ここからは第一生命経済研究所の藤代宏一さんに解説していただきます。

藤代:最近の円安、物価、金利動向について状況を整理します。

J.K. 1ドル145円を一時突破、政府は為替介入に動きましたね。

藤代: 驚きました。私を含めて多くの金融市場関係者は為替介入がないと予想していました。理由は介入だけで円安の流れを変えるのは難しいからです。これは過去の経験で証明されていて、実際、今回も為替介入前の水準に戻っています。また介入があるのか気になるところですが、為替の議論をする前に今回は「円安というよりドル高」という点です。

J.K. つまりドルだけが高くなって円が安くなる、ということですね ?

藤代: はい。米国の政策金利(短期金利)、年初の段階でほぼ0%だったものが年末には4.5%程度まで上がる見込みです。これはドルを保有する魅力が増すことを意味するので、ドルが買われるというわけです。重要なのは、現在ドルはユーロ、ポンド、韓国ウォンなど多くの通貨に対して上昇しています。決して円だけが日本固有の要因で安く(弱く)なっているのではありません。ドル高は世界的現象なので、日本政府だけが動いてもあまり影響はないと考えます。介入の有無にかかわらず暫くこの円安基調は続くと思います。

J.K. ただ円安となると日本の物価が上がり生活に影響はありますよね?

藤代: 現在の3%近い物価上昇は大部分が輸入価格の上昇によるものなので決して望ましくはありません。ただ一方で明るい話としては最近賃金が上がっていて意外と思われるでしょうが2%近いトレンドで上昇しています。実はこの状況は欧米諸国に比べるとある意味かなりいい傾向です。というのもアメリカの賃金上昇率は5%、それに対してインフレ率は9%。日本の比にならない強烈なインフレです。それゆえアメリカは金融引き締めで金利を上げて、意図的に景気を減速させ、賃金・物価を抑えるという状況に追い込まれています。イギリスはもっとひどい状況です。もちろん長期間続いた為替レート、低金利、物価の安定を考えるときつい状況にありますが、インフレのパニック度合いという点では落ち着いています。なので日本が景気対策で置いていかれたという論調はあてはまりません。また円安が進む一方で原油価格は下がっているので、来年には状況が少し良くなるかもしれません。