ALSは、意識や五感、知能の働きはそのままの状態で筋力の低下を引き起こす疾患で、有効な治療法が確立されておらず、難病に指定されています。その治療法を見つけるための研究費をあつめるのが『せりか基金』。これは、小山宙哉さんのマンガ『宇宙兄弟』から生まれたALSの治療方法を見つけるための研究開発費をあつめるプロジェクトです。立ち上げたのは、漫画家さん、小説家のみなさんのエージェント事業をおこなう株式会社コルクのスタッフ。プロジェクトのメンバー、黒川久里子さんと小西康高さんにお話をうかがいました。
まずは、『せりか基金』を立ち上げるきっかけについて。
「黒川さん:『宇宙兄弟』のわりと始めからALSは出てきます。そのころから小山宙哉をはじめ取材をしていたみたいで、何か『宇宙兄弟』がALSのためにできることはないかなというのは、みんなの気持ちのなかにあったんです。
2年前に小山宙哉のファンクラブができてファンの方が見えるようになると、ファンの方が非常に熱い想いを持っているとか、夢とか勇気を持って何かを取り組んでいこうとされているのが見えてきまして。私たちもALSのために何かをやりたいという想いがずっとあったので、もしかしたらファンの方と一緒にこういうプロジェクトをやったらうまくいくところまできているんじゃないか、というのが最初のアイディアのもとになっています。」
『宇宙兄弟』のストーリーのなかで、主人公であるムッタとヒビトの兄弟を幼い頃から見守る女性、シャロンはALSをわずらっています。また、今回の基金の名前になっているせりかは、父親をALSで亡くしました。そんな物語をつくってきた漫画家・小山宙哉さんのマネージメント、そして、『宇宙兄弟』の編集を手がけてきた株式会社コルクのスタッフ8人が、プロジェクトチームを組みました。
「黒川さん:3、4ヶ月くらい前にこのせりか基金プロジェクトチームをつくりました。『宇宙兄弟』にできることは何なのかというのを、メンバー8人で話し合って、『宇宙兄弟』にしかできないことがあるんじゃないかと。私たちは医者でもないですし、医療関係者でもないし、患者でもない。そんな第3者の私たちがやって力になれることをみんなで探しました。」
『宇宙兄弟』にできるのは、どんなことなのか?『宇宙兄弟』にしかできないのは、どんなことなのか?チームの話し合いは続きました。
「黒川さん:マンガの中で、お父さんをALSで亡くして、それをきっかけに医者になって、宇宙飛行士になって、ALSの研究をISSのなかでやっている"せりか"という女の子が出てくるんですが、そのせりかが新薬を見つける第一歩を、マンガのなかで踏み出したんです。それは『宇宙兄弟』のなかでも感動的なシーンで、患者さんからもファンの方からも『このシーンはすごくいいね。これが現実になったら本当に嬉しいよね。』というというところがあって、これをみんなで追いましょう、というのが『宇宙兄弟』でできることなんじゃないかなと。治療研究の費用を集める活動をするのはどうかというところに思い当たりました。
ALSの患者さんが必要なことってもちろんたくさんあるんです。いま生きていくためにいろんな医療機器も必要ですし、どうやって生きていくのか、介護はどうするのかということもあります。
それは『宇宙兄弟』のなかで、シャロンというALS患者がどうやって生きていくのかということも描かれているので、そういう支援も考えました。でも、いろいろ患者さんやヘルパーさんとお話するなかで、患者さんやご家族は いま どうするかということに力を入れていかざるを得ないし、それが当面の課題なわけです。『治療薬ができるかどうかというのが本当は一番の希望なんだけど、そこまで手が回らない。』というお声をいただいて、フィクションの力もありますし、第三者だからこそできることもあると思いまして、治療研究費を集めようということになりました。」
ALSの治療方法を見つけるための研究開発費をあつめる『せりか基金』。チャリティグッズの販売はすでにスタート。そして、ALSについて広く知ってもらうための活動も進められています。
「黒川さん:アイス・バケツ・チャレンジもありましたし、なんとなく知っているけど、結局、何なんだろうという人が多いと思うんです。どういう支援を受けられているのか、研究はどこまで進んでいるのか、研究にどのくらいのお金がかかるのか、患者さんが何に困っているのか、というのを、ほとんどの人は知らないです。そこは、私たちはメディアとしての発信力も持っているので、取材して宇宙兄弟のサイトで更新していきたいなと思っています。
小西さん:患者さんの声だったり、研究者の方が実際どんなことをやっているのかをみなさんに分かる形で情報発信していきたいなというところで、継続的に情報を出していきたいなと思っているところです。」
『宇宙兄弟』のオフィシャルサイトのなかにせりか基金通信という連載があって、そこには、ALS患者の酒井ひとみさんへのインタビューも掲載されています。そして今後も、さまざまな形で取材が続けられます。
「黒川さん:研究者の方にも京都大学で取材をしてきたんですけど、このせりか基金が若い研究者のモチベーションになっていたり。金額がすごく多いからどうこうではなく、誰かがそれを待っていてくれるという、研究者側にとっても勇気がもらえるプロジェクトだとはおっしゃっていただいたので、毎年すごく大きな金額でなくても集め続ける意味はあるのかなと思いました。
小西さん:京都大学の教授の方がおっしゃっていたんですけど、10年前に比べるとALSの研究は格段に進んでいるところがあるそうです。確実に解決に向かっては近づいてきているのかなというところはあるので、そこに向けて進んでいきたいなというところです。
黒川さん:患者さんと、酒井ひとみさんとも話していたんですけど、10年後くらいに一緒にお酒を飲みながら、『こんな大変な時期もあったよね』と言えたらいいなというのは、やっぱり目指すところです。治療薬ができて患者さんが治って、というところを夢見たいと思います。」
未来という名の今は、かつて誰かが思い描いた夢。マンガ『宇宙兄弟』が思い描いた夢を実現すべく、『せりか基金』の挑戦が始まりました。せりか基金についての詳しいこと、チャリティーグッズについては公式ウェブサイトをご確認ください。