先月、東京・新宿で、音のない世界で言葉を使わずにコミュニケーションを楽しむエンターテイメント、【ダイアログ・イン・サイレンス】が開催されました。聴覚障害のある方がスタッフとなって活躍するこのイベント。スタッフ研修の現場で、あるスマートフォンアプリが使われていました。それが、『UDトーク』。説明者が発する言葉を、そのアプリによって文字化。コミュニケーションがよりスムーズに交わされていました。開発を手がけたのは、Shamrock Records株式会社の青木秀仁さん。
「僕自身は障害者の方と会ったことも接点もなくて、開発会社でプログラマーをやっていました。たまたまその会社が音声認識を扱っている会社で、音声認識を使ったソリューションとかプロダクトを作っていたんですけど、その後、自分で会社を作って、スマートフォンのアプリケーションとかをつくるようになりました。あるとき、アプリを作れるというのと、音声認識の組み合わせが、聴覚障害の方も非常に興味を持っているというふうに友人づてから聞きまして。全然、僕も気がつきませんでしたが、聴覚障害の方は音声認識の機能で、喋ってる内容を知ることができるんですよね。なるほどねと思って、引き合わせでいただけることになったので、会うことになりました。その人が僕の人生初めての聴覚障害者で、それが松森果林さんなんですけど。松森さんは、聴覚障害者ですが、中途失聴者なので、喋ることができるんです。だから、向こうの言っていることはわかるんですけど、いざ喋ってみると、僕の話してることは伝わらないんですよね。そのときに思ったのは、僕にスキルが足りないということでした。」
聴覚障害を持ち、聞こえない世界と聞こえる世界をつなぐ仕事をされている松森果林さんとの出会いをきっかけに、アプリの開発が始まりました。青木さんはすぐにプロトタイプを作成。その後、2013年に『UDトーク』をリリースしました。
「いやもうまったく認識しなかったので、ボロクソ言われましたよ。(笑)やっぱり出した頃というのはまだ音声認識の精度がぜんぜんなくて、音声認識的には暗黒の10年って呼ばれてるぐらい、認識精度が技術的に上がらない時期があったんです。正直、音声認識がよくならないはずはないので、今やるべきことはいわゆるインターフェースとか使い勝手とか、そういうところを重視してやるかなと。で、認識精度が上がったときに自分でも驚いたんですが、UDトークの使っていたインターフェースとかそういうものが、高い認識精度に非常にマッチしたんです。ただ、運が良かったのはあります。結局、僕がこれを作ってたこの時代に、音声認識によるいわゆる技術革新があって、精度の高いものがあったと。スマートフォンやタブレットの普及も一役かってます。
音声認識は、株式会社アドバンスト・メディアっていう、日本で15、6年、日本語の音声認識をやっているヴェンチャーで、今もそこのエンジンを使っています。多分、日本語の音声認識だと世界一の精度を持っていると思います。集まってる日本語データが膨大にあるし、UDトークで驚かれるのは、句読点が出ることなんです。」
音声認識の技術が、青木さんのアイディアに追いつきます。精度の高い認識で、利用者が広がりました。また、進化の過程で、聴覚障害を持つ方の意見も取り入れられました。
「やっぱり僕らとは違う見方をしているわけです。字幕に関しても、何しても。例えば、読みがなって結構、重要で。僕らは聞こえているから文字が間違った同音異義語とかすごい気になるんですけど、聴覚障害を持つ人は、いきなり漢字が出ると、その読み方は聞こえてないからわからないので、そこがどういう間違いなのか想像しづらいんです。でも、読みがなを出しておくことによって、それだけで意味を図ることができるときがあるので、読みがなを振るというのが、実は結構好評でした。」
さらに字幕は、英語・ドイツ語・スペイン語・中国語などおよそ30の外国語で翻訳されます。そして、こんな楽しい機能も加えられました。
「大阪弁で表示する、という機能があります。標準語で認識した言葉を自動的に大阪弁に翻訳するという、全く意味がない機能なんですけど、これが聴覚障害の方に好評で。この機能をつけると、みんなスマートフォンを取り合ってしゃべりまくったと報告を受けたことがあります。今までのこのアプリにしろ筆談もそうですけど、相手にお願いして、相手の負担が少なくなるように、というのが当たり前だったところに、自分から進んでやってくれるということを、この大阪弁変換の機能で気がついたというか。だから、エンターテインメントの要素っていうのは、福祉のそういう世界にこそ必要なのかなと思いました。で、ちょっと調子に乗って、現在広島弁とか博多弁とかも開発中ですので、そのうちご披露できるかなとは思ってます。」
この『UDトーク』。ポイントは、スマートフォンやタブレットで簡単に使えるアプリで、一般向けには、無料で配信されていることです。
「まずこれの収益のシステムは、法人契約です。法人向けには有料で、月額利用料を設定して販売しております。一般の方には無料なんですけど、無料のアプリに関しては喋ったときの音声データをこちらで収集してデータ解析に活用しています。なので、実は無料と言いながら協力してもらっている、という立場です。だから無料の人がいっぱい使っていただければ、認識精度がどんどん上がっていくっていう仕組みになっています。ただ、企業に関しては機密情報とかプライバシーとかそういうのもあるので、音声をいただかない代わりに、有償で提供しているという形になっています。なので、企業から収益を得て無料で皆さんに提供できると。無料の皆さんがどんどん宣伝してくれることによって企業とか自治体とかの導入の意識が進んで、またうちに戻ってきて、有料のプランが売れるという。で、また安定して供給できるという感じで、ぐるぐる回っているようになってます。」
耳の聞こえない方と、もっとコミュニケーションをとりたい。そんな想いから開発されたアプリ 『UDトーク』。多くの人が使えば使うほど、音声認識の精度が上がっていきます。それはつまり、もっとコミュニケーションがとりやすくなること。テクノロジーとアイディアが 人と人をつなぎます。
驚くほど、聞き取って文字化してくれるアプリ『UDトーク』。
ぜひ、さまざまな場面で利用してみてください!
詳しくはUDトーク公式ウェブサイトをご確認ください。