今週は、第57回グラミー賞でBEST JAZZ INSTRUMENTAL ALBUM を受賞、チック・コリア・トリオ、『Trilogy』の Hidden Story。 チック・コリア
ジャズ・ピアニスト、チック・コリア。そしてベースのクリスチャン・マクブライド、ドラムのブライアン・ブレイドによるチック・コリア・トリオ。この3人が 2013年に発表したアルバム『トリロジー』の仕掛人は日本人の青野浩史さんです。
チック・コリアという人は色々なプロジェクトを——私はマルチ・タスク状態と言っているんですけど——色々なプロジェクトを同時進行で進めることが多い人で、トリオでやってみたり、新しいバンドを作ってみたり、デュエットしたり、ソロをやったりと、色々なプロジェクトを同時進行する人なんですけど。
このトリオですね、クリスチャン・マクブライドとブライアン・ブレイドのトリオですね、2010年にですね、日本に、東京はブルーノートにコンサートでやってきまして、この時に「素晴らしいトリオだな」と思ってですね、ブルーノートで聞いた記憶があるんですが。
チック・コリア・トリオのツアーは、2010年に北米と日本。
その後しばらくあいだを置いて、2012年にヨーロッパを回りました。
以前所属したレコード会社時代からずっと チック・コリアのご担当だった青野さんは、2010年にブルーノート東京でそのライヴを見た時から「この音源を世に出したい」という想いを胸に秘めていました。
それで、経緯としては、残念なことにですね、2012年のヨーロッパのコンサートの演奏がですね、ブートレグという形で世の中に出回ってしまいましてね。
で、ブルーノートで聴いた時からね、何とか形にしたいと思っていたんですけども、こんな形でね……違法盤、イリーガル盤が、世の中に出てはいかんだろうと。
「あらためて正規盤として出そうよ」という話を、本人、マネージャーとすることになりましてですね。
素晴らしいトリオのライヴ演奏を正規盤として発売したい。
青野さんは、チック・コリアとユニバーサル・ミュージック・ジャパンを橋渡し。
日本からの企画として、アルバムの制作が進められることになりました。
どういう内容にするのか。ライヴ演奏ですから、基本的には1曲の演奏が長くなるので、どんなパッケージにしようかということで、アーティストと発売元のユニバーサル・ミュージックと私と、色々なビジネスディールの話も含めて交渉した結果ということで。
結果ですね、先方から色々選んだけれど演奏を絞りきれないと。
良いテイクを取っていくと3枚組になってしまいそうだと。 1枚のCDに何分入るんだ?と、毎回問い合わせがありまして。
結局、200分超える演奏が入ることになったんですけど。3枚組というと重量級のヘビーなアルバムになるので、CDの値段も高くなるし二の足を踏むところなんですけど、「これは、ぜひ行きましょう」と言っていただいたユニバーサル・ミュージックの英断にも感謝したいし。
世界の28都市でのライヴの中から選ばれた17曲が3枚組のCDに収録されました。
チック・コリアは、ライヴ演奏の全てを録音しているんですね。
常にバーニー・カーシュというチック・コリアのサウンド・クリエイター、エンジニアがずっとツアーに同行しまして——この人は録音のエンジニアでもあり、PAのエンジニアでもあるんですが。チック・コリアの音楽を知り尽くした男が同行して——そのバーニーがライヴ演奏を録音していると。すべてのライヴ演奏が残っているんですね、彼の。
昔は、テクノロジーが発展する前は、こういうことは、殆ど実現が不可能で、ライヴ・アルバムを作るとなると本当に大事で、中継車、電源車、全部用意してですね、ホールの脇に巨大な車が横付けして、というようなことをしなければマルチ・トラックの録音によるライヴ・アルバムは形にならなかったんですけど。
日本で企画されたこのアルバム。
3枚組というボリュームになったため、アメリカで発売されるかあやぶまれましたが、無事、全米でリリース。見事、グラミー賞に輝きました。
やっぱりチック・コリアというアーティストが、70超えたアーティストがこれだけ現役で、信じられないくらい高みのある演奏を継続してやっているのがすべての原因だと思いますし、たまたまアルバムというのはそれをパッケージにしただけですので、チック・コリアという人の衰えることのないクリエイティビティは本当に尊敬するな、というところですけど。
ちなみに、今年のグラミー賞授賞式。アルバム・オブ・ザ・イヤーのプレゼンターとして登場したプリンスはスピーチでアルバムの大切さについて触れました。
同じ夜に、ジャズ部門で、3枚組の大作アルバムが受賞したのです。
このパッケージはこの3枚組でしかありえないし、トラックで切り離して考えられるものではないし、最優秀ジャズアルバムは、3枚組というこのパッケージが対象になったということで、とっても感慨深いなと思いますね。
チック・コリア・トリオのアルバム、『Trilogy』。
200分を超える録音からは、こんなメッセージが 聞こえてくるかのようです。
「アルバムでしか伝えられないことがある」。
そして、そのアルバムには、日本のレコード制作にたずさわるプロフェッショナルの熱い想いが溶け込んでいるのです。