『良いな〜
お母さん、ぼくんちにも犬飼ってよ〜ネコでもいいからさ〜』
「駄目よ〜。うちはペット飼うお金なんてないんだし、
それにけんちゃん、面倒みれるの?」
『みるよ!ちゃんと!みるみる!』
「はいはい、じゃあ次お勉強で一番取れたらね。」
『ちぇ〜っ、またそれだよ〜。』
けんたは不貞腐れて部屋に戻った。
友達の、
だいすけ、それに、りゅうたが、同時にペットを飼い始めて
けんたに自慢してきた。
いつも新しいものを買うと、
競ってしまう彼らに、
けんたは毎回苦労していた。
この前は、新作のSWICHのゲーム
その前は、最新のシャーペン
その前は・・・
と、
ことあるごとに、必死にお願いしてきたけんただったが、
今回ばかりは、万事休すといったところか。
けんたは、練馬区の端の方、
県境の団地に住んでいる。
基本的にはその団地は、ペット禁止とされているが、
黙って飼っている人が実際はたくさんいた。
けんたも何度か、
向いの部屋から散歩に出ていく女の人を見たことがある。
もはや、なんとも思っていないように、
彼女は堂々と犬を連れて出て行った。
青いリードをつけた、トイプードルだった。
短い夏休みが明け、
久々の教室に着いた途端、
二人が駆け寄って、スマホ画面を見せてきた。
だいすけの家は、犬を。(ビーグル犬)
りょうたの家は猫(ミックス)だ。
可愛いだろ〜
と口々に、
そして厭味ったらしくいってくる二人に、
けんたは我慢できず、
「うちも今度飼うんだ!」
と、言ってしまったのだ。
お前んちペット禁止だろ。
だいすけが噛みついてくる。
「うちも大丈夫になったんだ。このコロナ禍の影響で、
契約方針も変わったんだ。」
・・・そうなのか。
一瞬だいすけが、つまらなそうな顔をした。
もちろん嘘である。
また嘘ついちゃった・・・。
これまでもけんたは、
二人の鼻につく話に耐えかねて、
持ってもいないし、買う予定もないものを、ついつい
『買う予定だ』、『こんどもらうんだ』
と
その都度でまかせを言ってきた。
しかし、けんたの凄いところは、
それらすべてを必ず手にしてきたところだ。
文房具は、自ら壊して、新しいものをお願いし、
ゲームは、商店街のくじ引きで引き当てた。
しかし、今度ばかりは・・・。
二人のペットの可愛い顔が、無性に腹立たしく見えてきて、
涙が出る直前で、けんたは、耐えた。
帰りは
「お母さんに用事を頼まれている」と、逃げるように帰ってきた。
(続く)