今週のテーマは、今月、6年ぶりとなるニューアルバム『30』をリリースした、ロンドン出身の世界的歌姫、アデル!ゲストには音楽プロデューサー 本間昭光さん、 シンガーソングライター 遥海さんをお迎えしました。
■アデルとの出会い
グローバー:まずは本間さんに伺います。アデルが出てきて初めて出会った時、どんな風に聴きましたか?
本間:USチャートを調べてたら「Chasing Pavements」が上がってきてて、それを聴いてみたんですよ。ものすごくソウルフルな歌い方だったんですよね。だけどイギリスでしょ、だからそのバランスと言いますか、あと声質がやっぱり久しぶりに震えるタイプで心に響いて。ちょっとハスキーと言いますかそういう部分もありますし、でも年齢見たら19歳。どういういうことなんだろうと。幅は広いし、奥が深い海外のシンガーの世界っていうものを改めて感じたわけですよ。
グローバー:どういうことなんだ?ってキャップはどこにいちばん感じたんですか?
本間:表現というものが完全に身体に入っちゃってるっていうことなんですよね。誰かにプロデュースされたとか誰かにディレクションされたということじゃない内側から出てきてるそのまんまなんだろうなっていう。
グローバー:そこからどんなふうに掘っていきましたか?
本間:それでアルバム聴いてみたら“なんじゃこれ”みたいなね。歌はもちろんのことなんですけども、楽曲ごとに緻密に構成されている。すごい演奏が揺らいでるっていうか、これセッションでやってるんだなってところがたくさんあって。だからそこでそのまませーのでやろうよ、みたいな感じてやってるところのワンテイクで出るか。それは何テイクもやって“これが良かったよね”みたいな感じに戻ってるってのが僕の予想だったんですよね。それを19歳で出来てるっていう事は、その時組んでたプロデューサーの能力ももちろんあると思うんですけれども毎回毎回自分のチカラ、自分の表現が出来てるというヴォーカリストが19歳にしてもうほぼ完成されてるって事が驚きでしたよね。
グローバー:遥海さんはその時のアデルよりは年上になりましたけども、今25歳のシンガーソングライター。歌っているこの時のアデルは19というアルバムですからティーンの時に書いた曲を歌った歌声、これを聴いた時覚えてます?
遥海:覚えてますね。私、生まれも育ちもフィリピンで、フィリピンで初めてこの曲聴いたんですよ。11〜12歳ぐらいの時でしたね、小学生の時で。最初のイントロから入ってくる感じが“あれ?”と思ってパッとテレビを観たんです。ミュージックビデオがすごい面白いなと思ったのがきっかけで、この人の曲で初めて心の傷っていうものに気付けた自分がいましたね。
グローバー:小学生でも感じたそのざらざらっとした胸の中。
遥海:そうですね。なんか声の響きがすごい下にあってこんな低い声で歌ってる人で倍音がすごい人ってあんまり居ないなーって思って凄かったんですよ。あと抜くところだったりがこの人は技術として思ってないんだろうなみたいな。この言葉とかはこういう感じで表現したいからぽっと出ちゃうような、なんか“身体で歌ってんだなこの人は”って。あの人の全てが歌ってんだなーって思ったのが、私11とかで恋愛からくるような心の傷っていうものにまだ全く出会ってなくて、そこで初めてまだぜんぜん経験してないことなのに“あれ?なんか切ないなー”っていうのがきっかけでしたね。
グローバー:きっとアデル本人だってそこまで人生経験を山ほど恋愛して山ほどビターな思いをしたかっていうと、ひょっとしたら違うかもしれないけどなんか全身の感性で感じたものがパッと出てくるってのは歌にあるんでしょうね。
遥海:そうですね。その時に“あ、この人もう目標のひとりに入っちゃったな”って。
グローバー:そこからもう今は自分もプロのシンガーになって今でもずっと聴いてきてると思いますけども、その後どんなところに惹かれて好きになってきたポイントどんなところがありますか?
遥海:赤裸々なところがすごく好きですね。私音楽を聴くときにいちばん気にするのが歌詞で、ちゃんとした歌詞なのかなぁみたいな。やっぱり最近の曲って雰囲気が結構重要になってきてる時代じゃないですか。そうじゃなくてこの人の言葉一つ一つが自分が今恋愛とか失恋とかも全然知らないのに、あの頃のことを思い出させてくれるような“あれ?失恋って昨日だったっけ?”ってなるぐらい切ない気持ちにさせてくれる。その時に戻してくれるような歌声にものすごく惹かれますね。
グローバー:本間さんも表現力に驚いたっていうお話ありましたけれど、この言葉を歌にするっていうのはそれこそ技術ではなかなか言えない、ディレクションしようにもできないものがアデルには詰まってるんですか?
本間:そうですね。やっぱり生い立ちに基づくものが大きいかなって思うんですよね。早くからお母さんと二人でずっと育ってきて、まあ色んな恋愛もしたんでしょうね。苦しみがたくさんあったと思うんですよ。彼女の歌って基本的に後悔とか苦しみとかね、悲しみとかそんなのばっかりなんですよね。嘘がないんでしょうね。だから経験に基づいてるものだったりするから、それがもしかしたらフィクションかもしれないし、ノンフィクションかもしれないし、どっちなのかわかんない。人の失恋を見て書いたものかもしれないし、自分自身のものかもしれないけれども、ちゃんと共有できる環境であったりとか意識っていうものが常にあったんじゃないかなと思うんですよね。だから“私は歌を通して表現する、あなたの悲しみを表現する”という感覚もあったかもしれないですね、友達の話とか聞いたりして。全部が全部彼女の経験かどうかわからないけれども、基本彼女の経験の中にそういうちょっとした他の方から聞いたものとかの色んな話題とかを織り込んでるんじゃないかなと思うんですけれども、それをすべて自分のものにしちゃって歌ってるっていうところが凄いなって思いますね。
■アルバム『21』
グローバー:お二人には事前アンケートにもお答えいただきまして、アデルの楽曲もそうですが“アルバムでいちばん好きなのはどれですか?”と伺いましたらお二人とも『21』このアルバムを挙げました。いちばん好きな曲もお二人とも「Someone Like You」。改めてアルバム『21』の大好きなところというのはいかがですか?
遥海:この頃って恋愛でいちばん苦しかったんじゃないかなって思って。2008年のUSツアーを中止にするぐらいでしたよね。そのすべての傷っていうものが、このひとつのアルバムに収まってるんだなって思って。彼女の傷は可哀想だなとは思うんですけど、でもまた“いい曲がありすぎて選べないってこういうことか”っていう魅力がすごく良かったんですよね。グローバー:本間さんはどんな風に?
本間:やっぱり『19』のヒットがあってまた考え方も変わっただろうしね、世界中の人が認識するアーティストになって。そういう中で何を伝えていくかっていう時に、よりパーソナルなところに掘り下げていった感じがあって。サウンドメイクとしてはもっと時間を掛けて作れるようにはなったんだろうと思うんですけれども、とにかく無駄を削ぎ落としたサウンドになってるんですよね。だから音でお化粧していくタイプではなくて、もっともっと声に特化した感じで、“声に集中してください”みたいな作り方ができていて、今度は『19』の時と違って何度も何度もテイクを重ねたんだろうなみたいな感じっていうか、ダビングであったりとかそういうのがあって。いちばん良いものをそこに残していくみたいな感じの匂いがしたんですよね。
グローバー:特にお好きな曲という「Someone Like You」に関してはどうですか?
本間:これはやっぱり歌詞がね。
遥海:わかります(笑)
グローバー:ここは世代も性別も超えて、お二人目を合わせて笑ってしまってますけれども。
本間:これはでもやっぱりね。
遥海:一度でも人を好きになったことがある人は必ず共感できる曲だと思いますね。
グローバー:カラオケとか自分でもよく歌う大好きな曲ということですが、歌ってみて言葉とかね、どうですか?
遥海:“お願いだから私のこと忘れないで”っていう表現が、彼の幸せはすごく望んでいるけれどもお願いだから私のことは忘れないで欲しいみたいな。名前付けて保存っていうんですかね、自分の記憶の中に上書き保存じゃなくて“名前付けて保存でお願いします”みたいな感じが“わかる!”っていう。
グローバー:目の前で相手には口に出して言えない“お願いだから・・・”っていう声は歌でしか出せないような気持ちですよね。
遥海:そうなんですよ、言葉では物足りないものを声がカバーしてるんだなっていうのがわかりますね。
■25 歳のシンガーソングライター、遥海セレクト!
え!? これって私のことを歌ってるの!?「歌詞に惹かれるアデル・ソング」TOP3!!!
3位:Make You Feel My Love <『19』2008 年>
遥海:カバー曲だと思うんですよね。この曲は最高ですね。“私の愛を伝えるためにはもうなんでもします”みたいな。なんか自分のことを考えず相手のことを第一に考えて。
グローバー:無償の愛ってことですかね。
遥海:ですかねー。なかなかなれないんだろうなと思って。だからそういう愛って私まだ出会ったことないかもしれないなーって思って。でもなんかこの曲聴いた時に“あ、こういう気持ちになっちゃうんだ?”って思って。なんか人生の勉強になったっていうか。この人って人を愛する時、本当に自分を添えるんだなっていう歌い方でしたね。
グローバー:この曲はボブ・ディランが原曲ということでした。
2位:All I Ask <『25』2015 年>
遥海:誰かを愛するって、好きになるって、なんかもうその目で“もうわかってるからもう嘘をつかなくていいよ”みたいな歌詞も出てきたりとかもしてて、ま確かに失恋する時ってもしかしたらもう次の恋に行けないかもしれないって思うじゃないですか、この人にすべてを捧げてしまったからみたいな。でも“これからも本当に生きていく上で大事にできる二人の思い出をお願いだから残して”っていうのがこれなかなか言葉にするって凄いなって思ったんですよね。
本間:これは本当に完成されてますね。歌詞もメロディーも歌声もピアノのバッキングもそうですけど、もうこのキーじゃないとこの感じにならないですよね絶対に。だからそういう意味で全てがマッチングされてる完成された素晴らしい名曲ですよね。
1位:Don`t You Remember <『21』2011 年>
遥海: “なんで私を好きじゃなくなるの?”っていう。“私を好きになった理由を覚えてないの?”って分かるー!っていう(笑)“さよならも無しで去っていくなよ”みたいな。“私のこともういいの?”みたいなのが、なんですかねこの人(笑)
グローバー:きっとそうなんですよ、誰しも言葉にできないけど心の中にずっと居る、まあ昔の自分とかね、昔の傷だったものが大切な宝物になってたり、たまに会うとその傷が愛しい自分の友人のようだったりってあるじゃない。そういうものをアデルって出会わせてくれるからもう言葉にならない抱擁を昔の自分と交わすみたいな気持ちになりますね。
遥海:そうですね、もうアデルっていうジャンルがあるんだなっていう風に思いますね。あぁ素晴らしい。
まだまだ続くアデル、来週もお楽しみに!
PLAYLIST
Chasing Pavements / Adele
All I Ask / Adele
Someone Like You / Adele
One and Only / Adele
Send My Love (To Your New Lover) / Adele
Don`t You Remember / Adele
◆Spotifyにもプレイリストを掲載しています。ぜひお聴きください。
■放送後1週間は右下のRadikoタイムフリーボタンでお聴きいただけます。
■本間昭光さんの詳しい情報はオフィシャルサイトへ
■遥海さんの詳しい情報はオフィシャルサイトへ