商品ジャーナリストの北村森さん:生活経済の観点から「新ジャンル(第三)のビールに逆風」について解説していただきます。
J.K.: まずビールは「酒税法」によってがんじがらめだったという印象ですが
北村: 今回の流れを理解するには、ここ30年間のメーカーの新商品開発を振り返る必要があります。1990年代前半のバブル崩壊後に、安い輸入ビールが市場を席巻しはじめる危機感から、麦芽の使用率を抑えた税率の低い発泡酒、例えばサントリー「ホップス」を発端に各メーカーが相次いで開発し発売したのがことの始まりです。ところが2003年に酒税法が改正。発泡酒が増税となると、2004年にサッポロビールが「ドラフトワン」を全国発売。これはエンドウタンパクを原料とした商品で、当時は発泡酒よりもさらに税率が低かったのです。これが第三のビール(のちの新ジャンル)の先駆けとして大ヒットしました。まさに涙ぐましい努力で低価格商品の研究開発を重ねて、市場に根付いていきました。
J.K.: そうした流れの中で、ビール関連の酒税はまたまた変わるんですよね。
北村: 去年の酒税法改正でビールの税率が下がり、2026年にはビール、発泡酒、新ジャンルの税額が一本化される方向になりました。こうした流れによって発泡酒と新ジャンルは増税(値上げ)となっており、売上は落ちています。特に新ジャンルの販売は1年間で26%の販売減という影響を受けました。
J.K.: 現状ではビール回帰という流れが見えるような気がしますが
北村: そう見えるのは、各社がビールの開発、販売促進に力を注いだ結果です。例えばキリンの「晴れ風」、サントリーの「サントリー生ビール」がその代表例。またアサヒビールは「スーパードライ」のテコ入れに注力。それが功を奏した結果の、ビールの再びの盛り上がりといえるかも知れません。ただしビール業界全体として、チューハイなどの製品に押される傾向も見てとれ、どう戦っていくかが問われる局面でもあります。
J.K.: 北村さんはどうお考えでしょうか
北村: 法律改正という外的な要因によって、売れる商品には変化が生まれるのは当然です。ただ流れをもとに戻すのは難しいかも知れません。とはいえ、ここ30年間のビール業界の流れを見届けてきた立場では発泡酒や新ジャンルの商品が果たしてきた功績はちゃんと評価したい、と感じています。本当に必死さが見て取れる開発物語がそこにありました。