昨年2022年10月からロンドンにて世界初演・舞台版「となりのトトロ」が上演されていました。イギリスの名門演劇カンパニーであるロイヤル・シェイクスピア・カンパニーが手がけた舞台版「となりのトトロ」(英題 "My Neighbor Totoro")、連日満員でつい先日1月21日に幕を閉じました。今朝は、その舞台版「となりのトトロ」で〈ムーブメント・ディレクター〉を務められた俳優の山中結莉さんと繋がり、お仕事内容や作品についてお話伺いました。

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JK 〈ムーブメント・ディレクター〉とはどのようなお仕事ですか。

YY 演出家の「求める世界」「欲しい絵」を創るお手伝いをすることです。例えば「となりのトトロ」の場合は日本でのお話、且つパペットも多用されているので、日本人らしい仕草などの細かい動き、そしてパペットの動きも世界観に合うようエクササイズを行いました。台詞を言うだけでなく、身体や心の奥底から動けることも目的にしました。

JK エクササイズとは、具体的にどのようなものですか。

YY 例えば"molding"という、粘土の中を粘土の圧を感じながら動くというエクササイズを行いました。所謂「ミュージカルのダンスの振付」ではなく、「場面の絵」を作るための俳優さんの動きのためのものです。また、それ以外でも「おじぎ」の指導をしました。おじぎ一つ取ってみても、日本に長く住んでいるのか否かがすぐわかりますからね。細かいところまでこだわりました。

JK 今回ムーブメント・ディレクターを務めるにあたって、一番の課題は何でしたか。

YY 24名のキャストの中には、ミュージカル出身者、台詞劇出身者、ダンサー、パペット、フィジカルシアター、など、異なる訓練をしてきた様々なバックグラウンドの人たちがいました。皆をまとめて共通言語を作っていくのが特に最初は大変でしたが、皆心がオープンでやる気あり、素晴らしいチームでした。

JK 「となりのトトロ」、ロンドンでの反応は如何でしたか。

YY 幕が開いて10日程で数ヶ月分のチケットが完売するほどの人気でした。SNSには「夢のよう」、「魔法のよう」、「感動して泣いた」というコメントが沢山ありました。スタジオジブリの作品だけあって、ファンタジーだけでなく人間臭い要素も沢山あり、深いテーマがシンプルに描かれているのが受け入れられたと思います。そして久石譲さんの音楽が素晴らしく、最初に稽古場で音楽が流れた時には皆ボロボロ泣き、感動しながら稽古していました。

JK 映像が有名すぎて、舞台版はイメージが違う、という反応はありましたか。

YY 正にその点を一番心配していました。我々が創り上げたものがどうやって受け入れられるかわからなかったので、幕が開くまで心配していましたが、想像を超える、イギリスの演劇史上に残る作品になりました。

JK ほぼ東洋人キャストということも異例なのでは?

YY 一番重要なポイントです。今ロンドンでもアジア系のアーティストが声をあげていて、トトロがその先導を切ったと自負しています。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーが我々を信じてキャストを 全員アジア人にしてくれたのはありがたかったです。演劇に関係ないアジア人コミュニティのお客さんもすごく勇気づけられたと聞きましたし、この事実はとても意義のあることだったと思います。

JK 〈文化コンサルタント〉も担われたとのことですが、所謂西洋からみた東洋のステレオタイプと一線を画したいというお気持ちもあったのではないでしょうか。

YY 仰る通りです。アジア系の俳優でも日本人じゃなかったり、日本に住んだ経験がなかったりすると、知らないことが多く、知らないことはやりようがないですよね。「リアルな日本」の世界観を創るために、最後まで細かい指導を続けました。

舞台版「となりのトトロ」ロンドンでの再演、そして日本での上演を楽しみにしています。そしてアジア人が活躍する舞台がロンドンで更に展開されるよう、祈っております。