今回は池袋にある【南池袋公園】のHIDDEN STORY。

池袋駅の東口から5分ほど。ビルの谷間に 緑の空間が広がります。芝生に寝転がる人、遊んでいる子ども達、ウッドデッキで本を読む人、何人かで笑い合うグループ。公園にあるレストランもにぎわっています。しかし、この場所、以前は暗くて近寄りがたいイメージでした。いったいどんな工夫がほどこされているのか?そのおだやかな空気はどうやって生まれているのか?株式会社 nest、代表の青木純さんにお話をうかがいました。

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nestは、この南池袋公園の日常の風景のデザインというか、出来事を起こしていくとか、風景をつくるとか、そういう形で関わっています。2016年にこの公園のリニューアルイベントがありまして、通常の行政がやる開園の儀式は来賓を呼んでテープカットしたり『できたこと』をお祝いするイベントが多いんです。でも、どちらかというと、この公園がこの先どうなるかという、理想の未来をつくるほうが市民にとっては大事なんじゃないか?ということと、公園というのは公共の場所であり、誰でも来れる場所です。ただ、誰でも来られるということは、ややもすると顔の見えない方の苦情なんかも集まるんです。日本じゅうの公園に【禁止看板】がたくさん立っているのは、いろんな人の意見が集まった結果になっちゃうんです。公共の場所でも顔の見える存在がそこにいるとか、理想的な使われ方の風景がひとつあれば、そういう公園の過ごし方をしたいと思ってくれるんじゃないかと思って、一番はじめの4月2日は、豊島区で僕が知っているいろんな方をお呼びして、めいめいに公園の過ごし方を実践していただきました。」

リニューアルオープンの日、どんな過ごし方が提案されたのかというと・・・

今も行っていますが、マルシェのある街は楽しい街ということで、公園のなかでマルシェをしています。地元のお母さんとかものづくりを手仕事でやってらっしゃる方に来てもらったりとか、池袋は良品計画さんのお膝元であり、この公園は防災公園という意味合いもあるので、彼らのコンテンツである『いつものもしも』というものをやってもらったり。あとは、公園のなかだけで起こらないことも持ち込みたいと思ったので、ブックトラックという移動式の本屋さんが来たりもします。そして、芝生がとてもきれいな公園なのですが、いきなりボール遊びをしちゃう人がでると公園の使い方が無秩序になるので、ヨガをやっていただく方を呼んで、定期的にしてもらうんです。ヨガのある風景がそこにあると、ボール遊びをする人はいないですし、小さい子どものいるお母さんにたくさん来ていただいて、芝生と触れ合ってもらったり、そういう風景もいろんな人に来ていただいてやりました。」

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最初の日の光景をずっと続けたい。去年の春から、豊島区と株式会社nestが契約をむすび、南池袋公園周辺のにぎわいをつくる、というプロジェクトを始めました。

「実際ににぎわいを創出するといっても、にぎわいという言葉は定義しづらいんです。僕らが豊島区さんとお仕事をしていくなかで、公園で日常的にマーケットがおこなわれる状態をつくりたいということで、4月から土曜日だけですが、毎月第3週の週末に【nest marche】というマルシェを開催しています。これは、公園とグリーン大通りを中心に手作りのものとか、美味しい食べ物、あたたかい飲み物や季節によっては冷たい飲み物を提供するマルシェです。あとは、公園という空間の可能性を広げていきたいと思っていまして、今までに公園のなかでウェディングをされた夫婦の方もいらっしゃいました。花嫁さんがドレスを着て芝生をヴァージンロードのように歩かれる。偶然、公園に来た人が花嫁を見て拍手を送る、みたいな風景があったり、あとは、公園でのアウトドアシネマです。それ以外にも、グリーン大通りというストリートも公園と一体として感じてもらえるように、マルシェのときにハンモックを置いてみたりとか、その回りで美味しいフードを出すフードトラックが乗り入れたり、ということもやったりしました。」

さらに、去年の秋にはこの公園を中心に大きなイベントも開催しました。

「去年の11月にIKEBUKURO LIVING LOOPという、1年で一番大き都市型のイベントを企画したんです。池袋というとデパートとか家電量販店みたいな大きな商業施設がたくさんあって、住むイメージがあまりないですよね。街なかをゆっくり歩く街ではないんです。そういう商いの街とか、ちょっと危ないイメージのある池袋が、子育て世代にも安心安全で暮らしやすい街に生まれ変わるきっかけになればということで、池袋とリビングという言葉をかけあわせる。あとは歩いて巡る楽しみを感じてほしいので、ループという言葉をあわせて、良品計画さんなんかと協力しながらストリートファーニチャーを置いてみたり、アーティストがライヴをやったり。公園は無目的に来た人が長くいるきっかけになるんですが、日本のストリートというのは車のための空間だったり歩くためだけの空間になってしまっているんです。そんな場所に一日4時間とか8時間、ゆっくり過ごしてくださる方がいて、公園から始まった取り組みがストリートだったり街全体に広がって行く、というのが今の時点での成果かもしれないです。」

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IKEBUKURO LIVING LOOP、次回は5月に予定されています。

「この公園は夜も結構よくて、夏はビールを芝生飲んでいる方やグリルを楽しまれている方もいます。いま豊島区がアフター・ザ・シアタ―という構想をあげていて、もともと池袋は西口の芸術劇場をはじめとした劇場都市なんですが、観劇をしたあとに街なかの夜を楽しもうよと、ナイトエコノミーを公民連携で起こそうとしているムーヴメントです。なので、次回のIKEBUKURO LIVING LOOPは5月の金曜夜からスタートして、陽気も一番いいですし、外で音楽に耳を傾けながら大人がお酒を楽しんでいる、というようなことも都市の豊かな風景としてはとてもいいんじゃないかと思っています。公園から街を変える、というのは今の日本でとても大事なんじゃないかと感じていて、僕自身も、実際にニューヨークや北欧のフィンランドやスウェーデンのストックホルムに行って、街の人が屋外の公共空間を気持ちよく使っているというのが、欧米の文化としてあるなと思うんです。アジアでは台湾とか香港とかもそうですが、日本だとお祭りくらいしかイメージがわかない。もう少し外の空間を楽しむ文化が生まれると、街の満足度が変わってくると思うんですよね。」

屋外の公共空間を もっと楽しむ文化を。そのきっかけとして、公園がある。株式会社 nestの代表、池袋ご出身の青木純さんは、そう語ってくれました。南池袋公園は、これからが 一年で最も過ごしやすい時期。緑の季節を迎えます。