男は、ジャングルを進んでいた。
「ここまで来たら、逆にホームですよ。」
男の名は、Hとり。
まくったTシャツからのぞいた些か白い腕がたくましい。
「これは、食べられる木の実なんですよ。」
そう言って我々に青白い実を差し出してきた。
Hとりは、明後日の方向を見ながら、
微笑を浮かべ、木の実を頬張る。
もらった木の実をこっそり後ろポケットにしまった。
「おや。」
Hとりの目が細くなる。
「これは一雨きそうだな。」
雲一つない空を眺めながら、
Hとりは、迷いのない声で言い放つ。
そして30分後
この世が沈んでしまいそうなほどの大雨に、
我々は間一髪のところで免れた。
「俺は、鼻が利くんだ〜。」
そういって、何度も鼻で息を吸い始めた。
なんだか自分の鼻の匂いを嗅いでいるようにも見える。
それに、 俺 のイントネーションも独特だ。
-Hとりさんは、ここに何しに来られたんですか?
突然、切り出してみた。
「・・・」
鼻をひくひくさせたまま、
質問には答えないHとり。
そして一言。
「わからない。」
「ただ、てねしぃ。」
思わず、え?という表情をHとりに向けた。
「天然水。」
笑いながら、早口にそう答えた。
そこからは、
沈黙だった。
(アジア森林探検記 はっとり 洞窟編より)