小田急江の島線、鵠沼海岸駅。改札を出ると、海の空気が街にただよっています。
夏の風のなか、取材スタッフを迎えてくれたのは、かき氷専門店「埜庵」の店主、石附浩太郎さんです。そもそも、かき氷のお店を始めようと思ったきっかけからうかがいました。

「36歳のときに会社を辞めてるんですけど、その前に、秩父で天然氷のかき氷を食べたのがきっかけで、すごく天然氷に魅せられて、、、ゴールデンウィークの暑い日だったんですけど、娘とドライヴで出かけて、たまたま食べたかき氷が今までとは違う、本当に衝撃的で、それからかき氷というものに興味を持ち始めて、食べていくうちに天然氷という素材そのものに魅かれていって、天然氷っていうのと かき氷っていうのと2つのキーワードが自分のなかで大きくなっていった、ということですかね」
2003年、石附さんは、鎌倉の小町通りで屋台のかき氷屋さんを始めました。2年後、鵠沼海岸の 今の場所へ。一軒家を使って、「埜庵」の営業が始まりました。つづいて、こんな質問。氷をけずる際のポイントは どんなことなのでしょうか?
「美味しく作るっていうのは、丁寧にけずるしかないんですね。テクニックで美味しくけずれるわけではないので。やっぱり一杯一杯丁寧にけずっていくのが第一なんですけど、ただ夏場 何百人ものお客さまでずっと一日中けずらなくてはならなくなると、質感が暴れないという意味でのテクニックは存在するんですよね。氷の固さとかそういうものをけずり手が判断して、刃のあたりの強さなどを調整できるようだとうまく美味しいかき氷ができるんですけども、そこは経験なので。何年ということではなくて何杯けずっているかということだと思います」
大事なのは、テクニックではなく、丁寧にけずること。そして、氷には、細心の注意が払われます。
「冷凍庫にいれておくとね、冷凍庫と同じ温度で保管されているので、だいたいマイナス20度くらいになっちゃうことが多いんですよね。マイナス20度だと体温が36度くらいだとすると60度くらいの差があるので、それがやっぱり体のなかにポーンと一気に入ってくるとキーンとしちゃうとかそういうことになるので、それをマイナス2度くらいまで持ち上げてあげて、具体的にはうちで言うと、前の晩に冷凍庫から出して発泡スチロールの箱で一晩寝かせてから使うんですけど」
「埜庵」のかき氷には、フレッシュなフルーツから作ったシロップがかけられています。例えば、生めろん、桃、パイナップルに ゆずみかん。
「分解して新たなものとして作り替えるという作業をしていますけど、この時期でいうと溶けてしまうことが多いので、最後溶けたときに100%のジュースよりも美味しい形でお客さんに飲んでいただけるように、ということで、濃縮をかけたりとか味を強く出したりとかそういうことを心がけています。最後まで1滴も残さずに、それは大事な氷を最後まで体の中に入れていただく、ということもありますし」
大事な氷を最後まで体の中に入れていただく

そう語る、「埜庵」の店主、石附浩太郎さん。かき氷への想いを語っていただきました。
「日本のかき氷っていうのは、水を食べるっていう点で他の国の氷菓とちがう、氷をけずってそこにシロップをかけて、水を食べるという形に加工したのが日本人のセンスっていうか、だから僕は日本食のひとつ、日本の食文化のひとつだと思っていますけど。それで、うちでいうと氷の食べ方にこだわっているということですね。僕らみたいな天然氷から入っている人間は、あくまでも かき氷を作っているというよりも、自分たちが冬の間作るのに関わっている天然氷っていうのをどういう形で出したら一番喜んでいただけるかなというのが、そもそものスタートなんですよね。なので、美味しいかき氷を作っているというよりも、この天然氷をどういう形でみなさんにお届けするのが一番正しいのかをずっと考えてきたということですかね」
鵠沼海岸の「埜庵」。季節の移ろいを感じながら、きょうも、日本の食文化のひとつ、かき氷を作ります。
「鵠沼海岸って、都心のようなゲリラ豪雨もないですし、ヒートアイランドもないですし、自然と向き合っている土地柄というか、2時3時くらいになってくると海の風が涼しく感じたりとか、暑さのなかにも暑さがあって、涼しさのなかにも涼しさがあるというのがよく分かる土地なので、かき氷なんかを召し上がっていただくには土地としてもいい場所だと思いますね。やっぱり、どんなに美味しいかき氷でも暑くないと美味しくないし、氷そのものも寒い冬がこないといい氷はとれないですし、そういう意味では自然に寄り添いながら生きているという感じがすごくあるので」
寒い冬を越えた天然氷を、一番いい形で味わってもらうこと。暑さのなかの涼しさを感じてもらうこと。海沿いの街で自然と寄り添いながら、「埜庵」の営業は続きます。
●埜庵
夏はとても混んでいるため、整理券が配布されています。「夏休みが終わると少し落ち着くのでできればその頃のほうがおすすめです」とのお話でした。より詳しくは、「埜庵」のホームページをご確認のうえお出かけください。