今朝は、サステナブルな養殖の世界にフォーカスします。高級食材として知られるキャビア!「黒い真珠」なんて呼び方もされたりしますが、その生産の仕方に新たな革命が起きているんです。動物愛護の観点からも、環境の面からもサステナブルな配慮が行われているというチョウザメフレンドリーなキャビア養殖。

今日は、スウェーデン発のキャビア陸上養殖企業「Arctic Roe of Scandinavia」の代表、トービョルン ランタ(Torbjörn Ranta)さんにお話を伺いました。

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まずは、こちらのキャビアの生産方法について伺いました。

かつてはヨーロッパ最大級だった製紙工場の建物を再利用したというこちらの養殖場。現在、およそ2000匹のメスのチョウザメが飼育されていて、彼らの一番の目的は、チョウザメの命を守ること、なんですね。およそ24ヶ月ごとにキャビアを取り出す作業が行われるそうですが、持続可能性を重視し、魚を殺さず、キャビア、要は卵だけを取り出すというアプローチが取られています。この手法は、バルト諸国から学ばれたそうなんですが、その工程は、まさに人間の出産と同じ。人間は、妊娠からおよそ10ヶ月後に赤ちゃんが生まれますが、チョウザメの場合は、平均すると、10~27ヶ月間。こちらの養殖場では、平均18ヶ月間で、出産となっているそうです。X線のスキャンを使って、出産が近づいているかどうかを確認して、その時期を見極めている、ということなんです。

では、実際に、チョウザメの命を奪わずにキャビアを取り出す方法、どんな手法が取られているのでしょうか?

まず、専門家が魚の状態を確認して、卵が生まれる直前のタイミングを見極めます。そして、卵を取り出す際は、魚を優しく、ゆっくりと押す、圧力を加え20240607f02.jpgるという方法です。すると、まるで火山の噴火のようにして卵が出てきます。それを容器でキャッチするという技術。

これまでのキャビア生産の伝統的な方法は、魚を殺し、解体し、卵を取り出すというもの。魚も食用として使われていますが、魚を殺さないほうがずっといいですよね?

というランタさん、とにかく、魚を傷つけないように、優しくマッサージするのがポイントだそうで、一番の目的は魚を生かすこと、たとえお腹の中に卵が残っていても無理に出そうとせず、母体ならぬ魚体を最優先すること、なんだそうです。よりクリーンで持続可能で、私たちにとっても快適というメソッド。

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そして、このチョウザメたちには、3ミリほどの小さなマイクロチップが埋め込まれていて、魚体が管理されています。それぞれに名前もつけられ、2000匹の名前がマイクロチップの番号とともにエクセルファイルに記載されているそうなんです。創業から5年。2021年からマイクロチップによるトラッキングを始めたこの養殖場ですが、チョウザメを殺さないことから、何回も出産できるそうなんです。この4年で3回~5回の出産を行っているというチョウザメたち、科学的には10回も可能と言われているそうで、今後もその生産性に注目が集まるところです。

今までのキャビア生産とは全く違うこのアプローチですが、ランタさんたちは、なぜこの養殖場を始められたのでしょうか?

現在62歳というランタさん、これまでロシアでの原油生産や東部での金生産に携わってこられたそうで、東ヨーロッパでは、スカンジナビアのサーモンのように、どこでもチョウザメを目にしていたそう。そんな中、2003年に石油田の探査中にチョウザメの養殖場に偶然出くわし、思わず、心の中で「素晴らしい!」と叫んだのだとか。

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いつか母国で同じことをやってみたいと思ったそうなんです。そこから15年かかったものの、やっと実現できた、ということなんです。

このプロジェクトには百人以上の株主が参加していますが、全くお金儲けのためではなく新しい産業、新しい手法を立ち上げることを目的にやっている、とお話しくださいました。

実際に養殖ではなく、従来の方法で行うキャビア生産より30%から40%も多くの経費がかかるというこの方法ですが、消費者には、少し、価格が高くても、こういった生産方法で作られたものを食べてほしい、と願っているそうです。

優しい生産方法で作り出されるキャビア、その評価についても伺いました。

5年前に始めたときは品質の問題があったそうですが、5年の努力で知識を磨き、今日ではスウェーデンと日本のミシュラン星付きレストランで提供されるまでになっています。そして、昨年、ストックホルムで開催されたノーベル賞の晩餐会でも振る舞われ、ノーベル賞受賞者やロイヤルファミリーを含む1350人のゲストにキャビアを提供しましたが、みなさん、満足してくださったようです。自分たちの能力を過大評価するつもりはありませんが、かなりの評価なんじゃないかと思います。

現在は、スウェーデンのマーケットシェア10%を獲得しているそうです。では、最後にランタさんにおすすめのキャビアの食べ方も伺いました。

金曜の夜に奥様とキャビアを楽しむというランタさんですが、シンプルな食べ方としては、フライパンにバターを溶かし、パンを軽く焼いて、パンの表面に薄いバターの膜ができたような状態で、レモンや玉ねぎなどの酸味のある食材は使わず、純粋なキャビアをのせる、これだけです。

また、これまで一番美味しかったのは、スウェーデンのレストランで食べたもので、オーブンで牡蠣をグリルし、バターを加え、その上に、キャビアを大さじ1杯たっぷりと乗せるというもの。焼いた牡蠣と私たちのキャビア、バッチリの相性ですよ、と教えてくださいました。

今日は、スウェーデン発のキャビア陸上養殖企業「Arctic Roe of Scandinavia」の代表、トービョルン ランタ(Torbjörn Ranta)さんにお話を伺いました。

川のほとり、建物の3階で、素晴らしい環境のもと、養殖されているというチョウザメ。環境にも、動物愛護の観点からも優しい陸上養殖の形、広がって欲しいもの。こちらのキャビアは日本にも輸入されており、ミシュランガイド東京の一つ星レストランL `ARGENT(ラルジャン)で提供されているほか、銀座三越の地下3階 フレッシュマルシェなどでも販売されているそうです。