先月リリースされたSuchmosのニューアルバム『THE KIDS』。その発売に先立って届いたリードトラックは、"A. G. I. T."。予想は完全に覆されました。それは、大ヒットとなった"STAY TUNE"のような、聴き心地の良い曲ではなかったのです。

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このアルバムにも収録されている"STAY TUNE"が入っている『LOVE & VICE』と、"MINT"が入っている『MINT CONDITION』という2枚のEPを経て出されるアルバムの1曲目はどんなだろう?というのは、例えば、俺がひとりのリスナーだったらすごく気になる部分だと思うんです。そこを素直に"STAY TUNE"的な新曲とか"MINT"的な新曲だとしたら、俺だったら失望すると思うんですよ。ひよったなSuchmos、みたいな。(笑)同じじゃつまらない、というのは俺らがバンドとしてずっと持っているスタンスなので、だから"A. G. I. T."ができて、『こんな曲、今どきリードにならないでしょ。』みたいなのをやっちゃおうぜ、っていうことで。」

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Suchmosはこの曲について、『フジロックフェスティバルのホワイトステージへの出演が決まったことで、2万人が詰めかけるステージに映える曲を作ろうと思った。』そう語っています。こんなエピソードを思い出しました。プリンスが『Purple Rain』のようなど派手なアルバムを作ったのは、巨大なスタジアムでライヴをやるようになったから。

「"A. G. I. T."に関しては、プリンスを意識してつくったわけではないけど、できあがったものを聴いて、"これ、プリンス的だぞ"と思ったりしていて。でかいところを目指したい、というのは、どのアーティストもそうだと思うんです。この先、1万人といわず、2万人、3万人、4万人。とにかくどでかい会場をわかせるようなバンドになっていくぞ、という意思表明の曲という意味で、この曲ができたこと自体バンドの向かう先を示しているというか。何ていうんでしょう、バンドの狼煙というんですかね。」

アジトから、狼煙があがりました。『攻め』の姿勢は、YONCEさんのリリックにも表れています。例えば、"TOBACCO"というナンバー。

2015年、初めて自分たちが音源を出した年に、いろんなイベントに出させていただく機会があって。それらのイベントでいろんなアーティストのライヴを見て、中には俺たちに刺激を与えてくれたり、しびれるようなパフォーマンスをする先輩や同世代がいたりしてすごく勉強になったんです。でもその反面、似たような景色が広がっている会場とか現場も多くて。なんか手をあげなきゃいけないっぽい、とか、どうやら暴れなきゃいけないっぽい、みたいな。心底楽しくもないのに同調圧力でやっちゃってる人もいるだろうと思ったんです。俺は同調圧力的なものがすごく嫌なので、それをちゃんと歌にしたためてみようと思って。あと、俺はタバコという嗜好品についても同じことを感じていて、喫煙所とかに行くとみんなまずそうに吸ってるんですよね。時計をちらちら見ながらとか、携帯電話で見えない相手に謝りながら、さぞまずそうに吸ってるんです。タバコってそうじゃないじゃんっていうのがすごくあって。そういう同調圧力ですね、何かに屈しそうになっている人をレスキューしたいと思って、この曲を書きました。救うぞ、俺がっていう。(笑)」

YONCEさんにもうひとつ聞きたかったのは、Suchmosの音楽づくり。作曲のクレジットは、すべて"Suchmos"となっていますが曲は、どんな風に生まれるのでしょうか?

「誰かが曲をまるっと作って持ってくるというのは、ほぼなくて。6人でスタジオに入って、ジャーンって楽器を鳴らして、ジャムセッションしている中で、途中でギターが弾き始めたそのリフがかっこいいからそこから曲を広げようとか。鍵盤のコード進行がかっこいいからそこから始めようとか、そういうジャムセッションをしている中から曲に発展していくことが多いです。その中で俺はアドリブで鼻歌をのせていくんですけど、そのメロディいいじゃん、というところから、今度はそのメロディにあうコード進行つけて曲にしようよとか。だから、逆に6人で音を出せなければ曲が作れないっていう。それぞれの6人のアイディアのパス回しみたいな感じになってます。それで面白いゲームになっていく、みたいな。サッカー的な感じです。でも、ほんと俺らのスタジオ見てると面白いと思いますよ。バルセロナ的なことになっちゃってると思います。(笑)」

週に一度は、スタジオでジャムセッション。Suchmosが愛するこの時間と空間から、音楽が産声をあげます。さらに、Suchmosの6人には、大切にしていることがあります。それは、一緒に音楽を聴くこと、音楽について話すこと。

「俺らの会話は6人集まるとなおさらそうなんですけど、『誰々の新譜聴いた?』とか、『あれのBメロのシンセやばくね?』みたいな話をしたり。だから、聴いたものがすぐ自分たちの音楽づくりにフィードバックされるんです。例えば、アナログでしか出てない誰かのアルバムを手に入れたよっていうときに、『じゃあ、ちょっとみんなで聴こうか』っていう場をちゃんと設けたりとか、そういう時間を大切にしてます。6人で集まる場所とか、6人で集まる時間を。」

音楽の、ジャンルを横断。時代を縦断するSuchmos。自分たちのことは、どんなバンドだと思っているのでしょうか?

「ロックバンドですね、ロックバンド。なんか、音でいうロックという話じゃなくて、姿勢がロックっていう。むしろ、姿勢がロックじゃなければ音がどれだけロックでもロックバンドじゃないと思うので。例えば、ジャミロクワイとかはロックバンドだと思ってるんですよ。アシッドジャズとか呼ばれてるけど、彼らの発言してることとか態度とかはすげえロックだと思ってるし。そういうことのほうが俺はロックにとって大事だと思っているので、最近のSuchmosは完全にロックだと思います。

例えば、歌詞とかもそうですけど、まず、嘘をつかない。嘘をつくやつはロックじゃないと思うんで。かっこいいと思うものを信じることについて、嘘をつかない人たちがロッンローラーとか、ロッカーだと思うんで。」

Suchmosの魅力。創造力に富み、冒険心もあって、そして何より勇気を持っている。

「根拠なんかなくても、Suchmosっていうバンドを結成して、まだちゃんと音源を出すことも何にも決まってない時点で、なぜかもう勝ったみたいな気分。何かに優勝したみたいな感覚で音楽をやってきてるので、この先何があるかまったく自分たちの未来について想像ついてないけど、まあ、ぶちかますでしょ、ぶちかませるでしょ、みたいな。まずこの6人が集まって音楽をやってる時点で"無敵"みたいな。6人で音楽をやることが大前提、そして、この6人で音楽をやってる時点で最強!みたいな...小学生みたいな話ですけどね。(笑)」

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好きなものを追求すること。自由であること。仲間がいること。Suchmosはその存在自体が、今の時代へのメッセージ。ロックとは、音のことではなく態度のこと。大いなる野望を胸に、ロックバンドが、アジトから出撃します。