今週は今年生誕80年!ソウル・レジェンド『マーヴィン・ゲイ』
ゲストには、キーボーディスト/プロデューサーのKan Sanoさん、音楽評論家の吉岡正晴さんをお迎えしました。
ーお二人共、マーヴィン・ゲイはもちろん大好きですよね?
吉岡:もちろん大好き、オールタイム・フェイバリットアルバムが『WHAT’S GOING ON』です。
Sano:もちろん大好きですね。高校ぐらいからバンド活動してて、地元の先輩というか年上の人たちとバンド組んでたんですけど、そういう人たちがソウル好きで、その中にマーヴィン・ゲイもあって。だからソウルクラシックというか、こんな凄い音楽があったんだっていう、教養として聴き始めたみたいなところが大きくて。当時、ディアンジェロとかも居たんで、そっちの方が新鮮というか刺激はあったんですけど、ディアンジェロもマーヴィン・ゲイに影響を受けたって発言してますけど、聴いてるとよく解るんですよね。例えばファルセット、歌い方とかウィスパーボイス、ちょっと抑えた歌い方とか。そういうのを最初にやった人っていう印象です。僕は70年代のマーヴィン・ゲイが大好きなんですけど、60年代と70年代はけっこう歌い方が違うと思ってて、60年代はジャズボーカリストとしても聴けちゃうっていうか、割とちゃんと歌ってるんですよ、ちゃんとしたシンガーっていうか。でもその後JBとか出てきて、声の表現領域もどんどん広がっていってて。例えば歌詞になってないようなシャウトを入れたりとか、と思えばいきなりちょっと引いて小さい声でボソって歌ってみたりとか、なんか色んなことをやってて、それが『WHAT’S GOING ON』とか、あの辺から凄いなっていう。
ー吉岡さんが「マーヴィン・ゲイ」を知ったのは?
吉岡:『WHAT’S GOING ON』ですね。当時、FENという米軍のラジオを聴いていて、それで聴いたんだと思うんです。当時としては凄く異色な感じがしましたね。マーヴィン・ゲイってそれまでは割とシャウト系の歌を歌ってたのが、これはソフトに囁くように歌うようになって。曲自体が凄くメロディアスで、最初マーヴィン・ゲイってわかんないぐらいの感じじゃなかったかと思うんですね。でも曲が凄くインパクトがあった。リアルタイムで言えば、曲が全部良くて、ヒット曲の一貫として聴いてました。で、振り返って60年代の曲を聴いてみると“こんな表情もあるんだ、こんな歌い方もしてるんだ、じゃあルーツはこれなんだ”っていう発見がありましたね。『WHAT’S GOING ON』って歴史を振り返ると凄くターニングポイントなんですね。それまではモータウンのプロデューサーが創った曲、ソングライターが創った曲をシンガーとして歌わされていて、自分はもうレコード会社のパペットというような意識でやってきたんだけども、『WHAT’S GOING ON』からは自分が感じたこと、思ったこと、自分が社会に言いたいことを曲の中に込めるようになるんですよ。で、その『WHAT’S GOING ON』が大ヒットして、以降は自分がやりたいように好きなことを我がもの顔でやるようになる。
ーアルバム全体としてココが好きだっていうポイントはありますか?
吉岡:まずひとつは、このアルバムはコンセプトアルバムで、ひとつのテーマに沿って創られてるって事。『WHAT’S GOING ON』っていうタイトルに表れてる通り“反戦”だったり、“大都市での貧困”だったり“Save The Children”だったり、”環境問題“だったり、そんな事を歌ってるんですが、そういった今、現状で起こってる問題を浮き彫りにするっていう問題提起が大きなテーマになってるんですね。そういったテーマのコンセプトアルバムっていうのは、それまでのブラックミュージシャンのアルバムでは無かったんです。アルバムの曲を繋げていくっていう方法も初めてだった。それからブラックミュージックのアルバムでミュージシャンの名前を全部クレジットしたのはこのアルバムが初めてなんですよ。だからファンク・ブラザーズっていうモータウンの60年代に全部作ってたバンドの人たちは70年代以降少しずつ名前が出るようになって脚光を浴びるようになる。そういう意味ではこの『WHAT’S GOING ON』はとてもブラック・ミュージックの歴史の中では画期的な歴史の第一歩的なアルバムなんですね。
■Kan Sanoが選ぶ「カバー / アレンジしてみたい曲TOP3!」
3位 Let’s get it on
この曲は、ヴォーカルの表現領域みたいな話で言うと顕著に出ていて、最初からかなり飛ばして歌うんですよ、かなりシャウトしてて。そこまでは60年代からやってきたことだと思うんですけど、ここぞ!という時に引いて、ぜんぜん違う声で歌うんですよ。エロいって感じもありますし、ずっと押して押してじゃなく、引くっていう大人な奥行きのある歌い方をこの曲は一曲でやってるんですよね。レコード芸術だと思うんですね。細かい、小さなニュアンスとか繊細なところまで行き届いてる。
2位 I wanna be where you are
マイケル・ジャクソンが歌ってるバージョンとのいちばん違うのは、バンドサウンドになってることだと思うんです。歌だけで表現を終わらせてない。バンドサウンド込みで表現してる感じの印象を受けていて、そこが自分のやりたい事と通じるものがあっていいなぁって思いますね。
1位 What’s going on
実際ライブでたまにやってます。未だにこの曲の持ってるメッセージって世の中に必要なものっていうか、アメリカもそうですけど、日本でも。311の後とか凄く思いましたね。この曲はまだエネルギー持ってるなって、まだ必要な曲だと思うんですよね。
ーまだまだ続くソウル・レジェンド『マーヴィン・ゲイ』来週もお聞き逃しなく!
■この収録は「丸ビル コンファレンススクエアGlass Room」で行なわれました。
PLAYLIST
I Wanna Be Where You Are / Marvin Gaye
What's Going on / Marvin Gaye
inner city blues (make me wanna holler) / Marvin Gaye
Mercy Mercy Me / Marvin Gaye
Jan / Marvin Gaye
Let’s get it on / Marvin Gaye
※放送後1週間はRadiko タイムフリーでお聴きいただけます。
■Kan Sanoさんの詳しい情報はオフィシャルサイトへ
■吉岡正晴さんの詳しい情報はオフィシャルブログへ