2023.9.27
先日、大手家具小売店が、従業員の着替え時間に
賃金を払っていなかったというニュースが報じられ注目を集めましたが、
「制服の着替えにかかる時間は、労働時間なのか?」など、
今日は、労働時間のグレーゾーン問題に迫ります。
お話を伺うのは、島田法律事務所の弁護士、
島田直行さんです!
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大手家具小売店で起きた事例について・・・
・8月、大手家具小売店が従業員の着替え時間に
賃金を払っていなかったと報じられた。
・毎日新聞の記事(8月28日付)によると、大手家具小売店は、
従業員に対して、始業時は着替え後にタイムカードを打刻し、
終業時も打刻してから着替えるよう求めていたとのこと。
・また、FNNの記事によると、9月以降は着替え時間を出退勤時各5分とし、
合計10分間を1日の労働時間に含めるとのこと。
1日10分の着替え時間が労働時間に含まれることで、
もちろんお給料も変わってくる?
例えば、大手家具小売店の店舗がある千葉県船橋市の
最低賃金1時間984円で計算すると、
週5日で20日間働いた場合、年間およそ4万円給料が上がることに。
(FNNの記事8月29日付)
そもそも制服に着替える時間は、労働時間に含まれるのか?
・前提として、労働基準法には、"着替え時間が労働時間にあたるのか"に
ついては明記されていません。
・そこで「労働時間とはなにか」から紐解くと、
三菱重工業長崎造船所事件の最高裁判決(2000年)は、
労働時間について「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」と
定義しました。
・そのうえで、労働時間に該当するか否かは、
労働契約や就業規則などで決まるのではなく客観的に定まるものとしています。
・この判断に基づけば、会社が制服の着用を義務付けている場合には、
原則として着替え時間も労働時間となります。
これは会社の事業規模に関係なく適用されるルールです。
着替え時間を労働時間に含める場合、
会社側としてなにか気を付けることはあるのか?
・制服の着用に要する時間が、あまりにも人によって違うというのも不自然。
・たとえば、同じ制服を着用するのにAさんは5分、Bさんは20分となれば、
周囲からしても「なぜ」という不信感の火種にもなる。
・会社としては、着替えに要する時間について社員とコンセンサスを取っておくべき。
特に特殊な制服で着用に時間を要する場合や、
更衣室が離れているために移動時間も要する場合などは
1つの基準をもっておくことで、労使双方の認識の相違を回避できるでしょう。
着替え時間のほかにも「これって労働時間じゃない?」という
グレーゾーンな問題は結構あると思いますが、
例えば・・・
「通勤時間にスマホで仕事上のメッセージの確認や返信を行う場合」
・通勤時間中のスマホ対応に関する会社の命令の有無によります。
会社が通勤中でも対応するように命じていれば労働時間になります。
・こういった命令は必ずしも明示されたもので、
なければならないというものではありません。
・例えば通勤中に対応しなかったことで批判されていたら
明確な命令がなくても「黙示の命令があった」と
指摘されて労働時間と評価されることもあるでしょう。
「休日の旅行先で、急きょZOOM会議に参加した場合」
・そもそも「休日」というのは、労働から解放されているとき。
会社の都合で一方的に「今から会議だから」と言えるわけではありません。
仮に応じたのであれば、それは労働時間ということになり、
然るべき賃金を支払う必要があります。
・問題は、こういった労働時間をきちんと管理できるのかということです。
ITによってさまざまなワークスタイルが提唱されるようになりました。
それ自体は多様性を認めるうえでも大事ですが、同時に時間の管理も難しくなります。
働きやすい職場を作るためには、「労働時間の管理」という
あたりまえのことから見直す必要があります。
そのほか、島田さんのところに相談に来る案件としては、
どのような事例があるのか?
・例えば「飲食店における開店前の下ごしらえの時間」、
「遠隔地の現場までの直行直帰の移動時間」、「トラックの洗車時間」などが
労働時間に当たるかなど。
・「うちの文化だから」という曖昧な言葉で
お茶を濁すようなことはやはりあってはいけません。
「社員にとっていい会社」として一番大事なのは
やはりきちんとした賃金を支払うというあたりまえのことを
きちんと果たすということとのこと。
本来なら労働時間にあたる案件を、
会社が認めてくれない場合にはどうすればいいのか?
・もっともシンプルなのは、労働基準監督署に相談に行くこと。
労働基準監督官が調査などをしてくれて現状を改善してくれるでしょう。
・その他には、裁判手続を利用して未払部分(過去3年分)を請求するという方法や
労働組合に加入して団体交渉で改善を求めることもできます。
・いかなる手法がベストなのかは、状況によって異なります。
必要に応じて弁護士に相談してみるのもいいとのことです。
労働時間のグレーゾーン、まだまだ難しい問題ですが、
今後向き合っていかなければならない問題です...!
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もう一度聴きたい! という方は
こちらから