今週はソウル・レジェンド『マーヴィン・ゲイ』のPart2!
ゲストには引き続き、キーボーディスト/プロデューサーのKan Sanoさん、音楽評論家の吉岡正晴さんをお迎えしました。
■歌声の魅力
Sano:60年代のマーヴィンはめちゃくちゃ歌は上手いんですけど、個性がそこまで確立されてない感じがするていうか…めちゃくちゃ偉そうなこと言ってますけど(笑)70年代になると、自分にしかできない表現っていうのを確立してる気がするんですよね。それはジェームズ・ブラウンとか色んな人が出てきた影響も多いんでしょうし、自分が本当に今、歌いたいこと、必要だと思うことを歌うっていう、今の僕らシンガーソングライターには当たり前のことですけど、それを最初に自分の歌でやったっていうのがやっぱ凄いところだと思うんですよね。やっぱり感情がちゃんと歌に乗ってるっていうか、それができる技術もある人だし、そこは凄いですよね。
吉岡:多分、自分のシンガーとしての可能性みたいなものを自分では解っていなくて、だけどやってるうちにこっちに伸びたり、あっちに伸びたりとかって試行錯誤してるうちにシンガーとしての幅が広がっていったんじゃないですかね。でも、そういう意味で彼は天才的なアーティストだから、思いつきでいってもそれが自分のものになっちゃうっていうか、個性になっていっちゃったと思うんですよ。
Sano:楽曲で表現したいことを重視してるっていうか、視野が広がってると思うんですよね。ヴォーカリストとしてだけの視野だけじゃなくて、アレンジャーとかプロデューサーとか、ちょっと俯瞰で見てる視点が入ってて、だから歌もちょっと引いたりできる。ヴォーカリストだけの視点で見ちゃうと歌でどんどん押してっちゃうんで。そうじゃないところに行ってますよね。
■吉岡正晴が選ぶ「マーヴィン・ゲイの隠れた名曲TOP3」
3位 Abraham, Martin & John / Marvin Gaye
暗殺されて死んでしまった政治的なリーダーたち3人をテーマにした曲。元々Dionという白人のポップスシンガーが歌ってヒットしたものをカバーしたんですけど、マーヴィンが歌うとすごく情感が出てくるんですよ。これをマーヴィンはアメリカでもシングルカットしたいって言ったんですけど、モータウンの社長ベリー・ゴーディにダメだって言われるんですね。で、アルバムの一曲として細々と入れられてアメリカでは埋もれた感じなんですけども、ここら辺から「What's Going On」に繋がる社会派、メッセージソングを歌い出して、そういう芽生えができてる曲なんですね。曲も凄くマーヴィン・ゲイに合ってると思うんです。
2位 Unforgettable / Marvin Gaye
最初モータウンはマーヴィンをナット・キング・コールみたいなシンガーにしたい、バラードを歌う、ラスベガスみたいなところで歌えるような“黒いフランク・シナトラ”的な売り出し方をしようとしてナット・キング・コールのトリビュートアルバムみたいな感じでアルバムを作るんですね。これが今聞くと凄く良いんですよ。マーヴィンにも凄く合ってる感じがする。
1位 Piece Of Clay / Marvin Gaye
71年にWhat's Going Onが大ヒットして、その続編的な曲として72年に録音した曲。マーヴィン本人が書いた曲ではないんですが、自分のお父さんに向けて“体罰なんてしないでくれ”っていう歌詞なんですね。父親に対しての抗議の歌。でも録音はしたものの日の目を見ないんですね。日の目を見るのが94年のボックスセットの中で未発表曲の一曲として入る。それを聞いた映画のプロデューサーがこの曲をピックアップして『PHENOMENON』っていう映画で挿入歌として使うんですね。そしてサントラにも入って割と一般的に知られる曲になったんです。マーヴィン・ゲイの一生っていうのは全部に父親との対立、確執っていうのがあるんですね。最後まで父親とは和解することなく一生を終えてしまう。そんな中で父親に対して言いたいことを曲に込めたのが「What's Going On」もそうですし、この「Piece Of Clay」もマーヴィンの悲痛な叫びが録音されてる曲なんです。
■マーヴィンの影響
Sano:僕が好きなネオ・ソウルのアーティストだったり、ヒップホップだったり、その後の色んな音楽に影響を与えてる人なんで、間接的な影響っていうのも凄く大きいですし、ブラック・ミュージックとか音楽をやる人にとってはもう避けては通れない道というか。
ーヒップホップ好きで掘っていっても、R&B好きで掘っていっても、大体地盤にマーヴィン・ゲイに当たるんですよね
Sano:そうなんですよ、スティービー・ワンダーとかダニー・ハサウェイ、カーティス・メイフィールドとか居ますけど、その中でも絶対外せない人。
吉岡:音楽的にはもう本当に「What's Going On」から3〜4枚のアルバムっていうのは神がかったアルバムだと思います。それは後年のネオ・ソウル、それから現代に至るまでのブラック・ミュージックのみならず、あらゆる音楽シーンに影響を与えてると思います。それともう一つ感じるのは、これだけ凄い作品を残してるんだけども、ひとりの人間としては凄く弱くて、小心者で、とても人間としてはリスペクトできないような小さい奴っていうところが感じられるんですね。彼がもしもっと強ければ、今でも生きてると思うんですよ。でも弱かったから、自分でも計算できないし、自分の思うがままに生き人間だと思うんですね。自業自得だとも言えるけど、その辺がすごく不憫に感じます。
Sano:インタビュー映像とか見ると、相当シャイな人なんだろうなって。繊細な人間だからこそ、大胆な表現ができるっていうか。でも相当エネルギーを使うし、勇気がいるし、傷ついてたんだろうなっていうのは、なんとなくわかるような気がします。父親のことだったりレコード会社と戦ったり、自分の表現を突き詰めていくための精神的な負担っていうのはあったんだろうなって思いますね。
■キャッチ・コピー
Kan Sanoさんのマーヴィン・ゲイとは「セクシージェントルマン 」
人としてシンガーとして色気がある。そのセクシーさがギトギトしてない。やっぱ紳士なんですよね、大人っていうか。
吉岡正晴さんのマーヴィン・ゲイとは
「悲しみと苦しみの涙が作品に消化するアーティスト」である!
マーヴィンの作品ってあんまり明るいイケイケの曲って少ないんですよね。彼自身の人生の8割は悲しみと苦しみの方が多い。でもそれが結果的にどのアルバムにも色濃く出ていて、そういうダークな方が彼の作品を表してる。どこかしらに涙がある。
2週に渡るソウル・レジェンド『マーヴィン・ゲイ』
最後は「After the Dance」で締めくくられました。
■この収録は「丸ビル コンファレンススクエアGlass Room」で行なわれました。
PLAYLIST
I Want You / Marvin Gaye
Just say just say / Diana Ross & Marvin Gaye
Ain't No Mountain High Enough / Marvin Gaye & Tammi Terrell
Piece of Clay / Marvin Gaye
DT pt.2 / Kan Sano
After the Dance / Marvin Gaye
※放送後1週間はRadiko タイムフリーでお聴きいただけます。
■Kan Sanoさんの詳しい情報はオフィシャルサイトへ
■吉岡正晴さんの詳しい情報はオフィシャルブログへ
※プレゼントのお知らせ※
吉岡正晴さんも寄稿された、河出書房から発売中!『マーヴィン・ゲイ』生誕80 周年を記念して、様々な角度からその魅力に迫り特集したムック本を3名さまに差し上げます!
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