今週は、今年 没後40年。今も尚、シーンに多大な影響を与えるソウル・レジェンド『ダニー・ハサウェイ』ゲストには、ゴスペラーズ 黒沢薫さん、キーボーディストでプロデューサーのKan Sanoさんをお迎えしました。
■ダニー・ハサウェイとの出会い
黒沢:大学2年の時ですね、吉祥寺の中古レコード屋さん。サークルでアカペラを始めたぐらいですね。まだゴスペラーズを組んでクリスマス・ライブに出るとか出ないとか、そんな事を言ってたあたりなんですけど。いろんな新しいシンガーの新しいスタイルを吸収したいと思ってて、スティービー・ワンダーが好きだったので、こういう音っていうのは聴いたことはあったんですけど、たまたまその中古レコード屋さんに入った時、ダニー・ハサウェイのファーストアルバム「Everything Is Everything」が流れてて“うわっ、なんだこれ?!”って思って、“おれ、これ知らないけど、凄い好き!”って、すぐ買いました。このファーストアルバムの頃はまだブルージーな曲もあるんですよ。コード展開がとにかく複雑で、ジャズのカバーなんかもやってましたね。でもなんと言っても“歌声”ですよね。地の底から響くようなディープな歌声。特に歌い出しのあたり。例えば60年代ソウルのシャウトしているジェームズ・ブラウンとかスタックスっていうちょっとロックンロール入った黒人とちょっと違うんですよ。凄く静かなんですよね。あとね、切ないんです。何を歌ってても切ないんですよ。“これは凄いシンガーを発見したぞ”って思って調べたらもう亡くなっていたんです。
Kan:僕は高校1年の時なんですけど、地元のミュージシャンと一緒にセッションとかライブをやり始めてた時期で、GATS TKB SHOWのGATSさんっていうシンガーの方が地元金沢の美大祭で演奏すると。そのバンドのメンバーに呼ばれたんです。とにかく何も知らないまま、当時、スティービー・ワンダーぐらいしか黒人音楽を知らないような状態だったんですけど、そのバンドメンバーから“この曲演奏しますよ”みたいなテープを貰って、そこにダニー・ハサウェイの「What's Going On」と「The Ghetto」が入ってたんです。
グローバー:初めて聴いた時の気持ちは?
Kan:“こんな音楽あったのか!”っていう衝撃があって、全曲聴きたくなって、すぐに『LIVE』のCDを買ったんです。ダニー・ハサウェイはフェンダー・ローズとかウーリッツァーっていう70年代のヴィンテージのキーボードを弾くんですけど、そういう音に初めて触れたような感じって言うか、ライブならではの臨場感とか、“こういう楽器があるんだ、こういう風に鳴らせるんだ”っていう驚きと感動がありました。
グローバー:彼のプレイで楽器の音色の素晴らしさに気付かされたりしたと。
Kan:そうです。「What's Going On」もマーヴィン・ゲイに比べるとグルーヴィーっていうかノリが凄くいいじゃないですか。それがやっぱいい。
黒沢:マーヴィンと違ってダニーは演奏しながら歌うんで当たり前ですけど、バックの演奏と歌の絡み方が歌だけ歌う人と全然思想が違うんですよ。グルーヴの一部になってるんですよね。ズルいですよ。
Kan:そうですね、例えば「What's Going On」のイントロをダニーが弾き始めて、4小節ぐらいからバンドが入ってくるんですね、バンドが入ってきたら刻むのをやめてるんですよ。そこからはバンドに預けてるんですよね。そのイントロだけで、この人は自分一人で完結させようとしてるのではなくて、バンド全体で表現しようとしてるっていうのが分かるんですよ。自分もバンドの一部になっているっていう考え方だと思うんですよね。
■名盤『LIVE』
黒沢:ジャンルを越えてますね。本当の名盤だと思います。これは空間ごと閉じ込めてるんですよ。だからダニーの良い歌とか、バンドの良い演奏とか、観客のレスポンスとか、良いところってたくさんあるんですけど、それが空間ごと封じ込められてて、リスナーとしては自分もそこに居るような気持ちになれる。演者としては嫉妬ですよ。こんな空間を作れるって、歌っててもなかなか作れないですよ。それが奇跡のようにひとつになって。もう鳥肌立ちます。
Kan:「You've got a friend」のイントロが始まったときにお客さんたちがみんな“ワーッ!キャーッ!”みたいになってて、当時あの曲がどれだけ流行ってて、ダニー・ハサウェイのバージョンをみんな聴いてて、家で歌ってたのかっていうのがもう想像できますよね。70年代のソウルを体験させてくれたアルバムですし、ファンクのジャムセッションみたいなものの初体験だったと思うんですよね。でもキーボーディスト目線で考えるとダニー・ハサウェイのプレイって激しいプレイしててもキレイにまとまってる感じがあって、熱量がどんどん上がっていってもクールな部分は感じていて、それはヴォーカリストだからなのかフレーズがすごくメロディックですし、ピアニストっぽいっていうよりはシンガーっぽい弾き方だと思うんですよね。
黒沢:端正ですよね。歌声にしてもピアノプレイにしても。多分どこかで自分の全てをコントロールしたいっていう欲がある人なんじゃ無いかなっていうのは思いますね。
グローバー:彼の美学みたいなものが詰まってるんですね。
■「黒沢薫が選ぶ、ゴスペラーズでカバーしたい!?ハーモニー映えしそうなDonny Hathaway ナンバー」TOP3!!
黒沢:とは言えですね、ダニー・ハサウェイの曲って、凄くコード進行が複雑なんですよ。あと実はコーラスリフで回してく曲ってほとんど無いんです。だからコーラスにしにくいんです。めっちゃ悩みました。
3位 Love,Love,Love
黒沢:これはもうほとんどコード進行が「What's Going On」と一緒でしかもカバー曲なんですけど、常に後ろにコーラスがある感じ。これだったらまあ様になるし、“3回目のサビでリハモナイズするか”みたいなイメージが湧きやすい。
2位 You've got a friend
黒沢:これはやっぱりロバータ・フラックとのハーモニーがありますし、セッションの定番曲なんですよ。だいたい2声ハーモニーなんだけど、もうちょっと増やしてやっても凄くメロディが強いのでなんとかなるんですよ。これはやり易い。
1位 This Christmas
黒沢:実はゴスペラーズでもオーケストラバージョンでカバーしてるんですけど、一度アカペラにしたことがあるんです。でも上手くできなかった、難しすぎて。5声だと無理なんです。なんかベースとか変なんですよ。“え?このベースライン行くの?”みたいな。だからアカペラだと無理。なので自分たちで違うところのハーモニーを付けて。今だったらまた違うアレンジの仕方があるのかも知れないですけど、当時としてはこれが精一杯っていう感じでしたね。曲がとにかく素晴らしいので、いろんなアーティストがカバーしてるんですよね。そういう独自のコード進行の美しさがありますね。
まだまだ続くレジェンド『ダニー・ハサウェイ』次週もお聴き逃しなく!
■この収録は「丸ビル コンファレンススクエアGlass Room」で行なわれました。
PLAYLIST
Voices Inside (Everything Is Everything) / Donny Hathaway
What's Going On / Donny Hathaway
The Ghetto / Donny Hathaway
Valdez in the Country / Donny Hathaway
My Girl / Kan Sano
This Christmas / Donny Hathaway
※放送後1週間は右のRadiko タイムフリーボタンでお聴きいただけます。
■黒沢薫さんの詳しい情報はオフィシャルサイトへ
■Kan Sanoさんの詳しい情報はオフィシャルサイトへ