今週のテーマは、現在20歳、世界中の音楽シーンを席巻する、若きシンガーソングライター Billie Eilish。
ゲストには音楽プロデューサー田中隼人さん、奥浜レイラさんをお迎えしました。
■ビリー・アイリッシュとの出会い
グローバー:田中隼人さんはビリー・アイリッシュとの出会い覚えてますか?
田中:僕は最初にちゃんと聴いたのが「Lovely」っていうカリードとのコラボ曲というかデュエット曲だったと思うんですけど、仕事柄普段SpotifyとかでUSチャートとかバイラルチャートとかを頭から何時間もかけて流し聴きするみたいな習慣があるんです。
グローバー:その聴き方はおそらく僕ら音楽好きが聴くのとはちょっと違う訳ですよね?
田中:そうですね。ただ音楽聴いてるっていうよりは“今日はこういうのを探してみよう”みたいなテーマをある程度決めて聴いていくということをしてます。
グローバー:自分の作りたい音楽になにか新しくて良いヒントないかなと。
田中:そう、まさにそういう聴き方をしていた時にこの「Lovely」を聴いて、こんなに薄いオケで歌だけで表現するような楽曲があるんだなと思ってびっくりして調べたら“あれ?もしかしてこの子のアルバム聴いたことあるかもな?”と思って。おそらく最初のEPを聴いたことはあったけど、その時は全く刺さらずにスルーしてったものがこの「Lovely」で初めて引っかかってきちんと聴き始めたというのがキッカケです。
グローバー:これだけ薄いオケでこれだけエモーショナルな音が鳴るんだと。奥浜レイラさんは出会った時のインパクト覚えてますか?
奥浜:多分田中さんと同じようにチャートに入ってきてたの聴いたんですけど、私の場合は「Ocean Eyes」だったんです。「Ocean Eyes」もシンプルではあるんですけどこれだけイノセントで胸の奥の方に刺さってくるみたいなこの魅力は一体何だろう?と思って。後々知ったんですけど「Ocean Eyes」はビリーが音楽よりずっとダンスに夢中だった頃にダンススタジオの先生が踊るためになんか曲作ってくれない?ってお兄ちゃんのフィニアスとビリーにお願いをして、それを先生に共有するのに“クラウドに上げた方が先生聴きやすくない?”ってサウンドクラウドに上げたらそれがめっちゃバズってしまったみたいな(笑)1日ですごいヒットしてしまい“あれ?先生に聴かせるはずだったのにおかしいな”みたいな(笑)
グローバー:そういうなにか奇跡的な物語がビリー・アイリッシュにはついて回りますが、そこから彼女もどんどん大きくなっていって色々な場面も見てきて改めて今一番好きだなというのは田中さんいかがですか?
田中:新しいアルバムでいうと「Lost Cause」という曲がいちばん好きで、いい意味でビリー・アイリッシュっぽくないというか。僕これ初めて聴いた時、なんかジル・スコットとかエリカ・バドゥみたいなより新しいチャレンジをどんどんしていこうっていう気概が見えるというか。そういうチャレンジみたいなものも見えた上で、このトラックでビリーが歌うとこんな曲になるんだと。いわゆるジル・スコットなんかとは全く違う仕上がり。味付けほぼ一緒なはずなのに全然違う料理になって出てきたみたいな感じの感動も含めて今好きな曲であげさせていただきました。
■ビリー・アイリッシュの「歌声」
グローバー:奥浜さん、彼女のヴォーカル、いちばん惹かれるところどんなポイントですか?
奥浜:音源で聴くと、もちろんそれをライブにすごく忠実に再現してるのでイコールライブもってことなんですけど、本当にベッドルームでレコーディングしているので外に向けて放っているというわけではなくて、本当に隣に座って歌っているような耳元で囁くようなこのウィスパーボイス。これがやっぱり彼女の歌いたい内容、心の内とすごくリンクしているっていうところなんじゃないかなあと思いますね。そこで最近だとちょっと張ったりとかシャウトまでいかないんですけど少しいつもよりは張り目で歌ったりするんですが、ドキュメンタリー映画の中で彼女が声を張ることに対してちょっと抵抗があるそぶりを見せるんですね。張ったことによってファンから叩かれるみたいな言い方をしてたんですよ。自分の歌の持ち味からなかなか抜け出せない。ウィスパーボイスで戦ってきたところを張るっていうことに対して一つ壁があるみたいなところを見せてたんですけど、でも今回の『Happier Than Ever 』っていうアルバムでは結構そこを突破するような曲も出てきてるのでそこがまた新境地なのかなと聴いてたんですけどね。
グローバー:田中さんはこの歌声はすごいなーって感じたものあります?
田中:僕はちょっと前のアルバムの曲で「I LOVE YOU」っていう曲なんですけど、楽曲自体ものすごく良くて、ちょっとスマッシング・パンプキンズの暗い曲のニュアンスを感じたんですけど、ウィスパーから入って本当に彼女の声を一番感じられるなと思ったのは、だいたい歌って最終的なトラックで作業する時にリバーブって言われるカラオケで言われるエコーみたいな声を少しぼかすエフェクト処理をするんですけど、それがゼロで本当に耳元でビリーが囁いてるような歌い方をしていてこれがいちばん彼女のウィスパーボイスの魅力的な部分をすごく聴けるいわゆるASMR的なウィスパーボイスの聴き方ができる曲で、しかもこのサビになった時に歌が2本になって左右の耳から聞こえるんですよ。そういう仕掛けになってて。
グローバー:音もどんどんイヤホンミュージックになってきてるじゃないですか。
奥浜:親密な音作りをね。
グローバー:スピーカーで聴くというより、右と左とか、こういうバランスでこの場所に置いてって、割とプロデュースとか仕掛けた分リスナーに届きやすいってのもありますね。
田中:そうですね、圧倒的に音楽の作り方も変わってきましたね。
■音楽プロデューサー田中隼人が選ぶ
『ベースラインが耳をひく、ビリー・アイリッシュ ナンバーTOP3!
3位:「xanny」
田中:ビリー・アイリッシュ以降、ベースラインというよりはベースの音像というか、低音の音像の作り方が少しずつ変わってきてるっていうのはあって、今までは音の帯域ってあるじゃないですか、低いところから高いところまで人間が聞き取れる可聴領域ってのがあるんですけどその中の比較的真ん中から下、もちろん低い所にいるんですけど、でもそれってあくまでもキックとの兼ね合いで他の楽器を邪魔しないように、そしてベースラインがある程度聞き取れるようにみたいなバランスよく作られることが多かったんですけど、特にこの「xanny」っていう曲はベースの音デカすぎて家のスピーカー壊れるんじゃないかぐらいのベースの音量なんですよ。これはもう僕ら音楽の仕事してる人の発想からするとまずやらないというかアンバランス過ぎる。ただこれはこの曲のテーマとしてこれぐらいこのベースだけが出てるような空間を作りたいというかきちんとこういう風に聴かせるっていうメッセージがきちんと理由があるなと思うんですけど、ただとにかく歌よりデカイし、本当サビだけなんですけどサビの前はなんかカントリー調のすごい穏やかな本当にリンゴスターが叩いてるみたいなフィルが入るんですけど、その後のこの極悪ベースが出てきて歌も聞こえなくなるっていう。これはびっくりしました。
2位:「Oxytocin」
田中:これは初めて聴いた時は昔のマドンナだなと思ったんです。 エロティカとかヴォーグとか踊ってる頃のマドンナ感が凄いするなと思っていて、この楽曲自体ワンコード、ずっと同じコード進行なんです。ということはベースラインもずっと一緒なんです。いわゆるテックハウスみたいな。クラブミュージック用に作ったハウスと全く同じ構造をしているんだけど、ビリー・アイリッシュがきちんと歌をのせることでこんなにもちゃんと展開を作れるし、ずっと聴いてられる曲になるんだなっていうのが凄いなと思いました。
1位:「bad guy」
田中:これも本当にシンプルなオケでもう前半はベースとドラムと歌だけ。途中ドロップの部分はちょっとシンセが出てくるっていうだけの構成なんですけど、本当にこれはもうベースラインだけで楽曲を持ってくような曲で、この曲は唯一俺が作ったことして欲しいと思った楽曲ですね(笑)多分日本のレコード会社だったりとかみんなが衝撃を受けて“これをやってみたい!”と思わせるぐらいのパワーを持った楽曲だったんじゃないかなと思います。
グローバー:レイラさん、この中毒性が高いと言いますけど、本当この毒の部分がミュージックビデオとか見ると特に“イッテルネ”というカッコ良さがありましたね。
奥浜:はい。このダークさとか闇の部分、歌詞でもすごくそれはありますけど、あとビジュアル面でもこんな表現をこれだけ大勢の人が見ていいんだっていうところとか、あと「bad guy」に関しては日本でもとてもヒットしましたけどこういうダークな曲がこれだけチャートで上の方に上がるんだっていうところも驚きでもありやっぱりその時代性とリンクする部分というか、多分Z世代のティーンエイジャーの方がハマる理由もそこにあるんだろうなっていう感じがしましたね。
■奥浜レイラセレクト「このフレーズに共感!?」歌詞に注目して欲しいビリー・アイリッシュ ナンバーTOP3!
3位:「Your Power」
奥浜:ビリーがいろんな力について話す時に「Your Power」の話をするんですよ。例えば政治の話であるとか社会の中で暴力的な事件が起きた時に“あなたのパワーを正しい方向に使えば世の中ってもっと違う方に動くんだよ”っていうところにもこの「Your Power」を用いて語ったりしてるので、そういう意味でも個人的な出来事が社会を歌っているっていう意味にも通じるのかなと思って選びました。
2位:「Therefore I AM」
奥浜:このタイトルは“我思うゆえに我あり”というデカルトっていう哲学者の言葉を引用してるんですけど、“自分のままで生きたい”っていう。それって当たり前の事なんだけど意外と社会の中でそれを実現するのは難しいよねっていうのは彼女が常々言っていることで、例えば体型のことを人からジャッジされたり、彼女が太っているとか痩せているとか見たこともないのに憶測が飛んだり、そういうところをもう全部突っぱねるような曲なんですよ。MV の中でも自分の思うままにいろんなものを食べたり“それの何がいけないの?あなたに何の関係もないでしょう?”っていうところもなんかこの曲には詰まっている気がして彼女の最近の体型に関する発言であるとか近年個人的に発信していることとも繋がるタイトルであり内容かなと思いました。
1位:「my future」
奥浜:ビリー・アイリッシュってZ世代、ティーンエイジャーを中心として若い世代の人たちが今抱えている例えば“孤独”であるとか銃乱射のこともありますけど、事件の恐怖であるとか、例えば自分のメンタルヘルスとの向き合い方であるとか、地球温暖化とか気候危機とかこの先の未来を見ると結構絶望感、不安がありますよね。また身近なところで言うと恋愛だったり人間関係の複雑さとか煩わしさみたいなものをまた一から経験していく世代でもあって、そのことを大人達はとても幼いとか若い人たちのこと割と軽視しがちなんですけど、そこをビリーが歌うことによって同じ悩みだったりダークな部分を抱えてる人と橋をかけて繋がっていくみたいな役割をもう間違いなくビリーは体現しているアーティストだと思うんです。そのダークなところを歌ってきた、心の闇を歌ってきた彼女が“それでも私は自分の未来に恋してる”って歌うところがやっぱりこう飛躍したポイントかなと思います。「my future」ってコロナでロックダウンが始まったばっかりの時に彼女が書いた曲なんですけど、その時に“あなた達の手の中に私たちの未来ってちゃんとあるんだよ、だから自分たちで選ぶ権利であるとか自分で表現していく権利だったり、そういうものを自分の手で摑み取っていこうねみたいなメッセージも発言していて、コロナ禍でもロックダウンも人種的な分断とかもありましたけど、そこにもこの「my future」は繋がっていた。彼女の個人的な思いであり社会だったっていうところが1位に選んだポイントです。
■キャッチコピー
田中:「ビリー・アイリッシュとは…明るい話題の少ない音楽業界に舞い降りた、ちょっと暗めの新時代の救世主」である!
もうCDが売れなくなったとか、売上が下がった、印税が少なくなったみたいな話しか今ないんですよね。本当に暗い話題ばっかなんですけど、そんな中に舞い降りてきた天使というか、新時代の救世主というか。っていう感じで僕は捉えてます。
奥浜:「ビリー・アイリッシュとは…人類の現在であり未来である」である!
やっぱりこうやってティーンエイジャーとか若い世代のリアルを歌ってくれているというのはイコールみんな未来を担っている人たちの地球とかね、そういうものも彼女の視野に入ってるので現在地であって、彼女が発言することは本当に“みんながこうであったらきっと地球とか人類って変わってくんだろうな”っていう未来であり希望なんですよ。というところでちょっと大きなものを彼女に背負わせてしまって今申し訳ない気持ちになりました(笑)
ラストは彼女の出発点であり、歴史が動いた瞬間「Ocean Eyes」で締められました。
PLAYLIST
Lost Cause / Billie Eilish
Getting Older / Billie Eilish
bad guy / Billie Eilish
my future / Billie Eilish
Ocean Eyes / Billie Eilish
◆Spotifyにもプレイリストを掲載しています。ぜひお聴きください。
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