縦31センチ横22センチ高さ10センチほどのシンプルな白い箱に、赤いローマ字で「THE SECOND AID」。
スタイリッシュにデザインされた防災セットが生まれました。
発売元は、宮城県仙台市の高進商事。
デザインを手かげたのは、横浜にあるNOSIGNER株式会社です。
そもそものきっかけは、東日本大震災のあとすぐに作られた「OLIVE」というウェブサイトでした。NOSIGNERの太刀川英輔さんは、当時をこう振り返ります。
もうがむしゃらだったのでね。「なんかできないものなの?」という、ただそれだけなんですけど。
一番最初は「Twitter なんかで、世の中にある情報をどんどん集めて Twitter なんかでつぶやく」というのが最初だったんですよね。その情報を何とか被災した彼らのところに届けるために、どういうものがあったら届くのかなと。
そのままだと、速いタイムラインで流れて消えてしまうので、そういう情報が。それを1週間から1カ月とどめておく場所が必要だと。「そこだけ見れば、必要な情報が詰まっている場所が必要だ」というのは割とすぐわかったんですよね。で、「Wiki みたいなもので、みんなで投稿するようなことができれば、それができるかもしれないね」ということで。
震災発生から40時間後、3月13日の早朝に、ウェブサイト「OLIVE」が開設されました。
新聞紙で暖をとる方法、ペットボトルから皿を作る方法、水のいらない簡易トイレの作り方。さまざまなアイディアがOLIVEに集まりました。
そして、その後……
僕らとしては、このOLIVEは、「せっかく役に立つ情報がたくさん集まったものだから、このまま何にも使わないのはもったいないな」と思っていたんですね。
「何か防災に役に立つプロジェクトを作れないか」といろいろ探していたんですよ。そんな中で防災キットを作りたいというのはずっとあって、僕らなりにデザインを進めていたんですね、最初。
だけど、どうせこの防災キットをやるんだったら、東北でやりたかったんですよ。
世界に誇る防災産業の拠点として、東北に立ち上がってほしい。 NOSIGNERは、共に東北地方で防災キットをに作るパートナーを探しました。
1年くらい探してましたね。で、見つからなかったんです。
そしたら去年の夏くらいに、いきなり連絡があったんですよね。
「防災キットを作りたいから、OLIVEの内容をその防災キットに入れる冊子に使って良いか」と。
「我々は東北の会社だけど、震災を経て防災キットを作りたいと思っていて、OLIVEと一緒にやりたいんだけども」っていう。それが高進商事の小田原さんっていう人だったんですよね。
一番最初、もう向こうの方もある程度商品を固められていたんですけど「買ってくださる方が喜んでもらえるように、ちゃんとしたデザインにしましょう」という話になっていって。
デザインを手がけた、NOSIGNER株式会社の太刀川英輔さんに、デザインのポイントを教えていただきました。
「本棚に入る」ということがとっても大事なわけですよ、この商品。
何でかというと、普通、防災キットって押し入れとかにしまわれちゃうんですよ。押し入れとか倉庫とかに。
でも本当に被災した状況、大震災が起きたような状況だと、後ろにあるものほど取り難いわけで、後ろにあっては使えないんですよね。結局、埋もれちゃってどうしようもなくなっている防災キットって、結構あったんじゃないかなと思っていて。
だから「一番手前にあるべきだろう」というのがあって、「本棚に入るようなサイズにしましょう」というのがあるんですよ。
A4プラスαくらいのサイズでとにかく3日間を生き残るものは入れると。
トイレキットとか、若干暖がとれるアルミのブランケットとか、体が洗えるウェットタオルとかお水とかもね。
そのデザインには、こんな想いが込められています。
僕はデザイナーだからデザインの社会的機能を信じてるわけ。
「デザインは世の中に役に立つぞ」と思っていて。それを、ああいう極限的な状況で何もできなかったらイヤだったんですよね。
デザインって「おしゃれな人のものでしょ」とか、そういう風に思われがちなので「それだけじゃないんだ」と。時には、全く他の方法では出来なかったような役に立ち方が出来ることもあるから。
最後に、震災から4年を迎えるにあたって思うことを、太刀川英輔さんに伺いました。
震災っていう転機があったと。その転機によって、今後50年とか続けられる何かが生まれて、それを新しいスタートとして、これからやっていくことが出来たら良いなと思って、色々なことをやってるんだけど、それが数年でね、流行りものが廃れるように、飽きられたら悲しいことだなと思うんですよ。
そうならないように、タイムレスな、そういう「希有な経験をしたから出来るような、イノベーションが東北から生まれて欲しいな」と本当に思うんです。
今回、東北で起こったことは、いろんな意味で転機だったと思うんですよ。
例えばエネルギーの問題もそうだし、産業の問題もそうだし、日本の田舎だったらどこでもそうなりえるんです。そこで問われていることは。だから日本中で問われることかもしれないしね。
THE SECOND AID も小さなプロジェクトだけど、そういうつもりでやってるんですよ。
防災産業が立ち上がると。しかも東北から立ち上がると。だから5年目というのは、それが本当に未来に続く転機になるのか、それとも流行りもので廃れるのか。
その、すごい瀬戸際だと思ってますね。
大きな被害を受けた街から、世界へポジティブな光を発信したい。
仙台の会社。高進商事と一緒に作った防災セットもその一歩。
そしてそれを、未来へ続く着実な歩みとするべく、挑戦の日々は続きます。
防災セット「THE SECOND AID」の中には、災害時に役立つアイディアをまとめたウェブサイト「OLIVE」から抜粋したものを集めた冊子も入っています。
通販サイトなどでも販売されていますので、ぜひチェックしてください。
「押し入れの奥に入れておくのではなく、すぐ取り出せる場所、例えば本棚に入れておいて欲しい」
そんなことを考えてデザインされた防災セットです。