秋くらいからやりたいと思っています。

ただ僕のは泥臭いんですよね。ハイテクとは違ってローテクの技術なので、業界では、ふ〜んって感じ(笑)ローテクじゃんって感じで言われるんですけど、僕はものづくりはシンプル・イズ・ベストだと思うので。いかにシンプルに安く作っていくかというのも大事だと思うので。

障害のある方、社会的に弱いとされる方たちに、できるだけ安く、使いやすい歩行器を届けたい。
小林教授の視線の先、「マッスルスーツ」の向こうには、さらなる可能性が見えています。